第47話 若い冒険者たち
「うん、弾力があるのに、噛めば噛むほど野性味溢れる肉の旨みが口の中に広がっていくな。脂はまったくしつこくなく、舌の上でとろけていくようだ。こいつはすごい肉だぞ!」
ブラックワイバーンのステーキはこれまで俺が食べてきた肉の中でも10指に入るくらいのうまさだった。
前世の和牛などは品種改良を繰り返し、飼育環境の良い場所で育った肉だからわかるが、自然に育った肉がこれほどの味を出せるのは不思議でしょうがない。もしかすると、前世にはない魔力とやらが関係している可能性はある。
あえて言うなら、レアくらいの焼き加減だから、中の色が黒くて少し違和感があるくらいか。
「おおっ、こいつはうまい! この甘辛いタレがブラックワイバーンの肉によく合っておる! それにこっちのさっぱりしたタレもいけるぞ!」
「ふむ、ブラックワイバーンの肉の味が強いから、濃いタレの味に全然負けていないな。こっちの薄く焼いた肉は自分で焼き加減を決めて、好きな味で食べてくれ」
薄く切った方はコンロの上に載せた鉄板を使って、自分で好みの焼き加減で焼いて、いろんなタレを好きな分量で食べることができる。
バーベキューとか焼き肉のような食べ方になるが、この世界だとこういった食べ方はあまりしないんだよ。まあ、貴族などの身分がある以上、自分で焼くようなこの食べ方はなかなかできないようだが。
甘辛いタレと果物の果汁、塩コショウに刻んだ香草を混ぜた粉など、いろんな味付けを用意したが、どれも好評のようだ。旅をしながら見つけた香辛料や調味料でタレやソースを作るのも結構楽しいのである。
「こういった食べ方は初めてじゃが面白いのう。焼く時間によって味も異なるようじゃし、それに一番合う味を選ぶのも楽しいものじゃな」
「気に入ってくれたようでよかったよ。この肉なら星蜜酒もいいが、エールもいいな。タルムさんも飲むか?」
「うむ、ありがたくいただこう。むっ、このエールは少し冷えておるのじゃな」
「ああ、俺のバックパックは魔道具なんだ。タルムさんが使っている収納魔法と同じで、入れた時の状態で時が止まるんだよ。エールは少し冷やした方がうまいんだ」
「ほう、確かにこいつはうまいわい! 今度から儂も氷魔法で冷やしてから飲んでみるとするか」
どうやらタルムさんも氷魔法を使えるらしい。
俺は知り合いの魔法使いに頼んでこのエールを冷やしてもらっているが、その人から聞いた話だと氷魔法は普通の水魔法よりも難しいらしいはずなんだけれどな。
「冷やして飲むとつい飲み過ぎてしまうからほどほどに。魔物がほとんどいないとはいえ、これから野営するわけだしな」
「うむ、心得ておるぞ」
俺は超健康スキルがあるから大丈夫だが、野営をする時に酒を飲み過ぎるのはだめである。どちらにせよ、そこまでの量を出すつもりはないが。
それにいろいろと経験してそうなタルムさんだし、おそらく大丈夫だろう。
「夜の景色もすばらしいな。星の明かりに照らされたこのマリスラ遺跡も実に綺麗だ」
「ああ、そうであるな。この神秘的な光景は他で見られるものではないからのう」
廃れた建物というと暗い夜は不気味に感じるかもしれないが、これだけ神秘的な光景であればむしろ美しいという感想の方が強い。星の光とコケやツタの絡まった遺跡はなぜか美しく感じる。
前世では夜の観光地はほとんど立ち入り禁止だし、入れたとしてもライトアップされてしまっている。もちろんライトアップはライトアップでとても綺麗なのだが、こうした自然の夜に見る観光地というのも悪くないものだ。
「こ、こんばんは~。すごく綺麗な星空ですよね~」
そんなふうに焚き火のパチパチという音以外何もなかった静寂な空間に突然声をかけてくる女性がいた。そしてその後ろにはもう1人の女性と2人の男性が続いていた。
タルムさんはそれほど動じていないが、俺はかなり警戒し、いつでも逃げられるようにバックパックに手を伸ばした。
「いきなり話し掛けてすまない。俺たちはDランクの冒険者でここへは観光で来ているんだ」
「今日はそっちの方で寝るつもりで、飯を食べていたんだが、随分といい香りがしてな。頼む、金なら払うから、俺たちにもその飯を少しだけわけてくれないか!」
なんだそういうことか。
確かにこの広場には俺たち以外にも人がいて、奥の方にテントが張られていた。俺とタルムさんがうまそうに料理を食べて酒を飲んでいる様子を見て羨ましくなったのだろう。
ただ、残念なことにこのブラックワイバーンの肉はDランク冒険者の懐具合では厳しそうに思える。おそらくひとり金貨数枚はくだらないだろう。ここは俺がこの4人のプライドを傷付けないように断るほうがいいかもしれない。
「ふっふっふ、構わんぞ。ガクト殿、この者たちの分のお金は儂が払うから、この肉を料理して酒を振る舞ってくれんかのう?」
「えっ!? 俺は別に構わないが、本当にいいのか?」
「今日はガクト殿のおかげで研究が進んで非常に気分が良いのじゃよ。それに若者たちから話を聞くのは儂のような年寄りにとって良い楽しみじゃからな」
「……ああ、了解だ。あんたたち、ここにいるタルムさんがご馳走してくれるってさ」
「本当かよ、じいさん!」
「こら、そんな呼び方をしたらダメでしょ! タルムさん、本当にいいんですか?」
「うむ。若者が遠慮するでないぞ。ただし、代金の代わりに皆の冒険譚でも聞かせてもらうぞ」
「あざっす! ご馳走になります!」
「やったあ! タルムさん、おじさん、ありがとうございます!」
最近乗合馬車で一緒になったヴァルドたちよりも若い冒険者だ。あまり人に振る舞いすぎるのも良くないが、タルムさんがそう言っていることだし、若者に多少振る舞うのも年長者の務めである。
俺たちに対して横柄な態度を取っているわけでもなく、年長者を敬っているし、俺も酒の分くらいはご馳走してあげるとしよう。前に彼らの比ではないくらい失礼な冒険者に出会ったことがあるからなあ……。
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