母が残したもの

にゃもう

第1話

母親は1年前に死んだ。

父親がいない自分にとって、女手一つで育ててくれた母親は唯一の肉親だった。

今まで育ててくれたにも関わらず、1年前に喧嘩をして、家を出てから会っていなかった。


喧嘩は些細なきかっけだった。

自分は就活に失敗して、家で引きこもりニートをしていた。母親とは就活を失敗した辺りから、情け無いや育て方を間違えたなど、様々なことの言い合いをしていた。

ある時、また母親から

"なんでこんな子になったんだ、私の育て方が悪かった"などと言われた。

自分の中で"プチッ"と何かの糸が切れたような感じがした。

その後母とは何も会話をせず、"出ていく"とだけ告げて家出をした。


それから1年が経った。

何とか就職先も見つかったが、実家には帰らなかった。

自分も意地を張って実家に帰らなかったが、母親からも連絡はなかった。

どちらも頑固だと思う。謝れば済むのにどちらも向こうが謝るまで、許さないって感じだ。


母が死んだと知ったのは、昔近所に住んでいた友人からのメッセージだった。

最初は何を言ってるか分からず、母親の死に顔を見た時にようやく死んだんだと実感した。

その時ものすごい後悔が押し寄せてきた。

自分は育ててもらったくせに何も返せなかったこと、ごめんなさいと言えば済んだのに言えなかったこと、母親に対する申し訳なさで自分の心は埋め尽くされていた。


それからは心にぽっかりと穴が空いたような虚無感に襲われていた。

何をやってもやる気が出ず、仕事でもミスが多かった。

まるで世界が色を失った白黒の世界のようであった、、、


しばらくして実家に置いてあるものを整理しようというぐらいには気持ちが落ち着いたので、実家に戻った。

母親が死んだ時に一回来てからは3ヶ月くらい一回も来ていなかった。

整理をしていると、一通の手紙を発見する。

そこには"〇〇へ"という題名で俺の名前が書かれていた。

"〇〇へ

この手紙を読んでいる頃にはあたしはもう死んでますね。

今まで強く当たってごめんなさい。

あなたには嫌な言葉を言って、辛い思いをさせたと思います。

実はお母さんはちょっと前に癌と診断されました。かなり進行していて、長くは生きられないとお医者さんに言われました。

だから、あなたの事が心配で、、、

やっぱり自分の息子だから幸せになってほしいと思って、厳しい言葉を使ってました。

あなたはたった一人の私の子供です。

可愛くて、頭が良くて、自慢の息子です。

あなたが辛い時にキツく当たってしまった事は後悔してもしきれません。

でも、家を出て行ってから就職先が決まったみたいでよかったです。

実はお母さんは何度かあなたの後をつけていた事があります。(ストーカーみたいなことしてごめんね)

就職先が決まって、一生懸命働いている姿を見ると、安心しました。

家に引きこもってた子がこんなに立派な顔になって働いていると思うと、感慨深いです。

でも、最後にもう一度会って、話がしたかった。

心残りはたくさんあります。

全部あなたの事ですが(笑)


お母さんから一つお願いです。

強く、一生懸命生きてください。

さっきは立派に働いていると言いましたが、私からしたらまだまだ子供です。

小心者のあなたはきっと私が死んだことを自分のせいだと思うでしょう。

でも、それは違います。

人間はいつか死ぬから、お母さんはその時が今だっただけ、、、これは運命です。

だから、私のことは気にしないで、でも忘れないで強く生きて下さい。


p.s.一緒に私の宝物を同封します。"


その封筒の中には手紙と一緒に写真が貼ってあった。

自分が生まれた時の母が抱っこしている写真だった、、、


読み終えた瞬間には涙が溢れて、服や手紙もびちゃびちゃだった。

小さな部屋の中にはただ自分の泣き声だけが響いていた…


それから数年後母の死を乗り越えるには時間がかかったが、やっと受け入れる事ができたと思う。

今では母親が死ぬ前よりも少し前向きに強く、素直に生きられていると思う。


"さぁ、今日も行ってきます"と母親の写真に挨拶して仕事に行く。

"行ってらっしゃい"という母親の言葉が帰って気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

母が残したもの にゃもう @naoayu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