雨の中の十字架
「やはり、真の狙いは、女王ではなくアガーテか・・・うすうすそんな気はしていたが」と、オーウェン。
「それより、マドリーン」と言って、その隙に、オーウェンは自分に向けられた銃口を、右手でぐいっと下に向けさせた。
「貴様、何歳だ!??少なくとも、フェイトの過去の一部を共有しているな!?」と、オーウェン。
「さて、何歳でしょう!??フェイト様とは、付き合い長いわよ」と、マドリーンがにやりと笑った。
*
「アガーテ、アガーテ‼!起きて、アガーテ!」と、彼女を呼ぶ声がする。
「・・・・!?!?」と、アガーテはうっすらと目を開けた。
額から一筋、血が流れ、固まっている。あの時、頭を剣の柄で打たれた時か。
「母上!!ここは・・・」
その言葉のあと、アガーテは驚愕した。自分たちが、プルドー・ベイ城の裏庭・・・ちょっとした丘のようなところ・・・・で、木でできた十字架に、手足をロープで縛られ、拘束されている・・・はりつけにされていたのだ。
隣を見ると、母・ミラナ女王も、同じようにはりつけにされていた。
雨もやまない。
「よかった、気が付いたのですね」と、女王が言った。
「母上・・・いつから私たちはここに・・・?」と、アガーテ。
「私は15分ほど前に目覚めました、それからずっとあなたの名を呼んでいたのです」と、ミラナ女王。
「そうですか・・・」と、アガーテ。雷の音が遠くでする。
と、その時、二人の耳に、雨音に混ざって、馬車のコロコロ、という音が聞こえて来た。
敵・・・シェフチェンコか!?と思いつつ、敵の正体が分からぬまま、二人は恐怖の中、その馬車が到着するのをただじっと待った。
「さあ、降りてちょうだい、ガーディアンさん」と、マドリーンが言った。銃はおろしている。
「この先に、アガーテちゃんとミラナ女王陛下がおられるわよ。嘘はついてないわ」と、マドリーン。
「貴様、18の時から、ミラナ女王陛下にお仕えしている身と聞く。陛下やアガーテに対して、情というものはないのか!」と、オーウェン。
「だからメッセージを残したじゃない・・・・『親愛なる女王陛下へ マドリーンはもう帰ってこない。最期の時を楽しめ』ってね!私だって、人間だもの、惜別の情ぐらいはあったわ!でも、私は、フェイト様についていくと決めたの。フェイト様は・・・フェイト様は、運命を最も嫌う人だから。だから、ご自身のことを、あえてフェイトと名乗っておられるのよ!私は、そのお考えに同意した、ってワケ」と、マドリーンがふふん、と微笑む。
「フェイトは王室に恨みを持っていると聞いてる。それについては、何か聞いているのか」と、オーウェン。
「それは、ミラナ女王とアガーテの処刑場で話しましょ。さ、馬車から降りなさい、ガーディアン!!」と、マドリーンが手元のピストルをちらつかせる。
「私は、400歳は越えてるわ。それだけ、教えてアゲル」と、マドリーン。
「・・・・」(この先に、陛下とアガーテがいるのか?)と思いながら、オーウェンは背中に突き付けられた銃におされて、馬車を降りた。
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