第10話 誕生日パーティー⑥
「うぁ?」
僕は背後から聞こえた声に振り向く。すると七十歳位の男性が僕たちを見ていた。
「おお、これは失礼を致しました。シルバー第二皇子殿下。お初にお目にかかります、私はイーガン・モロバ侯爵と申します。以後お見知りおきを」
「あぅ」
男性は胸に手を当てるとお辞儀をした。挨拶をしてくれたので僕は返事をする。しかし僕はイーガン・モロバ侯爵が苦手かもしれない。人の容姿に文句を言うのはいけないことだが、彫りの深い目が苦手である。塗りつぶしたように真っ黒な瞳であるのに、ぎょろぎょろと不気味に光り怖いのだ。何だか僕のことを探るような視線を感じる。居心地が悪く、兄様の服を掴む。
「モロバ侯爵。挨拶が済んだのならば、次の者に場を空けよ」
僕がモロバ侯爵を苦手だと察してくれた兄様が、立ち去るように促す。少々強引な気もするが、苦手なモロバ侯爵の視線から逃れることが出来るのは助かる。それにしても、兄様の態度が少し冷たいような気がするのは気のせいだろうか。
「おや、ブラック第一皇子殿下。未だ私はシルバー殿下に、お祝いの言葉を申し上げておりません」
「他の者達も居るのだ。早々に済ませよ」
兄様の言葉に動じることなく、モロバ侯爵は飄々とした態度をとる。王族に対してこういう態度をとることが出来るのは、単に侯爵家という立場だからではない。何か功績があるか、有力者の血縁関係者であるかもしれない。そういう人物ならば、兄様にも影響を及ぼす可能性があるのだ。僕はモロバ侯爵を警戒するように見る。
「やれやれ、老体をそのように急かすものではありませんよ。……シルバー殿下、この度はお誕生日おめでとうございます。魔力の計測は行われたのですか? 数値はどれ位ですか? 適正属性は如何ですかな?」
「う、うぁ?」
モロバ侯爵が祝いの言葉を口にしたと思うと、矢継ぎ早に質問を重ねる。老体と言いながらも圧力がある質問に、僕は戸惑う。この世界は魔法が存在する世界ではあるが、僕は転生してから魔法を使用したことはない。更に言えば、誰かが魔法を使う姿も見たことがないのだ。それ故に僕は魔法の使い方は知らない。
「おや? シルバー第二皇子殿下は未だに、魔力の測定をされていないのですか? 何故ですか? 嗚呼、もしかすると魔力量が少ないからですか? 私が見てもシルバー殿下の魔力量は多いとは言えないですからね!」
「……モロバ侯爵」
兄様の声が冷たく、モロバ侯爵の名前を呼ぶ。僕は怒った兄様を見たことがない。だがゲーム内のブラックは怒ると声が冷たくなったのを思い出す。失礼な態度を取っているのは、モロバ侯爵だが兄様が怒れば大変なことになる気がする。
「に、にぃ!」
「……シルバー」
僕は兄様を呼び、意識を僕に向けさせる。赤い瞳が僕を映すことに安堵する。
ゲーム内のブラックが怒ると、彼の気持ちと連動するかのように魔力が放出されるのだ。初見ではそれでパーティーが全滅した。攻撃魔法ではなく只、威嚇するように放たれた魔力で戦闘不能になるなんて初見殺しもいいところである。ブラックが『乙女ゲーム史上最強最悪の悪役皇太子キャラクター』と言われる所以の一つでもあるのだ。それらが知られてからはプレイヤーの間では『ブラックは極力怒らせない』という暗黙のルールが出来た。そうでなければ、ゲームが進まないのだ。最終決戦は致し方無いが、それまでは極力戦闘を避けるのが得策なのである。
そして今現在の兄様は未だ悪役化はしていない。しかし魔力量は膨大である。万が一にもその魔力が放たれたら怪我人が出るのは確実だ。優しい兄様はそんなことはしないと信じているが、モロバ侯爵の煽りに影響を受けて感情的に動いてしまうかもしれない。中身が大人な僕でさえ、気持の良いものではないのだ。兄様はよく堪えているほうである。
「モロバ侯爵っ! いい加減にしないか! 本日はシルバー第二皇子殿下の生誕祭であるぞ! 妙なことを言うのは控えていただきたい!」
第三者の声が響く。明るい茶色の髪と瞳を持つ三十代位の男性が、モロバ侯爵に静止の声をかける。貴族の関係は複雑であり、身分が低い者が高い者を静止することは出来ない。そう考えると彼はモロバ侯爵と同じ侯爵かそれ以上の爵位になる。
「……ルーバー侯爵。この若造が……邪魔をするな!」
モロバ侯爵が苦虫を嚙み潰したような顔で男性を睨む。如何やら男性はモロバ侯爵と同じ侯爵で、知り合いのようだ。
「ルーバー侯爵」
「はっ! 失礼致しました。ブラック第一皇子殿下」
兄様が硬い声で介入した男性を呼ぶ。するとルーバー侯爵は、最敬礼をすると三歩程後退する。
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