第5話 変わる日常

「……うーん、昨日はちゃんと負けたな、うん」


 寮から出た俺は、悠々とした足取りで学園に向かいつつ、昨日の敗北を噛み締める。まぁ試験自体は合格だったけど。あんなバケモンと戦わされて合格じゃないならやめてるね。生物学は未だ補習です。

 

 昨日の補習試合は完敗も完敗、手も足も出なかった。

 それは一朝一夕で越えられるものじゃなく、例え観客がおらずとも、俺の負けは変わらなかっただろう。


 いや、強すぎで草。

 やっぱ同い年じゃないだろ。同い年なんて信じたくない。


「やっぱ才能ってクソだな」


 いや、クソなのはこの世界か、なんて俺がうんうんと力強く頷いていると。


「またそんな言ってんのか? テメェも良い加減諦めろよ」


 黒と白の制服を着崩した1人の男が、けッ、と舌打ちする俺の隣に並び、歩く速度を合わせる。

 俺の目線の高さと同じ所にある、まだ子供っぽさが残っているものの十分にイケメンと言える端整な顔。この世界では日本で言う黒髪レベルで一般的なくすんだ金髪。

 耳には、魔法媒体だ、などと抜かして一向に外さないピアスが幾つもついていた。


 そんなチャラ男兼寮のルームメイト——レイ・ヘイレスタリスに、俺は肩を竦めてチッチッチッと人差し指を揺らした。


「ばっか、分かってねーな。諦めたらそこで試合終了なんだよ。つまり、諦めなかったら、いつか才能才能言わない真の平等世界になるかもしれないってわけよ」

「無理だと思うがなぁ……」

「まぁお前が優等生になるくらい無理だわな」

「ハハッ、違いねぇ」


 何同意してんのこの人。

 分かってんなら俺みたいにちゃんとしろよ。

 てか俺に友達が出来ないのも、バルレイド先生に名前覚えられてるのも、十中八九コイツのせいだろ。俺から百メートルくらい離れてくんない?


「そう言うなよ。ボッチ同士仲良くしようぜ〜」

「地の文読まないで? あとお前と一緒にすんな、名誉毀損で訴えるぞ。俺はお前と違って孤高なの。そこ間違えんなよ?」


 俺が言い聞かせるように説けば、何故かケラケラと笑うレイ。


「ハハッ、冗談キツいぜ、相棒〜。そうやって言い訳した方が見苦しいってもんよ」

「絶縁してやろうかこの野郎」

「じゃあ今度から可愛い子ナンパできても呼ば——」

「これからも宜しくな、相棒!」


 俺は爽やかな笑顔とともに、レイの肩をガッチリと組んだ。










「——そうだった。アイツ問題児のくせに成績良いんだった」


 学園に着いた俺は、此方にひらひらと手を振りながら『1ーA』と書かれた教室札が付いた教室に消えていくレイを死んだ目で見つめていた。

 奴こそ俺がこの世で最も憎む感覚肌の天才である。何よ、3日やれば大抵マスターできるって。舐めてんちゃうぞ。


 つーかなんでアイツみたいな不真面目が服を着たような奴が次席なの?

 神様ー? ここに物凄く頑張ってる凡人がいますよー? 

 

「あ、レドルト〜」


 日課の如く理不尽に嘆く俺へ、何か思い出したかのように教室からひょっこりと顔を出して呼び掛けてくるレイ。

 対する俺が不審な目を向けて何事かと尋ねれば……ニヤッと笑みを浮かべた。しかし数秒待とうが何も言わない。

 

 ……は? え、なに、煽ってんの? 

 そっちがその気なら俺だって威嚇するよ? フシャーッ!


「一体何をしているのですか?」

「威嚇。あまり俺を舐めるなよって」

「誰にですか?」

「そこのチャラ男。ほら見ろよ、あの憎ったらしい顔。あの顔面に風穴開けてやりた——」


 俺はそこまで言って、ふと言葉を止める。

 そして、ボッチたる俺が何故会話を成立させられているのか、という疑問が頭に浮かんだ。我ながらなんとも悲しい疑問である。……ぐすっ。


「……何を泣きそうになっているのです?」

「触れないでもらえると助かります。あと、そういう時は、何も言わずにティッシュなりハンカチなりを渡すもんよ?」

「嫌です。貴方に貸したくありません」

「まさかの拒否!? 俺に話し掛けておきながら当たり強くない!?」


 流石に美少女から真っ向に拒絶されるのは心に来るんですけど。

 ただでさえ泣きそうだったのに涙腺とかいうダムが決壊して滂沱の涙が溢れてきそうなんですけど。おめでとう、生きたままミイラになれるねっ! やかましっ。

 

 一切の可能性も感じぬ拒絶に、俺は驚きと悲痛の声を上げながら——後ろに立つ漆黒と白銀のツートンカラー美少女に目を向ける。

 ツートンカラー美少女ことセルフィリアは、スンッとした表情で俺から数メートル離れた場所で立ち止まっていた。道理で声がちょっと遠いわけだ。


 …………。


「……なんでそんな遠いの?」

「貴方と一緒にいると思われたくないからです」


 当然でしょう、と言わんばかりの表情と声色で宣うセルフィリアの目は、清々しいほどに綺麗だった。それこそ嘘など微塵も感じないくらいに。そこは嘘であって?


 ってかちょっと嫌われ過ぎじゃないかな? 

 もう俺のライフはゼロよ? オーバーキルよ? ボッチの紙メンタルをあまり舐めないで欲しいよね。


「……じゃあなんで俺に話し掛けてきたのよ。嫌ならスルーすれば良いじゃん……」

「いえ、1年F組が何処にあるのか知らないもので。申し訳ないのですが、案内してもらえませんか?」


 この子は何を言っているのだろうか。


「別に案内すんのは良いけど……1年A組のセルフィリア様が一体俺のクラスになんの御用で?」

「私もF組で授業を受けようと思いまして」


 へー、俺達のクラスで授業を受けるねぇ……——は?


 俺は思わずギョッとして彼女の顔を見る。うん、美少女。正しく高嶺の花。

 路傍の雑草集団の我がクラスにはあまりにも不釣り合いだ。


「……そ、その心は?」


 意図せずなぞかけっぽくなった俺の言葉に、セルフィリアは先程と同じテンション、表情、抑揚で言った。




「——これから貴方を観察しようと思いまして」




 ちょっと何言ってるか分からない。


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