第13話
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「そんなの噂だけだぞ
あの店にいるにいちゃん達も、皆んないい人だから。」
河野くんは、こういう人だ。
一緒にいると、皆んないい人ばかりになる。
「あれ、今日は化粧ポーチ持って来たの?」
「うん、理沙が、LINEで登録した私の爪のアイコン見て、何処のネイルサロンか、聞きたかったんだって。」
理沙が杏奈の後ろからヒョイと顔を出した。
「びっくりしたよ、あれ自分で描いたんだって?
何で落としちゃったの?」
「学校でネイルアートは禁止かなと思って。」
「へーき、へーき、うちの高校、犯罪さえおこさなきゃ何でもありだから。」
「そういう事で、河野、今日の放課後は 杏奈借りるから。」
放課後、クラスの女子はほとんど残っていた。
杏奈は理沙の指に仕上げのLEDを当てていた。
「ヒェー、すっげ細かい
はい、トイプードルちゃんでーす。」
「凄いだろう、
杏奈ちゃんは、これを左手の指全部に描いていたんだぜ。」
「別に河野が凄い訳じゃないから、
あっ、そういえばこの犬、私から見て正面だよね。」
理沙は杏奈の顔をじっと見た。
「プロだよ、あんた天才!」
「やだ、同じ部屋の人にも描いてあげてただけだよ。 喜んで貰えるから。」
見せて、見せてと言って皆んな集まって来た。
「私にも描いて!」
と皆んなが言い出した中で1人、髪の毛がちぎれたエミだけが、
「ネイルアートはバイト先で禁止されてるんだよね。」
と残念そうに言った。
「薄い色のマニキュアならいいの?」
杏奈は、エミの爪に薄いピンク色を塗った。
その上に別の少し濃いピンクでウサギを描き、マットな透明なコートを塗るとそれをスッスッと削った。
それが固まってから、また別の透明コートを薄く塗り重ねた。
「先に塗ったコートにクラフトカッターで細くスリットを入れて、正面からの光しか通さなくするの、
見て、こうすれば正面から光を当てて見た時だけ、ピンクのウサギが、浮き出るから。
他の人から見たら、普通のマニキュアよ。」
「凄い凄い! 可愛い!」
「隠れバニーだー」
「特許とれ! 杏奈、特許だよ!
パテント料で暮らしていけるぞ!」
理沙が興奮して騒ぎ立てた。
「杏奈ちゃん、すっかり人気者だね。」
「ちぇっ、大野のやつ独占しやがって。」
「こうなって欲しかったんだろ。」
「あー、つまんね。」
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「あーんなちゃん、
こんな所にいたの?」
「私、体育は見学だから、
河野くんこそどうしたのよ?」
「んー、俺も見学、
杏奈ちゃんの姿が見えたから休んじゃった。」
「それサボりじゃないの?」
「構わねーよ、どうせ真面目にやってるやつなんていないから、
ホラ、あそこでサッカーなんか始めてる。」
「杏奈ちゃん、この頃女子とばっかりつるんでるんだもん。
寂しいなあ。」
(そういえばそうだったっけ)
「分かった、ごめんね、」
「んじゃ、お願い聞いてくれる?」
(なんだか、すっごい甘えっ子になってる。)
「はいはい、何でもいいですよ。」
「ひざまくら」
え?
「俺ね、女の子の膝枕で寝てみたかったんだ。」
「あのさ、ここ学校だよ、今授業中!」
「誰も真面目に授業なんかしてねーって。」
河野くんは、ベンチで座っていた私の膝の上に
いきなりゴロンと頭をのせてきた。
「ちょっと、あのね、」
「んー」
河野くんは幸せそうに寝返りをうった。
私は周りをキョロキョロ見まわした。
(まあいっかー)
「へー女の子の膝って柔らかいんだー」
「えー、そんなことないよ、
私、肉が付いてないから、ゴリゴリして寝心地悪いでしょう。」
「そんなことないよー、柔らかいよー」
彼は満足そうに笑った。
「河野くんはね、
...あったかいね。」
「えー、そんなことないだろ、」
「本当だよ、河野くんも、河野くんのまわりもいつもあったかいのよ。」
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