社長秘書の私はイケおじ社長に絶賛推し活中!
真白めい
プロローグ
——八年前。
大学三年生の夏休み。
来年の就職活動に向けて、今日はOYAJIグループのひとつ『IKEOJI』という会社の説明会に参加する日だ。
「ヤバいヤバい遅刻する……!」
余裕を持って家を出たのだけれど、なんと反対方面の電車に乗ってしまうという失態を犯してしまった。
言い訳をすると、いつも通学で利用している電車がまさに同じ駅ホームの後ろ側……反対方面の電車で、大学側へと向かう電車に乗ってしまったのだ。慣れというものは時に恐ろしい……。
大学付近まで来たところで気づき急いで電車を乗り換え、説明会会場であるIKEOJIが入っているオフィスビルに到着した頃には開始の一分前であった。今から受付を済ませてエレベーターに乗ることを考えると完全に遅刻である。
「あの……、IKEOJIの説明会に参加する
急いで受付を済ませようと早歩きをしていると、後ろから男性に声をかけられる。
「はい、そうですけど……」
振り向くと、三十歳くらいの高身長黒髪イケメンの姿があった。何よりも、言葉では表すことのできない人を魅了するオーラが溢れていて、思わず引き込まれそうになる。
「良かった。スーツを着てるからそうかなと思って……IKEOJI人事担当の
彼はそう言うと名刺を手渡す。肩書きには『部長』と書かれてある。
こんなに若いうちから部長だなんて、きっと相当仕事ができる人なのだろう。
「説明会に参加させて頂きます、湯浅です。遅れてしまい申し訳ありません……本日はよろしくお願いします」
私は人事部長である一ノ瀬さんという方に深々とお辞儀をする。
「大丈夫、事前に遅れる連絡をもらってたし気にしないで。それより無事に到着できて良かった」
そう言いながら、ニコッと微笑みかけられる。
遅刻ギリギリで注意を受ける覚悟をしていたのに、それどころか親切に接してくれる彼の余裕ある対応に、反省する気持ちとともに思わず心が惹かれてしまう。
それから説明会を行う会議室まで案内してもらうと、彼は「就活頑張って」と小声で言い残し去っていった。
私は妙に胸が高鳴るのを感じ、説明会の最中も彼のことが気になって頭から離れられなかった。
そして、必ずIKEOJIに入社して彼と同じ職場で働くことを決心した。
きっとこの頃から、私は彼のことを『推し』に感じていたのだと思う。
次に再開したのは、大学を卒業して念願のIKEOJIに入社する時であった。
驚くことに人事部の部長であった彼は、社長として入社式に登場した。
てっきり三十歳くらいなのかと思っていたら風の噂でふたまわりも年が離れていることを知って衝撃を受けた。
その噂が信じられず『直接聞いて確かめたい』と何気なく思ってはいたものの、一社員である私が社長に接点などあるはずもなくてすれ違った際に挨拶を交わす程度。当時はそれだけで満足していた。
しかし、入社して三年目の秋、急きょ社長秘書に就任することが決まった。その日を境に社長への『推し心』は日に日に増す一方だ。
きっと社長は、社長秘書になる前の私のことなんて覚えていないだろうけれど、私はずっと前から社長を推し続けている。
そんな密かな気持ちを抱えて、今日も私は完璧な社長秘書を演じる——。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます