<プロローグを読んでのレビューです>
冒頭から戦闘機の警報音と赤い光に包まれたコクピット。臭い、振動、音といった要素が立ち上がり、読者を一気に閉じられた機内に引きずり込む。緊張感を演出する描写が過剰に流れることなく、淡々と並べられているため、かえって迫真性が増しているのが特徴だ。やがて仲間との短い通信が入ることで、死地に立つ主人公の位置づけが鮮明になる。
個人的に印象的だったのは、
「マスク越しじゃ、死に顔も味気ないだろ」
という一文である。戦闘と死が目前に迫る中、ユーモアとも諦観ともつかない言葉を発することで、むしろ彼の生そのものが際立って見える。戦場であっても人間的な響きを失わない、その一瞬に強く惹かれた。
全体に、死と生の境界が静かに、しかし鮮やかに描かれている。プロローグという冒頭部分でありながら、物語の核にある「狭間」をすでに提示しており、この導入の確かさに自然と引き込まれた。