第6話 ルミナスSIDE 私を愛してくれる知らない少年


どの位の間、此処で過ごしているの?


もう分からない……


何処までも暗くて光の無い世界。


そんな世界で私は過ごしている。


此処は魂の世界で……この生活がこれからも気が遠くなる程つづくらしいわ。


この世界が死後の世界だとこの世界の空を漂っている、まるで死神の様な番人から聞いた……


そして此処からは決して出る事が出来ないと……


◆◆◆


あの日のギルメドの街は、地獄だった。


大地を埋め尽くす程の魔族が襲ってきて、自慢の城壁も壊され……最強と謳われたゴーレムも破壊。


そのまま街に流れ込んで来た。


そして私は……狼型の魔族によって食い千切られた。


そのまま、ショック死すれば良かったのに『私は死ななかった』


私を襲った魔族は私を食べる事はせず、ただ食い散らかして去っていったわ。


どうせ死ぬなら楽に死にたかったわ。


死に掛け状態で宿屋の傍で私は転がっていた。


『助けて』


何度叫んだか分からない。


だけど、周りも皆、同じ状態……


何処からも助けは来ず、何日も経ち……痛くて、痒くて……体が腐りウジが沸いてきた。


それでもなかなか死ねず


苦しんで、苦しんで死んだ。


その時に意識朦朧のなか聞いた魔族の言葉。


『この街を見せしめにする』


そう言っていたのを覚えている。


◆◆◆


そして気がつくと私はこの世界に来ていた。


魔族に襲われた姿、そのままに……


何故か痛みが無く歩く事も出来たけど、腐った体も飛び出した腸を始めとする臓器もそのままだった。


水たまりを見つけ自分の容姿を見た時には絶望したわ。


『うふふっまるでゾンビね』


この世界を歩いていると……


空を漂うように飛んでいる異形の存在に出会ったの。


その存在が言うには『この世界が死後の世界』なんだそうよ。


そして、この状態が永くこれからも続くんだって……


どうしてこんな所に居るのか分からないわ。


異形の存在はそれ以上何も話さず、飛んでいったから……


良い事をして死んだら天国に、悪い事してしんだら地獄に行くんじゃないのかしら……此処は何処なの?


