星に書いた手紙

和よらぎ ゆらね

星に書いた手紙

七月七日


駅前の小さな通学路に沿って、短冊を吊るした笹飾りが風に揺れていた。誰が置いたのかもわからない、古びた木の箱には、色とりどりの短冊とマジックペンが入っている。


毎年この季節になると現れ七夕が終わると忽然と消える。誰が片付けているのかも知らない。

その日は授業も早く終わり、僕はいつもの帰り道、ふと思いついて足を止めた。


箱から短冊を一枚抜き取り名前も書かずに、

こう綴った。

「会いたい」

理由もなく、言葉が指先を走った。


書き終えたその短冊を笹にくくりつけたとき、ふと背後から声がした。

「また今年も書いたの?」

夏草の匂いがふと蘇る。

振り向いても、誰もいない。

顔も名前も分からない懐かしい声だった。


夜になり、星が街ににじみはじめたころ。
僕は夢とも現ともつかない場所に立っていた。

見上げると、夜空には一面の星。
その中のひときわ輝く星がまるで紙のように折られ、言葉が浮かんでいた。



「会いたい」



──目が覚めたのは、午前4時。
窓の外には、まだ消えきらない星が一粒だけ残っていた。

翌日、学校の帰りに、またあの笹の前を通った。
昨日の短冊は、風に揺れていて……

その隣に、昨日はなかった知らない誰かの筆跡で書かれた短冊があった。

「来年も、またここで。忘れないでね」

僕は短冊を見つめたまま、誰の姿もない空にそっと呟いた。

「……うん、また来年……約束。」

七夕の夜。星は時々返事をくれる。

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星に書いた手紙 和よらぎ ゆらね @yurayurane

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