《完結》想いを伝えるには勇気が必要で――僕にはそれがなかった
コウノトリ🐣
高校生の甘くて苦い思い出
高校最初の日、僕は「不安のかたまり」だった。
そんな僕に「はい、クラスライン」とスマホを差し出してきたのは、名も知らない女子だった。
高校生活が始まってどうやら僕は不安でいっぱいだったみたいで――女々しくて、こんなことを思うのも嫌なのに、僕の心は救われたようだった。
彼女と僕が言葉を交わすなんて数ヶ月、いや、半年に一度あればいいくらい。僕は本当に気持ち悪いよね。きみが他の人と話していると嫉妬しちゃうんだ。僕ときみはクラスメイトで運良く二年も同じクラスなだけで友達でもないのに……
きみが笑顔で笑っているだけで僕はその笑顔が他の人との間に生まれたものだって分かって苦しくなる。きみは僕にはそんな笑顔は向けてくれない。当然だよね。事務的な報告を心からの笑顔で聞く人なんていない。
ねえ、覚えているかな? きみが休みだった時、”ノートを写させて”って、そんなメッセージを送ってくれたこと。嬉しかったよ。家族に自慢するくらいにはね。僕はこの時、初めて習字を習っていて良かったって思えたよ。
「ありがとう」
この一言だけで僕は何でもやれる。そんな気さえしてくるんだ。いつもはできないって否定ばっかりの僕が。何をされても平気な僕が、きみを貶されると胸が痛むんだ。
だから、本当に”二年生で卒業するね”そんなメッセージが送られてきて僕の心はめちゃくちゃになっちゃった。3年生は通信学校に通うんだね。伝える人間の中に僕がいたことが嬉しかった。でもね、もう少しきみに対する感情を整理してからにしたかったかな。
僕の想いは恋なのか? 友愛を間違えたのか分からなかった。卒業式の日、僕はきみに気持ち悪いって思われても伝えたい。新しい環境に行くきみに自分を抑えつけるのに慣れた僕が狂うほどにきみは魅力的で輝いて見えたから。
この気持ちをどう表現すればいいのかな? このまま言うには気持ち悪すぎて言えないよね。ああ、嫌だ。どうして僕はこんなにも語彙力がないんだろう。
卒業式が終わってすぐ、校門の前できみを待ち続けていた僕は空が赤から藍色へと染まる寒空の下、きみへメッセージを初めて僕から送った。
「新しい環境でも頑張ってください」
重圧だけを与える「頑張って」その言葉が嫌で僕の気持ちを一番よく表しているように思えた。もう少し僕に文才があれば良かったのに……
早く帰れと急かすように冷たい風が吹いていた。
◇ ◇
あの後、しばらくして「ありがとう」という猫のスタンプが送られてきた。ただ、届いたことが嬉しくもあって悲しくもあった。これで交わることのない世界に住んでいる僕ときみが会うことなんてもうないと思う。
更新されない友達リストの上位に存在するきみの名前が今もまだ残っている。そして、僕はなんでフラれとかなかったのかと後悔しているんだ。フラれていれば、数年経ったこの日になっても「好きです」そんなメッセージを送ろうなんて気持ちの悪いことを思わなかったはずなのに。
臆病な僕の指は送信ボタンの上で震えていた。そしてそのまま、画面は暗くなり、僕はそのことに安堵した。
未だに僕は想いを伝える勇気を持ち合わせていない。
《完結》想いを伝えるには勇気が必要で――僕にはそれがなかった コウノトリ🐣 @hishutoria
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