百合活少女とぼっちの姫
佐古橋トーラ
序章
伊月樹は私のもの
時計の針が14時を回ったのを見て、私は携帯を取り出した。
太陽が高い位置から少しずつ降りてきて、昼下がりを感じさせる午後の日常。高校生はみんな真面目に授業を聞いている時間帯だ。
しかし、私は今図書室にいる。
授業の一環とかではなく、単純にサボっているだけ。
高校生になってから、私は頻繁に授業をサボってこの図書室に来ている。もちろん授業日数が足りる程度には出席しているけど、本当にギリギリ足りるくらい。
サボっている理由は授業が退屈だから。あと友達がいなくて虚しくなるから。いや、作ろうと思えば作れたかもよ?でももう友達作るような期間終わっちゃったし。
そんなぐうたら高校生の私だが、ここ最近不思議な知り合いができてしまった。
携帯を開いた私は、慣れない手つきでぽちぽちと文字を入力する。
『いま図書室。来れる?』
返事はすぐに帰ってきた。
私なんか彼女から連絡きても3日は既読つけないのに。
『授業中』
『知ってる。でも来て。』
『むり』
まあこの時間は普通に授業中だし、断られるのは当然か。
でも来させよう。理由はなんとなく。
『バラしちゃうよ?早くしてね。』
そこに既読がついた後、しばらく返信は来なかった。
慣れたものだから分かるが、こういうときはあと数分もすれば彼女はここにやってくる。悔しくて肯定の返信はできないけど、本当に無理なときは反抗する。無言の同意というやつだ。
♦︎♦︎♦︎
数分後。
古びた図書室の引き戸を鳴らして入ってくる少女の姿があった。
遊びすぎているようでも真面目すぎるようでもない見た目の、黒髪を肩の下まで伸ばした柔和なイメージを連想させる女性。身長は平均よりわずかに高い程度で、顔面偏差値は普通よりかなり高いくらい。対人能力は普通からははるかにかけ離れるほど卓越している人。
「こんな時間に呼び出さないでよ。授業始まったばっかりだったのに。」
開口一番不満げな文句が聞こえてくる。
そりゃ教室抜け出してきたわけだしそんな反応にもなるか。
私と同じクラスの友達……いや、友達かと言われると微妙。
彼女は所謂一軍と呼ばれてそうな女子で、誰とでも和んで会話でき、みんなに優しい。成績も良く、責任感も強いキャラなため学級委員にも属している。時々粗雑なところも人気があり、一番上に立たないことでヘイトも買いにくい。
ある意味ではこの学校で一番都合よく人間関係を構築している人だ。
でも、そんな完璧そうな彼女には秘密がいくつかある。
そのうちの一つは、彼女はサボり魔ぼっちな私に逆らえないということだ。
こうやって呼び出せば、相当な事情がない限りは必ず来てくれる。
「別にいいでしょ。伊月は授業の一つや二つサボったところで日数足りてるんだから。」
「結奈と違って普通の人はそんなギリギリになんないし。頻繁に呼び出されてたら不良だと思われるじゃん。」
「不良なのは事実じゃん。」
「……表向きは違うから。」
伊月は実情を捻じ曲げるかの如く自分の行為を棚に上げて私を責めるが、私から言わせれば、伊月は授業をサボることなんかより数段倫理的にマズイことをやっている。
そして私はその事実を知っていて、彼女の弱みを握っている立場にある。
「そうだね、みんな驚くだろうね。伊月があんなことしてるって知ったら。」
「もうしてないし。」
「過去のことでもバレたらまずいんでしょ。っていうか対して昔の話でもないし。」
「………………。」
まあ実際、彼女の悪行自体がなされていたのは少し昔のことだし、すでに精算されたものではある。でも、世間にバレたら少なくとも今の立ち位置にはいられないだろう。だからこそこうやって私の言いなりになっているわけだし。
「で、何すればいいの?」
呼び出された伊月は、他の誰にも向けないようなゴミを見るような目で私を睨みつける。
おーおー、今日はいつもよりお怒りのようだ。
「別になんもしなくていいよ。ただ暇だったから呼び出しただけ。」
「帰る。」
試しに火に油を注いでみると、伊月は呆れ返って怒りすら納め、図書室を後にしようとした。
「帰ったらクラスラインで例の写真流出させるよ?」
でも、私の一言でピタッと足が止まる。
