第21話 殿下の不幸
「お、お父様……この方は」
「ああ、名乗るのが遅れました。私はラナン・ファイロジアと申します、アネモネ嬢……そしてディルフィル」
ラナン・ファイロジア!? この名前はこのファイロジア国の者なら大抵は知っている王太子の名前だ。何故王太子殿下が我が家に現れるのか? お父様をみてもやっぱり嫌いなものを齧った苦い顔。どうやら王太子殿下が招きたくない客だったらしい。
「こんにちは、ラナンさま。ぼくはディルフィル・ウィンフィールドともうします!」
「素晴らしい挨拶をありがとう、ディルフィル。君は良い公爵家の跡取りになりそうだね」
「はい! ありがとうございます」
ディルフィルは元気に挨拶は出来たけれど、私は得も言われぬ不安に溢れている。
「ラナン殿下、ここで話す事でもあるまい。こちらへ……アネモネも来て欲しい。ルシー、ディルフィルと遊んでいてくれ」
「かしこまりました。旦那様」
ラナン殿下にお父様の執務室へ促し、その後に私も続いた。一体王太子殿下が我が家に何の用なのだろうか。ついその長身を見てしまう。見るたびに何故か目が合って、微笑みを浮かべてしまうけれど、王太子殿下が何をしに我が家へやって来たのか理由が分からない。
執務室へ着くと、殿下と私をソファに促し、お父様はため息をついた。そして少し考えていたようだけれど、埒が明かないという風に嫌々口を開いた。
「アネモネ。ラナン殿下は近頃やっとおかしな毒物から解放され、このように歩けるほど回復なされた」
「そのようでございますね。ご病状のご回復、喜ばしく思います」
「ありがとう、アネモネ嬢。とはいえ失った物も大きいのだが……王太子の座とかね」
「殿下っ! その事はまだ内密でございますぞ」
「だがすぐに発表されるだろう」
え……文武両道で民衆にも人気があるラナン殿下が王太子ではなくなるの? 確かに殿下には2歳年下の弟君がいらっしゃる。そちらの方が王太子になるの? そんな大切な話を何故我が家で?
「なぜ……」
ついそう呟いてしまった私に、殿下は小さく笑って教えてくれた。
「この度、私が一命をとりとめたのはアネモネ嬢の気づきが元だったと聞き及んでいる。とても感謝している……私は一命をとりとめたが、健康上大切なあることを失ってしまったんだよ、聞いたことがあるだろう? あの薬を常用していた者の末路だ」
「も、もしかして……お子が」
「ああ、医者の見立てではもう子供は望めないだろうということだ……故に私は自ら王太子の座を弟に譲った」
「なんという……」
ナルクは自分から薬を求め、その副作用で子供ができない体になってしまった。しかし王太子殿下は自分の意志で薬を飲んだわけじゃない。王太子妃アイビー様に飲まされ続けていたのだ。それが原因なんて……殿下は何も悪くないのに。それでも国王となる者は跡継ぎが絶望的な者を据えるわけにはいかないとなったんだろう。そして後々争いの火種になってはいけないと、ラナン殿下は自ら王太子の座を退いた、そういうことなのだろうけれど。
何と不幸な……私はつい憐みの目を殿下に向けてしまった。
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