ダンジョン暮らしの『精霊』は、今日も無自覚に無双する 後日譚

葉隠真桜

ダンジョンRTA編

ダンジョンRTA

「ダンジョン攻略RTA?」


とある日の昼下がり。僕は雪の口にした聞き覚えのない単語に首を傾げていた。


「うん。ここからそう遠くないところに豊橋ダンジョンってあるじゃん?」

「あー、あのたいていのギミックが揃ってるとこ?」

「そうそう。そこで最近、ダンジョンをどれだけ早く攻略できるかっていうチャレンジが流行ってるの。」

「へー……。物好きな人もいるんだね。」


── いくら攻略済みのダンジョンだとしても、ダンジョン内で死亡したら当然復活はできない。この世界はゲームではないのだから。なのに、RTAのような危険の伴うことをするなんて、物好き以外の何者でもない。


「でね?お兄ちゃんには、配信でこれをやってほしいんだよ。」


すると雪は、しれっとそんな提案をしてくる。


「……何で?確かに早く攻略することはできるけど……正直、やる意味なくない?」


少し前の、『混沌の迷宮』の一件で、僕は普通の冒険者の常識を学んだ。……それと、僕たちがどれだけ規格外なのかも。


「僕の攻略の仕方だと、正直配信映えもしないし、大抵の人じゃ何をやってるかわからないと思うよ?」

「それに関しては、私が解説をするから大丈夫だよ。……それに、これに関しては一条さんからやってほしいってお願いされたことだしね。」

「何故に一条さんが?」


あの人ならむしろ、そんな危険な行為を禁止すると思うんだけど……。


「お兄ちゃんもわかってると思うけど、このダンジョンRTAってすごく危ないんだよね。事実、何人も死んじゃってるし。」

「……つまり、このままRTAで死ぬ人がで続ければ、内濫スタンピードが起こるかもしれない、と?」


そんな僕の言葉に、雪は頷く。ちなみに内濫っていうのは、この間の『混沌の迷宮』のクリア報酬として、氾濫スタンピードの代わりに設定されたもので、わざわざ名前を変えるのも面倒だったからこう呼ばれている。モンスターがダンジョンの外に侵攻する氾濫と違い、内濫はダンジョン内にモンスターが溢れかえる現象になっている。正直、対処のめんどくささは内濫の方が高い。


「それで、私たちのチャンネルで注意喚起しつつ、誰にも破れないような記録を出してほしいんだって。大抵死んでるのは無理して記録を更新しようとした馬鹿たちだから、桜がとんでもない記録を出せば死人は減るだろって一条さんは言ってたよ。」


── 一条さんらしいな。


雪の言葉にそう感じた僕だったが、すぐにとある可能性に思い至り、雪に問いかける。


「……確かにちょっとは減らせると思うけど、僕だよ?その記録、効果あるのかな……。」

「……やっぱりそうだよね……。」


僕がそう問いかけると、雪も同じことを思っていたのかそんな返事が返ってくる。


繰り返して言うが、正直僕たちは世間一般の探索者からは大きく逸脱した能力を持っている。だから、僕がとんでもない記録を出したとしても、いわゆる参考記録みたいな扱いになる可能性が高い。それに、下手にいい記録を出せば他の探索者を刺激するだけになっちゃうし……。何かいい方法はないかな……。


そう僕が考えていると、一つのアイデアが思い浮かぶ。


「……そうだ。こういうのはどう?」


そのアイデアを雪に伝えると、


「なるほど……。確かにそれなら効果もありそうだね。」


と、かなりいい反応が返ってくる。


「たけど、それってできるの?」

「大丈夫だと思うよ。この間の仕事の報酬がまだだし、向こうも想定外の仕事だって言ってたから、ちょっと無理を通すくらいならできるでしょ。」

「……あの人たちにそんなことを言えるなんてすごいね……。……分かった。もしできそうなら、一条さんにもちゃんと伝えておいてね。」

「分かってるよ。流石にこれを独断でやったら、世間に余計な争いを生むことになっちゃうしね。」


── まあ、事前に相談しても一条さんの仕事が増えることに変わりはないんだけどね。『混沌の迷宮』の一件以来、日本の上位層のレベルが高いことが明らかになって最近諸外国から色々言われて忙しいらしいけど、そもそもこの件は一条さんが僕たちに持ち込んだものだからきっと仕事を増やしても文句は言われないよね。


「それじゃあ、とりあえず聞きに行ってみるね。」

「うん。気をつけてね。」


そうして僕は立ち上がって時空間魔術を発動し、とある場所へと向かうのだった。

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