何も分からないまま、此処で生活し始めた。


『そうだわ、此処が死後の世界ならレオルドも居るかも知れない』


そう思い体を引きずりながら探したのよ……


この世界は何処までも心を蝕んでいくのね……


暗くて薄気味悪くただただ絶望を与えてくるの。


割と近くに一緒に死んだ街の人は居たんだけど、皆が絶望していたわ。


泣いている人間が多く、特に若い女の子の多くは号泣していたわ。


私みたいに醜い姿をしているんだから当たり前よね。


だけど、家族や恋人が一緒に居る人たちも多く居て、ちょっとだけ羨ましく思ったわ。


多分、この世界で唯一の救いは『それなのかな』そう思えたのよね。


『死んだ旦那のレオルドに会いたい』


その一心から旅に出たのよ。


体は更に腐敗しやがて白骨化したわ。


だけど、不思議な事にそんな状態なのに歩けるし目も見えるの。


旅の途中で色々な人にあったけど、殆どの人が『ああっ』『そうか』


とか一言二言しか話さない。


無理やり話せば会話はしてくれるけど……絶望するような話しかしない。


だけど、私の様に『ゾンビみたいな容姿』の人や『白骨化』した容姿の人は少なかったわ。


皆が……肌は灰色っぽいけど、ちゃんとした人間の姿をしている。


その理由はそれから暫くして解ったの。


私の体に肉がつき始め肌の色こそ灰色だったけど、ほぼ元の姿に戻ったのよ……


ただ、体は冷たく腐ってないだけでゾンビやグールみたいに思えたの……


そして長い旅の果てに見つけたレオルドは……


「すまない……」


「そうなのね……」


この世界で他の女と暮らしていたわ。


レオルドが死んでから数年、これも仕方ないのかも知れない。


昔の陽気なレオルドだったら、悲しくなったのかも知れない。


だけど、今目の前にいるレオルドは……何処にも陽気さは無く、目がまるで腐っているかのように曇っていた。


「「……」」


横に居る女性も同じで、ただ悲しそうに腐った目で私を見つめてくる。


「さようなら、お幸せに……」


それだけ伝えてその場を去ったの。


◆◆◆


この世界に居ると何もする気が起きなくなるのね。


この世界は絶望した人間しか居ないみたいね。


偶に恐ろしい容姿をした皆が『番人』と呼ぶ存在がいるけど、何もして来ないわ。


光が殆ど無い世界がこんなに辛いとは思わなかったわね。


この世界は何処までも暗く、まるで洞窟の中で生活しているみたいなのよ。


太陽も月もないから、どれ位の月日が過ぎたかの分からないわ。


お腹も空かないし、物を食べなくても良いの。


だけど、夢も希望もなく、何もヤル気も起きず、心が蝕まれていく気がするわ。


この世界に居ると人格まで蝕まれていくみたい。


そして『光ある世界に憧れる』のよ。


元の世界に戻りたい。


きっと誰もが夢見ている……だが、それはきっと叶わない。


昔、死んでから天国や地獄に行ったあと転生するって聞いたけど……


あれは嘘だったのかしら?


そう思えてくるわ。


そして、私はただただ、無意味にこの何処までも続くなんの希望も持てない世界で過ごしていくしかないのね……きっと



◆◆◆


ある日の事、三つ首の犬を下半身に持つ恐ろしい姿の番人が話しかけてきたわ。


「ルミナス.トリア、お前に生者(せいじゃ)から婚姻の申し出が来ている……受ける気があるか?」


婚姻? 婚姻って結婚という事よね……


良く分からないけど、私が死んでこの世界に来てから、どう考えても凄く長い月日が経っている気がするわ。


一体誰が……


だけど……この世界から抜け出せるなら……


そう思ったのよ。


「話を聞かせて貰えますか?」


そう言うと番人は……


「詳しい事は俺にも分からない……生者から死者への婚姻の申し出など、遠い昔にしかない。その時は結局、生者から拒否され終わった……だから冥界王様すらどうなるか分らない……ただ言える事はお互いに受け入れないと婚姻が成立しない……それだけだ」


そう言ったわ。


お見合いみたいな物かしらね……


相手が好きじゃないなら断れるのね。


なら、受けてみようかな。


私みたいな存在相手に結婚したがっている相手がいる。


そう思うと、冷え切り絶望した心が少しだけ、本当に少しだけだけど暖かくなった気がした。


「受けます」


そう言うと気を失ってしまったわ……


気がつくと私は私が死んだ場所アイリス亭の裏にいたの。


誰が建ててくれたのかお墓があった。


「それじゃ私は此処で去る事にする……そうそう、冥界で手に入れた物は現世には持ち込めぬ、死んだ時の姿に戻させて貰おう……」


そう、番人が言うと私の姿は……死んだ時の姿に戻ってしまった。


体が腐りかけ、ウジ虫が湧いていたあの姿……いや違う。


あの時より更に酷く体が崩れている気がする。


「こおすがたはちがうう」


話す事も出来ないのね……


「お前はもう死んだ人間だ。この世界では急激に腐敗が進んでいく。お前は生者じゃない! 死人で冥界の住民なのだから当たり前だ……明日の朝日が昇る前に相手の心を得られなければ、元の冥界に戻る事になる……精々あがく事だ」


「そうなぁ……」


これはチャンスなんかじゃない……


こんなゾンビみたいな醜い女を誰が愛するって言うの……


そう思い横を見ると小瓶があった。


崩れてきて指が三本しかない手でその瓶をとると……白いドロッとした液体が入っているのが分ったわ。


これでも未亡人だからその液体が何かわかるわ。


『精子』よね。


可笑しな話だけど、その精子に何故か生命力というか輝きを感じて愛おしく思えたの。


こんなはしたない事はした事が無いのに……躊躇なく私はゴクリと飲み干した。


美味しい……いや違うわ。


少しだけ力が沸いてきた気がする。


何でかしらね?


