第18話 ナルクはどうでもいいのですけれど

可愛らしい息子のディルフィルはすくすくと成長し3歳になる。大きな病気もないし、至って健康。オモチャの剣を振り回してちょっとやんちゃな所もあるけれど、頼もしい限りだ。


「おかあさまー! おじいちゃまー!」

「んほーっ! ディはかわゆいのう~! おじいちゃまとお庭でブランコ乗ろう」

「うん~、おじいちゃま、あそびましょう~」


 そんな楽しい午後は、見たくもない来訪者のせいで台無しになってしまった。


「す、すみません……金が払えなくて……」

「今月もか? 一体何をしておるのだ、デニス侯爵。ナルク君はしっかり働いておるんだろうね?」

「そ、それがナルクは今、病を得まして……」

「はぁ。女遊びが祟ったのでは?」

「そ、そんなことは……いや、あるかもしれません……」


 婚約破棄で慰謝料は相殺したけれど、ナルクが何も考えずに我が家にやって来るので違約金が発生した。それをデニス侯爵は毎月返済しているのだけれど、ここ最近滞納が続いている。呼んでもいないのにその釈明にやってきた。顔も見たくない男だけれど、こればかりは仕方がない。


「ナルク君はダリア嬢と結婚したのだろう? それなのにまだだらしのない生活をしておるのかね?」


 呼んでもいないのに来たんだから、嫌味の一つ二つ聞いていくべきだ。お父様も事あるごとにこういっている。ダリアと結局結婚したナルクはダリアの家に婿養子に入って今はマリクス子爵の地位を継ぐことが決まっている。本人は泣いて嫌がったようだけれど、ダリアとの間には子供もいるし、うちからの無言の圧力もあって、収まる所に収まった。当然家計は苦しく、ダリアとのけんかは絶えないそうだけど知ったことではないわ。


「自覚のない甘ったれの次男よりどこぞの馬の骨の方が良かったと言わざるを得んなぁ!」


 本当にその通りだと心の底から思う。


「しかし、息子は近頃はベッドから起き上がることもできなくなり、動悸は激しく、ふらつき……」

「そういえば子も学生時代産んだ一人だけだったな」

「やることはやっているらしいけれど、まあ……」


 呆れ気味のお父様だけれど、私は少し引っかかるものを感じた。


「デニス侯爵。ナルクの症状ですけど、ベッドから起き上がれなくて、動悸が激しくふらつくっておっしゃいましたよね?」

「ア、アネモネ嬢……も、もしや我が愚息をそんなに心配していただけるとは……アネモネ嬢さえ良ければすぐにナルクと結婚を、なあにダリアなどすぐに処分して」

「それは絶対にない話ですが」

「うう……」


 ナルクの症状、どこかで聞いたことがある気がするのだ。しかも過去ではなく最近いった夜会だった気がする……そうだ、思い出した。


「ねえ、お父様。それ、王太子殿下もそのようなご病気ではなかったでしょうか? まったく同じに感じるのです」

「……そういえば……もしや」

「ほへ……」


 勘が悪く呆けているデニス侯爵にすぐナルクの元へ向かい徹底的に調査するように命じた。これは大ごとになるかもしれない。私とお父様も顔を見合わせて頷きあう。


「アネモネ、私も急ぎ城へ向かう。お前とディルフィルは留守番を頼む」

「分かりましたわ。お父様」


 違うかもしれないけれど、もしこれが何らかの毒物でもたさられた症状なら王太子暗殺の大事件ということになってしまう。ナルクはどうなってもいいけれど、王太子殿下はご病気で伏せる前は政治的手腕もあり、民を思うお心も素晴らしいと評判のお方。そんな方は失っては我が国の損失になってしまう。

 前の人生の記憶には王太子殿下のことはまったく出て来なかった……もっといろいろな世間の情報に敏感になっておくべきだったと反省しても遅いのであった。


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