第16話 呪いの人形が返品された理由

 (“気持ち”がこもってる物ほど、扱いは難しい)


王都の市場を歩いていたら、

骨董屋の前で、妙に静かな張り紙が目に入った。


《返品受付中:しゃべりすぎる呪いの人形》


【レイ】「いや待て。“しゃべりすぎる”って、それ呪いか?」


【トト】「たぶん、“場の空気が読めない”系呪術だね」


【レイ】「人間でもいるな、その呪われ方……」


 



店の奥には、確かに人形がいた。

木彫りで、ちょっと焦げてて、表情はなぜか笑顔。

名前は“レベッカ”。元・呪術師の手作りらしい。


【トト】「……笑顔がすでに圧強くない?」


【レイ】「というか、なんで返品されたかってのが既に見えてきた気がする」


【人形】「こんにちは!今日もあなたに幸せをお届けします!昨日は夢見ましたか?私は見ました!空を飛んでる夢です!」


【トト】「わーーーーー! しゃべったーーーーー!!」


【レイ】「なにこの元気100%。朝のニュース番組かよ」


 


【レベッカ】「ちなみに、あなたの服、ボタン取れそうですよ!縫製が甘いです!」


【レイ】「悪気はないけど心が削れるやつ来た!」


【トト】「情報量が多い!感想、分析、アドバイスが一度に来る!」


【レイ】「この子、しゃべるLINEスタンプみたいなテンションだな……」


 



【店主】「いやぁ、その子、最初は“癒し系アイテム”として売ってたんだけどね」


【レイ】「それ、どこでどうボタン掛け違ったんですか……?」


【店主】「“しゃべる=かわいい”と思ったら、実際は“止まらない=うるさい”だったっていうね」


【トト】「ペット型家電の失敗事例かな?」


【レイ】「しかも“返品理由:深夜まで喋って寝かせてくれない”って書いてある……」


【トト】「エネルギーだけは無限なんだな、この子……」


 



しばらく話してるうちに、気づいた。


レベッカは、喋ることで“誰かと繋がっていたい”らしい。

それが不器用なかたちでしかできない、ただそれだけのこと。


【レベッカ】「しゃべっていると、ひとりじゃない気がして……」


【レイ】「……それ、呪いってより、“性格”じゃないか?」


【トト】「ていうか、私も結構しゃべる方だから、ちょっと親近感ある」


【レイ】「わかる。でも“止まらない”のは君もたまにあるからね?」


【トト】「今その話いる?」


 



【レイ】「……じゃあこの子、市場の案内係とかに使えないかな?」


【トト】「あ、それいいね。“話しかけられる系の接客”ならむしろ向いてる」


【レイ】「“黙って立ってるだけの人形”より、“止まらないけど明るい人形”のほうが記憶には残るし」


【トト】「“記憶に残る”って言い方、だいぶギリだけどね」


 


それから数日後――

市場の入口で、元気にしゃべりまくるレベッカの姿があった。


【レベッカ】「こんにちはー!今日のおすすめは魚の干物!あ、あとそこのお兄さん、寝不足ですね!?目が死んでます!!」


【トト】「……やっぱり接客じゃなくて実況向きかも」


【レイ】「いや、それでも立派に“役に立ってる”なら、もう十分だろ」


 


今日のまとめ:

うるさすぎる優しさも、使いどころを間違えなければ価値になる。

“合わなかった”ってだけで、不要じゃない。


【トト】「でもレベッカ、次の段階で“ラップ調で話し出す”とかあったらさすがに返品かもね」


【レイ】「それ、逆に人気出るぞ?」

 


次回、第17話「盗賊団と物々交換」

取引相手は盗賊団!? 無理ゲー交渉にレイが挑む!

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