第12話
パチパチと爆ぜる火の粉に紛れ、生徒たちは踊る。燃え上がる炎に照らされた顔は、皆幸福を浮かべていた。
とっぷりと暮れた夜、後夜祭も終盤。広い広い校内を静寂が包み、騒がしいのは運動場だけ。周囲の明かりが消えた状態では、星もよく見えていた。
「柊」
手を掴んで、踊りの輪の外側、光がやや弱まっているところに柊を連れ出した沖田。正面から柊を見つめている彼の目は、炎を受けてキラキラ輝いている。それを目にした彼女は、うっとおしそうに顔をゆがめ、不機嫌を隠そうともせずそっぽを向いた。
「無理やり連れだしてごめん。どーしても柊に見て欲しいものがあったんだ」
「何?さすがにその前振りでつまらないものがあったら殴ります、暴力ふるって帰るよ。横暴すぎる、いかに寛容なヒイラギお姉さんでも許せません」
「本当にごめん」
目をそらして、早口で。いつものように話す彼女に、沖田は頭を下げる。それに少々ひるんだのを見逃さず、彼はガッと柊の手を握りなおした。
「でも!後悔は絶対させねーよ、だから、見てくれ!」
「み、見てくれって、何を」
「俺の、踊り!!」
流されていた曲が変わる。軽快なポップスから、穏やかな曲調のものへ。戸惑う柊に沖田は笑い、するりと手を放す。曲に合わせて体を揺らした後、目つきを変え、タンッ、と踊り始めた。
「いやうっま」
思わず声が漏れる柊。さらさらと水のごとく踊る彼は、素人目から見ても非常に卓越した踊りをしているのが分かる。どの辺りがすごいとか、言語化はかなり難しいが、何も分からなくても楽しめる、そんな踊り。柊も体をちょっと揺らして彼を見守り、踊り終えるのを待つ。
やがて、曲の終わりとともに彼は踊りきって。こぼれる汗を体操服で拭いつつ、キラキラした目を柊に向ける。
「どうだった!?」
「ア。と、とてもよかったと思います。なんで私に見せたのか分かんないけど。あの踊りが、私に見せたかった?」
「うん。俺、家が舞踊の家元だって前に言ったろ。その稽古の成果、柊に見せたくてな」
「そりゃ、見栄えも良かったし、良いモンとは思いましたけど。わざわざ月島達から離す価値があるかっていうとちょっと、これだけが目的ならもう帰って良い?沖田の踊りの良さに免じて無理やり連れだしたのは許すから。そろそろ好きな番組始まるんだわ、予約したか不安で……」
不機嫌は治ったが、なんだか拍子抜け。そんな顔をした柊は、若干呆れたように頬をかいて、足先を校門の方へ向ける。慌てて沖田が腕を掴み、再び柊を引き留めた。
「待って、ちげーんだ。柊に判断して欲しかったんだよ、俺の踊り、映画に使えるか!」
「……踊るシーン入れたいってこと?」
「おう。『橘』により近付けるなら、踊ったらいいんじゃねーかと思って。エンドロールでもいいから、そしたら、俺はもっと『橘』のこと理解できる」
沖田が演じる役、『橘 夜月』。その役の解釈が合ってるか聞くためだけに、沖田はヒイラギを連れ出し、目の前で踊ってみせた。強引な手段だったのは自覚しているため、謝りながら、それでも真剣に柊のことを見つめる。ギュウ、と手に込める力も強くなり、柊が顔をしかめたころ。
「いいんでねえか。そも沖田の映画じゃん演出だって脚本だって好きに口出せっていつも言ってんじゃんか、別に不安がる必要ないんですよてゆーか踊りのシーンかなりの天才なのでは?『橘』は沖田のために作った、沖田が沖田らしく『橘』を演じられるならなんだってやって良いよ。解釈違いにならない限りは」
と、ひと息。ブン、と沖田の手を振り払いつつ、柊は言う。何でもないことを言うような彼女の態度に、彼は再び、目を輝かせて。
「やった!じゃあ入れる、ありがとう柊、ありがとう……ッ!!」
「オブェ」
ギュウ!と今度は体ごと抱きしめ、全身で感謝を伝えた。
告白成立と勘違いした周囲が囃し立てたのは、その後の話である。
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ゲキジョウ・懐・をとめ あしゃる @ashal6
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