第2話 調子に乗った代償
「——ふぅ……やっと終わった」
数時間掛けて浴室にこびりついた血を洗い流した俺は、大きくため息を吐いた。
「今回は長かったなぁ……」
時間にして、約半日。
直接受けてないし、一気に大量の情報を入れ込んだわけだから仕方ないが……それにしてもちょっも遅すぎないだろうか。
そのせいで血が完全に固まったじゃん。
あれ、洗い流すの物凄く苦労するんだからな。全く、失礼しちゃうわっ!
なんてほざきつつ、既に天高く上がった太陽から降り注ぐ日差しに目を細めながら、下級貴族を意味する黒と白の制服に袖を通して黒い手袋を嵌める。
どちらも俺が通う学園——世界でも有数の大国であるアヴォスフィリア王国にある有名な王立フィリア魔法学園——が生徒のために作った特注品だ。
制服は魔導具であり、黒い手袋は魔力を断絶する特殊な糸で編まれている。金掛けてんね。
当然、どちらも学園内で授業以外で外すことは許されない。そういう規則なのだ。
俺的には、この手袋を外しただけで罰則は厳しすぎると思うが。
「ま、規則は規則だししゃーないか」
ここであーだこーだ言ったって規則が変わるわけでもない。
そもそも変えたいとも思ってないし。
だってほら、俺は模範生だからね。
え、赤点取る奴は模範生じゃない?
いやだからこれには理由があるんだってば!
俺の転生特典——【
つまり——相手が強く、自分が受けて、観たモノが強ければ強いほど、俺の身体はそれに順応し、強くなる。
まぁ俺程度の才能と肉体なら、よほど大量に受けるか完全にその力を理解していないと習得、又は対処出来る力を編み出すのは難しいが。
なんとも不便な力だ。もはやコピー能力の大幅劣化版じゃん。
……と、愚痴を漏らすのはここまでにしよう。
良い加減学園に行かないと拙い。主に俺の出席日数と教師からの信頼度が。
「さぁて、どうしたもんかね」
今俺のいる場所は、いつも寝泊まりしている寮ではなく、森の奥に作った小屋。
寮で自殺したのがバレたら、それこそ大事件になっちゃうからね。強制退学どころか強制除名だよ。
そんでここから学園までは——ざっと2時間。今の時刻は11時前。
「ひ、昼に間に合う、かなぁ……?」
いや、今悩んでたって仕方ない。
取り敢えず急ぐしかない。
ただ1つ、問題があるとしたら。
学園一の鬼教師——バルレイド・ディフィファーが正門にいるかもしれないということ。
いや、先生なら今日は職員会議かなんかで居ないと聞いた気がするが……死んだ影響もあってか、それも定かじゃない。
とはいえバルレイド先生だけには会いたくないので。
「——バルレイド先生だけはヤダ、あの人だけは正門に立ってないでくれ……!!」
俺は珍しく神に祈りを捧げた。
——やはり、神なんぞに頼った俺が馬鹿だった。
「レドルト・キャリバー……今何時だと思っている?」
俺の目の前では、例の教師——バルレイド・ディフィファーがツルツルスキンヘッドを擬似太陽拳かの如く光らせ、キリキリと眉を釣り上げてブチギレていた。
また、身長こそ日本男子の平均身長レベルの俺より十数センチ小さいが……俺の2倍以上の身長に感じるほどの威圧感がある。
控えめに言って——ちょー怖い。トイレ行ってて良かったわ、いやマジで。
「聞いているのか?」
「も、もちろんですよ! 何時か、でしたね!? そうですね……難しい質問ではあるんですけど、そもそも優等生な俺は寝坊することはな——すみません、大寝坊をかましました」
なんとか言い包めようとして口を回してみたのだが……彫りの深い強面なバルレイド先生の一睨みで、俺はあっさり自白した。
いやまぁ言い訳なんて出来ないよね。だって怖いもん。
「すみません、次からは気を付けます」
「はぁ……まぁいい。今回は初めてだからな」
およ? 聞いてた話と違うんですけど?
もっと怒られて特別指導とかされるって聞いたんだけど……ま、怒られないならいっか。
「と、ところで……バルレイド先生はどういった御用で門の前に? 今日は職員会議があるんじゃなかったですか?」
「ああ、あった。この学園以来初の、1か月に及ぶ赤点補習者についてな」
おっと、それって俺のことじゃないですか。
誰にも成し得なかった偉業を成し遂げた俺は、逆説的に学園の天才達より優れているわけだ。そりゃ気分が良い。
「それで……どういった話になったんですか?」
聞きたくないが、聞かないといけない。
教師達がわざわざ俺のために色々と話し合ってくれたのだ。
追加の補習とかが増えても一向に構わな……寧ろそっちの方が良いかもしんない。
それにこれらは全て、俺があとちょっと、あとちょっと……と赤点補習の合格を先延ばしにした結果なのだから——
「——今日の放課後、今年度の首席であるセルフィリア・クラウス・ソラスリストと戦ってもらう」
やっぱ帰ってもいいですか?
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