薄明に染むカデンツァ 〜無尽蔵の霊力を持つ私と霊力を奪わないと死んでしまう少女が出逢ったら〜
まんぼ云々
序章 運命の出逢い(ベーゼ)
運命の出逢い、というものを知っているだろうか。
例えば、煌めいた雷光が全身を突き抜けるような。
例えば、色褪せた世界が鮮やかに彩られるような。
そんな全てがひっくり返るような、鮮烈な出逢い。
それこそが運命の出逢い、なのだという。
ならこれも、きっとそういう出逢いなのだろうか。
そう、私は自分の置かれる状況に他人事のような分析をする。
「っ……ぅん、む……ぁふ……っ!」
「んむ……ふ……ちゅ、れる……」
私はキスをしていた。
喉奥を越え、心臓まで
突き刺さるような深い繋がりで、彼女は舌を絡めてくる。
口腔内の全てを蹂躙する肉欲の大蛇が、強張る私を巻き取って口蓋や舌の裏を容赦なく滑って、私の腰を奥から来たる電流が震わせて、そのまま背骨を火花が這い上がる。
息する暇も無く、意識に靄がかかる。脳の中で信号が弾ける。
そうして繋がれば繋がるほど、奇妙な感覚が全身を支配する。
身体の『内側』が逆撫でられて、骨抜きになるような、何かが全身から唇に集まって、それを吸い取られるような、感じたことのない性感かもわからない感覚が、脳を更なる混沌に誘う。
私は、何が原因なのかもわからない涙を
にも関わらず、彼女の金色の瞳はあまりに眩くて、捕食者の双眸は、境界のない視界に浮かび上がるように明確だった。
「んぐ……、ん、ぷぁ……!っはぁ……はぁ……」
「ぷは…………んー……へぇ、なるほどね……」
満足したように唇が離れ、私は腰を抜かして崩れ落ちる。
脱力感で身体も動かず息も絶え絶えで、地面についた掌に僅かに深紅が付くことすら気にできなかった。
そんな私を、彼女は見下ろす。
夜に溶けるような濃紺の長髪、生気すら感じない透き通った白い肌。
彫刻のように精悍で、絵画のように滑らかな美貌は、輝き焦がすような存在感を放つ金色の瞳の前にはそれすら霞んでいた。
身に纏う制服は長袖のシャツを捲って、危ういほどに短い丈でスカートを靡かせている。随所から覗く黒いベルトやチョーカーが拘束具のような印象で、制服と合わさるとどこか背徳的だった。
そして、その本来穢れを知らないはずの制服には、惨劇による赤黒い飛沫が深く染み付いている。
その非日常的な
「あんた、随分漏れてると思ったら……やっぱりそういうことなんだ」
「はぁっ……はぁ……っあぅ……」
彼女の細い手が頬に添えられる。
その手はあれほど情熱的なキスを交わした割にはひんやりと冷たく、それが火照った身体には心地よかった。
「おっさん達にノーマーク……なんでか知らないけど、まあいいや……渇いてたし、気弱そうだし……良く見たら同じ高校だし」
品定めされるような視線。
長い睫毛が月明かりに影を落として、金の眼が私を映す。
「あんた、これからはあたしのエサね」
満足そうに目を細め、先ほどまで私を乱れさせた唇が弧を描く。
玩具を手に入れた幼児のような、満足げな笑みだった。
私は全身に蔓延っている虚脱感と、未だ響き続けている甘い痺れ、何もかもが現実に思えなくて、曖昧に思えてきて────────。
(きれい……)
ただ彼女に見惚れるまま、その意識を手放した。
────後に思う。
この出会いは正しく運命の出逢いで、私という存在が生まれ変わり始めた、その最初の日なのだと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます