最終話 たべかすちゃん きょうぞん



 どんなに生きていても、食べかすの運命は変えられない。しかし、この運命に辿り着くまでの選択肢は、食べかすたちにも、等しく存在する。



◇◆◇


「ころもくん、あの、ごめっ、」


ころもちゃんは、あまりのショックに言葉がでなかった。

一部始終を見ていた、ぱんかすちゃんは、なんとなく状況を理解したようで、ころもくんにこう切り出した。


「ころもくんも、ころもちゃんの友だち?あたし、パンのかすから生まれた、ぱんかすちゃんです!よろしく!」


 こんな状況下でも、ぱんかすちゃんは明るく、ころもくんに自己紹介していた。だが、いつも通りの彼女の姿が、ころもちゃんにとっては安心材料となった。


「わぁ!ころもちゃんの友だち?すてきだねぇ!僕も仲間に入れてくれたらうれしいなぁ!」


「もち!」


 と、ぱんかすちゃんは答える。

 ころもくんは「餅ぃ?」などと返していて、それを見ていたころもちゃんは、先ほどのショックが無くなったわけではないが、平和を取り戻した気分になっていた。


「2人で盛り上がらないで、わたしも入れてよ!」


 3人は今まであったことなどを語り合っていた。しかしそれは、束の間の楽しさだった。


 次の瞬間、ほこりの地面が大きく揺れる。ころもちゃんとぱんかすちゃんは、ころもくんが絡まっているほこりに、しがみついた。

 視界が急に明るくなり、空中に投げ飛ばされる。ころもくん以外の2人は、ほこりに必死になってしがみついていたが、途中で米とぱんかすの食べかすを見つけた。


「おこめくん!ぱんかすくん!」


「お〜生きておったか!我らもどうにかなったわい!あっはっは!!」


 おこめくんは笑いながら、上手く風を利用してこちらに来た。2人も、ころもくんが絡まっているほこりにしがみついた。


「急に視界が広くなったかと思ったらよ、お前らが急降下してるから慌ててよ。」


 再会を喜ぶ間もなく、5人はゴミの海へと真っ逆さまに落下していく。食べかすの運命の時だと、全員が悟った。

 すると、おもむろにぱんかすくんが口を開いた。


「俺さ、ぱんかすになって最悪って思ったけど、ころもちゃんとか、あ、ころもくんははじめましてだけど。あとお前にも再会できたし、なんだかんだ、おこめにも出会えて良かったぜ!楽しかった。サンキューな。」


「やっと我らは、心通じ合えたのぅ、ぱんかすくんよ。我も皆と出会い、たくさんの話をして来たこと、経験して来た事に悔いはないぞ?全員、天晴れじゃ!最後くらい笑おうぞ!!」


「ちょっとぉ〜!まじで泣かせにくんなし!!ウチさ、本気で食べかすになりたくなくて、粘ってたけど無理で、うわっ、って思ってたんだけど、ころもちゃんに出会って、このメンツに出会えたのって奇跡じゃん?だから、食べかすになって最高の人生になった!ほんとにありがとう。」


 ころもちゃんは寂しさと絶望感に駆られ、涙が溢れて止まらなかった。何か話さないと、もうそろそろ終わってしまうのに。

 すると、後ろのころもくんが、話はじめた。


「僕ねぇ、ころもちゃんと離れたのはね、踏まれちゃったから。ぺちゃんこになっちゃって、息も出来ないときもあって。でも、もう1回ころもちゃんに会いたかったから、それまで頑張るんだぁ!って思って、再会できたんだ。そしてみんなにも会えた!生きていたら、凄いこと起こるんだねぇ。僕の人生、無駄じゃなかったよ。ありがとうねぇ!」


 ころもちゃんは、振り返っていた。ころもくんと出会い、ぱんかすちゃんに出会い、おこめくんとぱんかすくんにも出会った。

 楽しく、かけがえのない日々、色々な事が起こった日々。この日々たちはみんながいたから出来たこと。


「わたし、まだみんなと一緒にいたいって思ってる。でも、これは食べかすの運命だからどうにも出来ない。それでも、みんなと一緒にこの運命に立ち向かえて、食べかすの人生を歩めて、ほんとに良かった。そう思えて良かった。この日々は絶対に忘れない!みんなを忘れないよ。ありがとう。さようなら。」


 ころもちゃんたちが、しがみついていたほこりの塊は、ころもちゃんがそう言い終わった後、ゴミの海へと沈んでいった。その後は、焼却されて跡形も無くなるだろう。



 人間と食べかすは、共存出来ない。そして、食べかすの運命は、私たち人間には考えられないほどに、酷く、切ないものだ。

 だが、食べかすたちが言っていた、「食べかすの人生で良かった。」そう思えた事は、彼らにとって希望であり、救いだったのかも知れない。

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