いや、我ながら面白い遊び道具を手に入れてしまったものだ。あの伊月が、私みたいな虫ケラレベルの屑に勝てないなんてね。
彼女をいじめるのがここ最近の私の日課だ。
弱みを握っているから、好きなだけ命令できるし、仮に何かあっても私の世間的な評価はすでに地の底だからこれ以上悪くなることもない。
逆に、私がもっている
「……だったらせめて何か命令してよ。」
「自分からおねだりできるなんて少しは偉くなったじゃん。」
「うるさい。」
嫌がっている相手に無理やり何かさせるって、気分良いよね。無論限度はあるだろうけどさ。
イキってる伊月を見てると余計に分からせたくなる。
伊月とは対照的に上機嫌で鞄の中を探った私は、家から持ってきた色々際どいメイド服を取り出した。元々は文化祭で使った普通のものだったが、切り取って修正した結果ほぼ水着とか下着レベルになってるやつだ。
なんのために修正したかというと、今ここで伊月に着させるため。
「はい、これ。」
「なにこれ。」
メイド服を一目した伊月は、明らかにこれから何をさせられるか分かっているように表情を歪ませた。
「メイド服。見て分かんない?」
「いや分かるけど。」
「じゃあ早く着てきてね。」
露骨に嫌がって、私のことを恨み強めな目線で見る。
「……なんで?」
「伊月は私の下僕でしょ?」
「違う。」
「違くない。早く。第一メイド服なら伊月も文化祭で着たでしょ。」
「こんなスカート短くなかったし、胸元だって隠れてた。こんなの着てたらただの痴女じゃん。」
「早くして。」
「…………無理だもん。」
伊月は無惨なメイド服を手に持ったまま反論していたが、やがて悔しそうな表情のまま図書室を出て行った。外のトイレにでも行って着替えるつもりなのだろう。逆らえない現実になんとももどかしそうだった。
数分後、やけに時間がかかっているので逃げたのかと思い始めた時、伊月は静かに図書室の扉を開いた。
見ると、私が想像してたよりもさらに露出の激しいメイド服を身につけた伊月が、顔を真っ赤にして、右手で短いスカートを押さえつけ、左手で胸元を隠すように遮って立っていた。首には鈴のついたチョーカーが付けられていて、元々のコンセプトである猫耳メイドの様相も保たれている。どうせならカチューシャも持ってくれば良かったと思った。
メイド服への冒涜だろってくらい肌が見え隠れしていて、それでいて白いフリルが綺麗に目立っている。勝手に作っておいてなんだけど、まさかここまで際どくなるとは思ってなかった。最低限隠さなきゃいけないところは隠せてるけど、ギリギリ地上波では流せない。
まあ、結果的には大成功か。
反論すること元気すらなく、恥ずかしそうにこちらを睨みつける伊月を見てるとそう思う。こんな服着て恥ずかしくない人なんかいないよな。
「うん。いいんじゃない?なかなかメイドとしては似合ってるよ。まあ相当淫らなメイドとしてだけど。」
「この……」
怒りで顔をこちらに向けた瞬間、身につけたチョーカーから鮮やかな鈴のなる音が聞こえて、伊月は再び恥じて下を向いた。
そうやって黙りこんだ伊月を眺めて、わたしはようやく彼女をここに呼んだ成果を得る。
私は伊月を虐めるのが好きだ。
いや、大好きとかではないけど、なんとなく気に入っている。別に彼女のことは好きでも嫌いでもない。でも、彼女がいじめられて悔しそうに顔を赤らめるのが面白くて、いつもこうやって辱める。
私は伊月を言いなりにさせ、伊月は私の言うことを聞かないと秘密を晒されるから、嫌々命令を聞く。
そういう関係だ。
偶然その弱みを握ってしまった私は、それを悪用して彼女を従えている真性のクズだと思う。でも私は別にそれでいい。失うものもないから。
従えさせて、謝らせて、屈服させて、服従させて、敗北宣言させて。その瞬間をどうしてか私は望んでしまう。そしてその環境があるから、今日も彼女を弄びたくなってしまうのだ。
このあと、何させようかな。
とりあえず『ご主人様』って呼ばせよう。メイドなんだから普通だよね。
伊月に対してやりたいこと、やらせたいこと、たくさんある。
少なくとも、退屈を紛らわすのには充分過ぎた。
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