第18話 エルフ村の肩こり事情
(永遠に生きても、肩は凝るらしい)
その日、レイとトトは“緑の迷い森”と呼ばれるエルフの村を訪れていた。
空気は澄んでいて、鳥の声が遠くで響く。幻想的で、神秘的で――
【レイ】「……なんか、空気がおいしい。あと、肺がよろこんでる」
【トト】「エルフの村って、こう……“ファンタジーの精髄”って感じするよね」
【レイ】「でも、そろそろ“何か問題抱えてる”のがお約束って知ってるから、警戒はしてる」
【トト】「すっかり汚れた旅人になったね……」
村の中央には、木々と一体化した建物が並んでいた。
葉の屋根、木の幹のカウンター、苔のカーペット。どれも丁寧に作られていて、自然と共に生きている感があった。
レイが市場らしき広場を歩いていると、ひとりのエルフが声をかけてくる。
【エルフ】「あなた……人間の商人ですか?」
【レイ】「はい、まあ。一応、商人ですけど……なにか」
【エルフ】「……肩こりに効くもの、持ってませんか?」
【レイ】「……はい?」
【トト】「今、森の精霊みたいな雰囲気で言いましたけど、言ってる内容ただの健康相談ですけど」
◆
事情を聞くと、エルフの一族は長命であるがゆえに、“蓄積型の疲労”に悩まされているという。
【レイ】「でもエルフって、優雅に暮らしてるイメージあったけど」
【エルフ】「そう見えるだけです……長寿は、美しさと共に“肩と腰の張り”も持続させるのです……」
【トト】「なんかその表現、エルフっぽく言おうとして余計に現実感出てるな……」
【レイ】「それで、肩こりグッズを?」
【エルフ】「魔法でなんとかしようとしたら、筋肉が逆に硬直して倒れた者もいて……今は禁術扱いに」
【レイ】「魔法で肩こり改善→禁術化、の流れの意味がわからなさすぎて逆に興味ある」
◆
レイは荷物をひっくり返して、かつてどこかの村で手に入れたマッサージ用の“あたため石”と、
精霊の気を練りこんだという“つぼ押し枝”を取り出した。
【トト】「それ、まさかの需要が来たね」
【レイ】「今まで誰も見向きもしなかったのに……ここで主役かよ」
試しに使ってもらったところ、エルフの目が潤む。
【エルフ】「……肩が……生き返った……!」
【トト】「蘇生魔法より効果あるらしい」
【レイ】「肩が軽いだけで、種族の危機感が吹っ飛ぶ異世界」
それからというもの、レイの前には次々と“肩こりエルフ”が行列を作った。
物静かで優雅なエルフたちが、「ここ……もうちょっと強めで……」と漏らす光景は、なかなかに異様だった。
【トト】「エルフの森、完全に“癒やしサロン”と化してる」
【レイ】「俺、この旅でいちばん“ありがたがられてる”気がする……肩押してるだけで……」
【トト】「逆に今までがひどかった説あるよね」
◆
夜。焚き火のそばで、レイはそっとマフラーを外しながらつぶやく。
【レイ】「……なんか、不思議だよな。
魔法も剣も使えなくても、“ちょっと肩が軽くなる”だけで、すごく感謝される」
【トト】「世界を救わなくても、今日を救うくらいならできるってことだよ」
【レイ】「……それ、わりといい言葉だったな」
◆
今日のまとめ:
不老でも、不死でも、肩はこる。
だからこそ、小さな癒しが、大きな感謝を生む。
そして明日もまた、誰かの“ちょっとだけつらい”を軽くしていく。
【トト】「あ、わたしも肩こってきた〜」
【レイ】「精霊も肩こるのかよ……」
次回、第19話「何でも溶かす薬が売れません」
効果が強すぎる薬は、売れない。なぜなら“説明した瞬間、引かれるから”。
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