豊橋ダンジョン 隠しボス 裏 ── 雪 視点 ──

今回は短めです。

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お兄ちゃんからの念話に答えた私は、一旦サブチャンネルのお兄ちゃん視点の映像を停止し、今も配信を見てくれている視聴者の皆に呼び掛ける。


「皆、聞いて。もしこの中に探索者じゃないよって人がいたら、この先を見るのはあんまりお勧めしないから、ブラウザバックをお願いしたいんだ。……多分、ここからは、普通の人が見たら発狂する可能性があるの。」

〈分かった〉

〈ネタ……じゃないんだろうな〉


いつになく真剣なトーンだったこともあってか、視聴者の皆は素直に私の言葉に従ってくれる。


「……いい?再生するよ?」


同接の減少がおさまったことを確認して、私は映像を再開する。


── 映像には、一体の顔のないマネキンのようなものが映っていた。それが姿を変え始めるのと同時に、画面と音声にノイズが走る。


「え、そ ── ょっ ── ない ── ど。」


お兄ちゃんが何かを言っているが、ノイズのせいでうまく聞き取れない。そしてノイズが収まると、マネキンのあった場所には黄色のローブを身に纏った"何か'がいた。


「何……あれ……。」

〈気持ち悪い……〉

〈サイトのプロテクト通しててこれって……〉

〈何でサクラは無事なの……?〉


その悍ましい見た目に、コメント欄でも体調不良を訴える人が何人か見受けられる。無理もない。


(雪。)


すると、お兄ちゃんから念話が届く。


(いつでも行けるよ!)

(悪いけど、それはやめておいたほうがいいかも。)

(何で?)

(すっごい悪い出目引いたって言えばわかるかな?)

(?よく分からないけど……私はいないほうがいいのかな?)

(うん。下手すると、混沌の迷宮のあの時以上に厳しい戦いになるかもしれない。雪は、みんなの避難を優先して。)

(分かった……お兄ちゃん、死なないでね……。)

(うん。絶対生きて帰るよ。)


そんなやりとりをした後、私は再び画面に注目する。すると、お兄ちゃんが不思議な動きを見せる。


「躱す……?受けようとしてたのに ──」


その瞬間、お兄ちゃんの映像から大音量の音が聞こえてくる。


〈うおっ!?〉

〈うるさ!〉


その音量に、私は思わず耳を塞いでしまった。


「これ、お兄ちゃんは大丈夫なのかな……。」


音の感じ的に、お兄ちゃんの左スレスレを通っていった感じがあったけど……。もしかしたら、左耳がやられてるかも。私がそう考えていると、再びお兄ちゃんから念話が届く。


(雪?)

(今度は何?)

(ちょっと雪の"眼"を貸してほしいんだけどいい?)

(いいけど……あれ・・何なの?肝心な部分の映像が乱れてたせいでわかんなかったんだけど……。)

(うーん……模倣体コピーの参照元の抽選でファンブった結果?)

(あー……なるほど?ちなみに参照元は?)

(アイホート、ハスター化身、トルネンブラ。)

(え……やばくない?)

(うん。)

(それは仕方ないね。……はい。)

(ありがと。)


思った以上にとんでもない敵と戦っていることが判明し、私はお兄ちゃんに未来視の眼を貸し出す。


「これ、勝てるかな……?」

〈結構辛そうだよな〉

〈ちなみに相手って何なの?〉

「えーっとね、お兄ちゃんは模倣体って言ってたよ。」

〈ちなみにステータスの参照元は?〉

「アイホート、ハスターの化身、トルネンブラだって。」

〈わーお全部神格〉

〈勝てるかそんな敵!?〉

〈……あれ、実質三体の神格とやり合ってるサクラって……〉

〈……このことは考えないでおこう〉


模倣体のステータスの参照元を聞かれた私は、お兄ちゃんが言っていた通りに答える。その結果、お兄ちゃんの強さについて一瞬気づきかけた人がいたけど、考えないことにしたみたいだ。……正直、正解だと思う。時々お兄ちゃん、私でも意味わかんないことするから、冒険者を続けたいならお兄ちゃんの強さは考えないほうがいいだろう。そんなことを思いつつ、私はお兄ちゃんが勝てることを祈るのだった。

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