ポンコツ勇者と性格の悪い姫

りりあ

第1話☆幸せの国「アデーレ王国」

 アデーレ王国、そこは国民の「幸せ指数」が数百はある国々のなかで、第二位にかがやく幸せの国だ。


 国民は、国王セレウス・ファン・アデーレを心から信頼し、忠誠を誓っている。


 王妃ソフィアは「国民の母」として、

 一人娘、イレーネ王女は「世界一のプリンセス」として同じく、国民から慕われている。



 何代にもわたりこの国を治めるアデーレ王一族。

 歴代の王や女王は、幼いころから帝王学をたたき込まれ、どの君主も名君を呼ばれた。

 現王、セレウス王もその一人だ。


 セレウス王は隣国、ドルーガ国から妃を迎えた。

 ドルーガ国の王族の一員であった、ソフィアはアデーレ王国に嫁いで既に20年が経とうとしていた。


 ソフィア妃は聡明で美しく、慈愛に満ちていた。

 すぐにアデーレ国民からも圧倒的な支持を受けるようになった。


 アデーレ王国、王都の城下町、アンデール。

 いつもにぎわっている活気のある大きな街だが、いつにもまして華やいでいる。


 アンデールを見下ろす丘の上に建つ、王の居城、「クレメンタイン城」

 そのクレメンタイン城の開放日が近いのだ。


 各季節に一度、クレメンタイン城の中庭が国民に開放される。

 そして中庭に隣接する、城のバルコニー国王や王妃、王族たちが立ち集まった民にその姿を見せるのだ。


 この城の解放日は国民に大人気だ。

 アンデールに住む民はもちろん、地方からも大勢がこの日のためにアンデールを訪れる。

 市街地には臨時の市が立ち、大勢の人でにぎわっていた。


「今回、バルコニーにはメインスペースにイレーネ王女もお立ちになるんですって」


「もう16歳におなりになる。次の女王として公務もお始めになるのか」


 民衆が話題にするのは、アデーレ王国の王女、イレーネの事だ。

 セレウス王とソフィア妃の一人娘。

 この国の次期女王だ。


 その誕生から、国民の注目の的。

 その成長を、全ての民が愛をこめて見守っていた。


 バラ色の頬と大きな瞳、きらきら光るブロンドの髪。

 そしていつも笑顔を絶やさない。

 そんな姿に全ての国民、いや世界中の人々が恋をしていた。


 そのイレーネ王女も先日16歳になった。

 この国では16歳になると、一人前として扱われる。


 今まではバルコニーに立ったとしても、王より少し離れたサブスペースにいたのだが、今回からは王や王妃と並んでメインスペースに立つのだ。


 城の開放日、その日は気持ちよく晴れ渡り、過ごしやすい気候の一日だった。


 大勢の人々が城を訪れ、中庭や解放されているエントランスロビーで過ごした。

 城の内部、と言っても解放されているのはほんの入り口部分だけだったが。


 そこには、歴代王の肖像画が掲げられていた。

 人々はその絵の前で、あるものは敬礼をし、あるものはひざまずいた。


 陽が傾き始めた頃、人々がバルコニー前の中庭に集まり始めた。

 そろそろ王族がバルコニーに姿を現す時間だ。


 ファンファーレが鳴り、人々から歓声があがる。

 バルコニーにまずは王妹一家、そして王族たちが並ぶ。


 そして、ひときは大きく華やかなファンファーレが鳴り響く。

 国王のおでました。


 セレウス王とソフィア妃が並んで入場し、その後ろからイレーネ王女が姿を現した。

 その姿をみた大勢の民が、さきほどよりずっと大きな歓声を上げる。

 イレーネ王女は微笑みながらもすこし恥ずかしそうにソフィア妃の横に並んだ。


 セレウス王がバルコニー先端に出る。

 中庭の民が静まり返った。


「私の愛するこの国の民たちよ」

 と王が語り始めた。


 国王が最近の出来事を語り、手柄を上げた民をほめたたえた。

 そしてのアレーデ王国の繁栄は勤勉な国民あってのこと、と締めくくった。


 いつもならそこあたりで、王のお言葉は終わりになるのだが、

 今回は、ソフィア妃の隣にいる、イレーネ王女を呼び寄せた。


「わが娘にしてアレーデ王国の次期女王、イレーネ姫が先日16歳になった」

 王の言葉に、中庭から大きな拍手と歓声があがる。


「姫は未来の夫を選ぶ時期がきた。魔女メディアの予言により、国中の勇者から未来の夫を選出する。

 国にいる全ての勇者は勇者ロードレース大会に参加する事。その優勝者こそ、イレーネ王女の婿殿となるのだ」

 とセレウス王が高々と宣言をした。


 湧きかえる中庭の民衆たち。

 イレーネ姫は、相変わらず微笑みながらその様子を見つめていた。


 中庭の片隅、かなり後ろの方でバルコニーをみている二つの人影があった。


「おい、お前も候補だ。お前も勇者の一族だからな」

 年配の方の男性からそう言われたのは、もう一人の若い男。


 とても勇者には見えないその男が、年配の男に向かって言う。


「そんな父さん、勇者一族たって、僕たちはすっかり農民ではないですか。

 僕には参加資格なんかないですよ」


「いや、お前は立派な勇者一族の一員だ。

 お前もロードレース大会の出場するのだ、わかったなハンス」


 ハンスと呼ばれたその若い男。

 困惑した顔で父親を眺めていた。

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