第18話 エルフ村の肩こり事情

(永遠に生きても、肩は凝るらしい)


その日、レイとトトは“緑の迷い森”と呼ばれるエルフの村を訪れていた。

空気は澄んでいて、鳥の声が遠くで響く。幻想的で、神秘的で――


【レイ】「……なんか、空気がおいしい。あと、肺がよろこんでる」


【トト】「エルフの村って、こう……“ファンタジーの精髄”って感じするよね」


【レイ】「でも、そろそろ“何か問題抱えてる”のがお約束って知ってるから、警戒はしてる」


【トト】「すっかり汚れた旅人になったね……」


 


村の中央には、木々と一体化した建物が並んでいた。

葉の屋根、木の幹のカウンター、苔のカーペット。どれも丁寧に作られていて、自然と共に生きている感があった。


レイが市場らしき広場を歩いていると、ひとりのエルフが声をかけてくる。


【エルフ】「あなた……人間の商人ですか?」


【レイ】「はい、まあ。一応、商人ですけど……なにか」


【エルフ】「……肩こりに効くもの、持ってませんか?」


【レイ】「……はい?」


【トト】「今、森の精霊みたいな雰囲気で言いましたけど、言ってる内容ただの健康相談ですけど」


 



事情を聞くと、エルフの一族は長命であるがゆえに、“蓄積型の疲労”に悩まされているという。


【レイ】「でもエルフって、優雅に暮らしてるイメージあったけど」


【エルフ】「そう見えるだけです……長寿は、美しさと共に“肩と腰の張り”も持続させるのです……」


【トト】「なんかその表現、エルフっぽく言おうとして余計に現実感出てるな……」


【レイ】「それで、肩こりグッズを?」


【エルフ】「魔法でなんとかしようとしたら、筋肉が逆に硬直して倒れた者もいて……今は禁術扱いに」


【レイ】「魔法で肩こり改善→禁術化、の流れの意味がわからなさすぎて逆に興味ある」


 



レイは荷物をひっくり返して、かつてどこかの村で手に入れたマッサージ用の“あたため石”と、

精霊の気を練りこんだという“つぼ押し枝”を取り出した。


【トト】「それ、まさかの需要が来たね」


【レイ】「今まで誰も見向きもしなかったのに……ここで主役かよ」


試しに使ってもらったところ、エルフの目が潤む。


【エルフ】「……肩が……生き返った……!」


【トト】「蘇生魔法より効果あるらしい」


【レイ】「肩が軽いだけで、種族の危機感が吹っ飛ぶ異世界」


 


それからというもの、レイの前には次々と“肩こりエルフ”が行列を作った。

物静かで優雅なエルフたちが、「ここ……もうちょっと強めで……」と漏らす光景は、なかなかに異様だった。


【トト】「エルフの森、完全に“癒やしサロン”と化してる」


【レイ】「俺、この旅でいちばん“ありがたがられてる”気がする……肩押してるだけで……」


【トト】「逆に今までがひどかった説あるよね」


 



夜。焚き火のそばで、レイはそっとマフラーを外しながらつぶやく。


【レイ】「……なんか、不思議だよな。

魔法も剣も使えなくても、“ちょっと肩が軽くなる”だけで、すごく感謝される」


【トト】「世界を救わなくても、今日を救うくらいならできるってことだよ」


【レイ】「……それ、わりといい言葉だったな」


 



今日のまとめ:


不老でも、不死でも、肩はこる。

だからこそ、小さな癒しが、大きな感謝を生む。


そして明日もまた、誰かの“ちょっとだけつらい”を軽くしていく。


【トト】「あ、わたしも肩こってきた〜」


【レイ】「精霊も肩こるのかよ……」


 


次回、第19話「何でも溶かす薬が売れません」

効果が強すぎる薬は、売れない。なぜなら“説明した瞬間、引かれるから”。

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