愛されヒロインなんて願い下げ
もちごじゅう
プロローグ 【前田晃明】
月の見えない夜。しかし、現代日本において暗闇などは存在しない。日本人は電気という武器で、今日も夜の街は明るく輝く。俺が居るビルからも、その夜景が綺麗に見える。
「なんで、ひとり悲しく残業なんかしてんだか……」栄養ドリンク片手に、夜景を見下ろす。この悲しみに満ち溢れたつぶやきすら、誰かの耳に入ることはないのであった……。
俺は前田晃明(マエダテルアキ)どこにでもいる普通の29歳。現在は恋人はおらず、独り身生活にも慣れてきた頃。会社でもそれ何の評価を受けて、割と充実した日常を送っている。
「最後に実家に連絡したのいつだっけな」ふと、田舎の家族のことが頭をよぎった。
俺の実家は、東北地方の片田舎。自動車のエンジン音より虫の声の方が多い、まさに絵に書いたようなド田舎である。
大学進学と同時に田舎を出て、そのまま就職。気がつけば正月すら帰省しないような生活を送っていた。
「だーっ!現実逃避終了!!!切り替えてけ!!」喝を自分に入れて、持っていた栄養ドリンクを一気にあおる。よし、この繁忙期が終わったら休みを取って実家に帰ろう!!そう腹を括った。残りの仕事はあと少し、これも責任ある立場になった証拠だ。そう自分を鼓舞しながらディスクへと戻ろうとする。
そんな俺のスマホに通知が入る。
「星リリ フリード様ルート攻略進めるよ」
うわ……またリアタイ出来ない。喝を入れたばかりなのに、気持ちが若干萎えた……。
これは、俺が見ている配信者の告知ツイート。キレのあるツッコミと、軽快なトークが売りの配信者だ。ここ最近は、「星の世界とリリアナ」というゲームをプレイしている。俺自身あまり乙女ゲーには興味がなかったが、なかなかに面白いゲームである。つい全配信を追ってしまうくらいには。
ふーっと息を吐いて気持ちを切り替える。凹んでいても仕方ない。今度の休みにでもアーカイブを楽しもうじゃないか。
そうして1歩踏み出した瞬間。
「カハッ……っ!」
突如、息ができなくなった。
心臓の辺りが異様な痛みに襲われる。
脳みそが必死に警戒音を鳴らしているのがわかる。
「きゅう……きゅうしゃ……」
徐々にぼやけていく視界の中、必死にスマホを操作しようとするも思うように体が動かない。
手足が痺れ、気がつけば顔が床に近づいていた。いや違う、俺は倒れているのだ。
もう、なにもみえない
そうして、俺の意識は暗闇の中へと消えていった。
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