第18話 治癒魔法
しばらく森で引きこもり、追加の黒呪病の薬と、肌を綺麗にするための薬を作った。
今日で依頼があってちょうど十日なので、私便箱に肌荒れの薬を入れ、そのまま追加の黒呪病の薬を療養施設に持っていくつもりだ。
準備をして家を出ようとしたとき、棚の上の水晶が赤く光り出した。
私便箱になにか入ったんだ。依頼でもきたのかな? ちょうど良いタイミングだなと思いながら、家を出て森の入り口まで行く。
私便箱を開けると、やはり依頼の手紙だった。
『私も魔法のトングを使って真っ直ぐ綺麗な髪にしたいです』
魔法のトングってヘアアイロンのこと? たしかにトングっぽいけどすごいネーミング……。
私も、ってことは先日の少女から何か聞いたのかな。
こうやってまた依頼されるってことは、きっと少女は本当に綺麗になったんだろうな。
少女の姿を勝手に想像しては顔を緩め、依頼の手紙を鞄に仕舞って、肌荒れの薬を私便箱に入れる。
そして黒呪病の薬を持って療養施設へと向かった。
もう何度か足を運んでいるため、一人でも中へ入れてもらえた。
病室へ入ると、エアミルさんとフォティアスさんが何やら真剣に話をしている。立て込んでいるのかなと思って見ていると、エアミルさんが私に気づき笑顔で会釈してくれる。フォティアスさんもこちらに気づいたようなので二人のところへと向かった。
「追加分の薬を持ってきたのですが」
「ああ、ありがとう」
フォティアスさんに薬の入った籠を渡す。そのまま帰ろうかと思っていたが、エアミルさんが声をかけてきた。
「レーナさん、あれから随分と調子がよくなったんです。フォティアス様が、きっとレーナさんが作った薬のおかげだろうって。ありがとうございます」
「いえ。効きが良いみたいでよかったです」
言われてみれば、前回来た時よりも顔色は良いし、話をする声にも元気がある。
もうすぐ施設を出られると言うので安心した。
けれど、よく見ると腕がまだ黒く染まったまま消える気配がない。エアミルさんは症状が進行してしまっていたし、アザが残ってしまうのだろうか。
私の視線に気づいたのか、エアミルさんは自身の腕を動かし見せてくれる。
「見た目は痛々しいですが、痛みはもう全くないんですよ。本当に良かったです」
なんでもないことのように笑ってみせるが、私はこの笑顔を知っている。
『生まれつきのアザだし、痛くも痒くもないから大丈夫だよ』
子どもの頃、よく聞かれた。額のアザどうしたの、と。聞かれるたびに笑って答えていた。
でも、全然大丈夫なんかじゃなかった。痛くも痒くもないけど、苦しかった。
大きくなるにつれ、額のアザについて触れてくる人はほとんどいなくなったけど、その視線が、痛かった。
だからわかる。本当はこんな姿、嫌だと思っていることが。
全然、良くなんてないってことが。
「私、もっと良い薬を作りますね。アザだって綺麗に消えるような薬」
エアミルさんはありがとうございます、と笑った。
その後、フォティアスさんと共に施設を出る。魔術師団へ戻るのに一緒に来て欲しいというのだ。
先日呪いを解く方法を探す手伝いをすると言ったからだろうか。
施設のある病院の敷地を出て、王宮の前を通る。病院は王宮の横にあり、その反対側に魔術師団がある。横といっても広大な敷地の王宮の反対側に回るにはけっこう歩かなければいけない。
「いつもこの距離を往復するの大変ですね」
「いつもは王宮を抜けるからそうでもない」
「王宮を抜け道にしてもいいんだ……」
半円の塀をぐるっと回っているのでけっこうな距離があるが、直線距離だとたしかに早いかも。で通るためだけに王宮内に入ってもいいだなんてさすが魔術師団長。今は私がいるから遠回りしてるんだな。
申し訳ないような、私も王宮に入ってみたかったな、とかそんなことを思いながら歩いていた。すると、大通りの真ん中から突然悲鳴が聞こえてきた。同時に――ガシャアアン! と大きな軋む音が響く。
「だれか、だれかー!」
私とフォティアスさんは声のする方へ駆けていく。
そこには車輪の外れた馬車と、血を流し横たわる男の子がいた。母親や必死に傷口を抑え、周りに助けを求めている。
車輪が外れて、男の子を轢いたんだ……。意識はなく、腹部から大量の血を流している。
こういう時、どうしたらいいんだろう。
止血する? 救急車呼ぶ? いや救急車なんてこの世界にはない。止血の仕方だってわからない。早く病院に連れて行かないと。でも、あんな状態でどうやって運ぶ?
ただ周りに紛れて見ているしかできない私をよそに、フォティアスさんは迷うことなく男の子に駆け寄る。
「少し離れて」
フォティアスさんは母親に声をかけると、男の子の服を破き傷口を確認する。
そしてそっと手をかざすと柔らかな光を放ち、傷口がすーっと塞がっていく。
「すごい……」
あっという間に傷口は完全に塞がり、浅かった呼吸も戻ってきた。まだ目は覚めていないけれど、もう大丈夫だということが見てわかる。
これがいわゆる治癒魔法ってやつなのかな。
念のためこのあと病院に行くように母親に言い、フォティアスさんは戻ってきた。
事故の話を聞き騎士ちも集まり、馬車の運転手と話をしながら現場検証のようなものをしている。
この場は騎士たちに任せ、私たちは魔術師団へ向かうことにした。
「あんな魔法が使えるなんてすごいですね」
「そうかもしれないな。だが、この魔法よりも薬の方がはるかに多くの人の命を救っている」
「本当ですか?」
「治癒師はその場にいないと意味がない。到着が間に合わないこともあるし、魔力量にも限界がある。怪我人が多いと手が回らなかったりもする。薬は誰でも扱えるし、事前にしっかり準備しておけば回らない、なんてこともないからな」
「なるほどです……フォティアスさんはお薬も作られているのですか?」
「作ってはいるが、レーナが思っているようなものではないな」
思っているようなものではないってどういうことだろう。
不思議に思っていると、フォティアスさんは歩きながら自身の仕事について教えてくれた。
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