この精子の相手が何処にいるか何故か解った。


私の宿、アイリス亭から、この精子の持ち主だった人の臭いが臭ってくる。


私は腐った体を引きずりながらアイリス亭に入っていったわ。


◆◆◆


ズル、ズルツズリッ


体が崩れ私の腐った肉がすげ落ちていく。


体の中に寄生しているウジ虫が這いまわる。


こんな女と婚姻を結びたがる男なんて居るわけ無いわね。


そう思いながら、悲しい気分で歩く……これはきっとチャンスなんかじゃない……更に鬱にする為の手段なんじゃないか……そう思えてならないわ。。


暫くすると臭いが強くなった部屋があった。


本当にこんな化け物と添い遂げたい人なんているのかしら?


そう思いながら扉をあけたわ。


「あああぐっ、わうたしをまぬいたのはあうた?」


真面に話も出来ないわ。


それに声帯も腐っているのか自分でも気持ち悪い声しか出せない。


誰が私と婚姻を結びたいのかしら……私が死んでから長い月日が経っているから私の事を知っている人なんていないんじゃないかしら?


そう思いながら見ると……あらっ、凄く若い男の子が目を瞑って横たわっていたのよ。


「そうです、貴方を招いたのは俺です」


「そぅ、なうてわうたしなうかよむんだの? はぅわぁぁ」


なかなか可愛らしい男の子だ。


だけど、私はこんな子知らないわよ。


私と結婚したいっていう位だからどこかで会っている筈よね?


だけど、こんな可愛らしい子がいたら、流石に忘れないわ。


返事を待っている間にも私の体は腐り落ちていく……


「それは俺がルミナスさんの事が好きだからです!」


『好きって』言われた……


死んだ時の私でも彼よりずうっと年上だわね。


見た感じ15歳~18歳位……そんな若い子が28歳のおばさんを好きになるのかしら?


それに……あの冥界に居た月日は、良く分からないけど数十年以上いた気がするわ。


私が生きていた頃、多分この子はこの世に居ない筈よ。


それに万が一接点があっても死者に求婚なんてしないわよね。


本当にこんな若い子が何かの間違いで私にプロポーズしたとしても……この醜い姿の私を好きになるわけが無いわ。


「ふわぁぁ、こうなみぬくいわたすがすうき? ほうとうに……」


だけど、この子から目が離せなくなるの……


この子をよく見たい……そう思ってベッドに座ったわ。


体が崩れ落ち、ウジ虫と共にこの子の体に落ちた。


さっきから目を開けない……だけど、もう終わったのを感じた。


自分からは異臭もする……うふふっゾンビの方がまだマシだわ。


拒絶されておしまい……


「本当に好きです!」


えっ? いい加減に目を瞑っていても今の状態は分かるようなもんだけど……


『好き』って……


そんなに私を好いてくれる人が居た。なんて想像もつかないわ。


大体未亡人になってから、体目当ての男は居たけど、軽くあしらっていたわ。


あの中にこんな若い男の子は居なかったわ。


それに、こんな純粋に好きだなんて思ってくれる人がいたなら……未亡人のまま人生が終わるわけ無いわよ。


本当にこの子が私を好きになる理由は分らないわ。


だけど、私の中の何かが、この子を欲しくなっている。


この子の中にある光みたいな物が欲しくてたまらないわ……


「そうれが、ほうとうなら……わうたしをううけいえるよえ」


この子が欲しい……狂える程に欲しくて欲しくてたまらない。


だけど……醜いゾンビみたいな私なんて否定されるわよね?


「勿論……」


その返事を聞いた私は止まらなくなってしまった。


腐った顔の腐った唇でこの子の唇を奪った。


それだけでも罪深いのに腐ってウジが沸いた舌を差し込んだ。


流石に嗚咽していたわ。


この状態が気持ち悪くない筈がない。


腐った物を口に押し込まれていて嫌な気分にならないわけが無いわ。


だけど、この子……嗚咽しながら泣き顔なのに舌を絡めてきたの。


舌が少し崩れ、この子の口に残っているけど気にはならなかったわ。


私は決して淫乱じゃない。


普通の女だった筈……


それなのに狂おしいほどにこの子が欲しくてたまらない。


「うううぶなうね、かうわわいい……おうねうさんがしてげう」


ズボンを脱がし、パンツも脱がしたわ。


この子を受け入れる為に馬乗りになったけど……肝心の下半身が既に私には無かったの。


それでも体は止まらず……下半身を押し付け動かしている。


体は崩壊していき肉片やウジ虫が飛び散っている。


なんて悍ましい光景だろう……


こんなのきっとこの子にとって悪夢でしかないわ。


だけど、ゴメンね止まらないのよ。


「ありがとう、ルミナスさん」


こんな状態でお礼を言ってくれる。


この子は本当に私が好きなんだ……そう思い始めた。


すると何故か冷え込んだ体が少しだけ温かくなったのを感じたのよ。


「りゃう、きもひいいくな?」


気持ち良くないのは分かっているのよ……だけど、死人じゃなくて生きていた時の本能なのか、そんな言葉が口をついて出て来たの。


「ああっ気持ち良いよ」


気持良い訳ないわ。


だって私には受け入れる部分の体が腐ってないんだから……


「ほうと? ほうとならめ、あけてわうたしをみて」


此処で私の頭に怖い考えが浮かぶ。


この子が好きな人は私じゃないんじゃないのか?


間違えたんじゃないか?


嫌な思いばかりが頭に浮かぶ。


いやそうじゃないとしても目を一度もあけて無い。


きっと、この悍ましいこの姿を見たら……嫌いになるわ。


だけど……それでも……口から出てしまった。


これで終わりだわね……私は……きっと拒絶される。


そうしたら……『殺しちゃえばいいんじゃない』


そうすればこの子は……私の物だ。


そんな考えが浮かんできた。


『駄目』そう思った。


だけど、1人の時間が永すぎた。


1人はもう嫌だ……この子の温もりを知ってしまった私には永遠に続く1人の世界は耐えられない。


ゆっくりと目を開いて来る。


顏が引き攣っているのが分るわ。


「…….」


もう殺すしかない。


殺してあの世界に連れていこう……そう思ったの。


「みうたわね……わたふを…….こうなすうがたの……」


何故かこの子は笑ったのよ……しかも凄く優しい笑顔で……


そしておずおずと私の胸に手を伸ばしてきたの。


「ルミナスさん、凄く綺麗だ」


「ううっうそうだぁ」


「本当に綺麗だよ……」


こんな私に歯が浮く様なセリフ……嬉しくなっちゃうわ。


しかも、体を起こしてきて頬にキス迄されちゃったのよ。


「ううっううっ、ほうと」


「ああっ、この胸も凄く綺麗で形も最高だよ」


口の中の虫を吐き出し、乳房に吸い付いてきたの……


うふふっ凄く可愛いわ。


こんな私にこんな事するなんて……本当に好きなのね。


だけど、おかしいわね。


こんなに愛してくれる、この子が私には誰かわからないの。


「ううっはぁはぁううっ」


体が満たされていくの……この子の想いが凄く気持ち良い。


こんなの生前も含んで知らないわ……


こんなに求められた事なんて、私、今迄一度もないわ。


◆◆◆


気がつくとすっかり夜になっていたわ。


割れたガラスの窓から綺麗なお月様が見えているし。


「あっあっ、そこああっあんあん、気持ち良いわ、はぁはぁ」


この子に抱かれていると体が満たされていくの……気がつくと私は生前の姿に戻っていた。


この子が嬉しそうに私を見て来る……


「ルミナスさん、凄く綺麗だ……はぁはぁ」


「ありがとう、はぁはぁ」


この子が凄く愛おしい……消えたくない。


ただ、もう顕現している事は出来ない。


それだけは分かったわ。


「ごめんね、此処までみたい」


「そうだね……」


多分、太陽が昇ってくると体が維持できなくて消えちゃうみたいね。


だけど、あの世界に戻るのではなく魂みたいな物になりこの子の体の中で眠るみたいね。


「ほうら、そんな寂しそうな顔しないの! また今夜くるからね」


夜になったらまた会えるから寂しく無い。


この子の体の中で眠っているだけだもん。


「うん、待っているから うぐっ!?」


うふふっキスしちゃった。


「ううんうん、ぷはぁ、それじゃまた今夜」


もう時間なのが寂しいけど仕方ないわね。














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