第7話 協力者

翌朝、陽依は香澄の家の窓から外を見た。通りには黒い車が停まっていた。


「来てる……」陽依は緊張した面持ちで言った。


香澄も窓際に立ち、外を確認した。


「あの車、昨日あなたの家に来た人のものね」


シアのホログラム体も2人の隣に立った。その表情には不安が浮かんでいた。


「彼らは諦めないのですね」


「うん……」陽依は考え込んだ。「このままじゃ、いつか見つかっちゃう」


香澄が突然明るい声で言った。「そうだ!学校に行こう!今日は土曜日だけど、図書委員会の活動があるから、校舎は開いてるはず」


「学校?」


「そうよ。彼らは民間人でしょ?学校には簡単に入れないわ」


陽依は香澄のアイデアに頷いた。「それはいいかも。でも、どうやって家を出る?見張られてるよ」


香澄は悪戯っぽく笑った。「裏口から出ましょ。うちの庭は隣の公園につながってるの」


3人は急いで準備をした。陽依はシアのクリスタルをポケットに入れ、香澄は二人分の弁当を用意した。


「用意はいい?」香澄が尋ねた。


「うん」


香澄の案内で、2人は裏庭から公園へと抜け出した。公園を抜けると、学校への近道がある。


「あの車の人たち、気づかなかったみたい」香澄は後ろを振り返りながら言った。


「よかった……」陽依はほっとした様子だった。


学校に着くと、予想通り校舎は開いていた。図書委員会の活動のため、数人の生徒と教師が来ていたが、ほとんど人はいない。


「図書室に行こう」香澄が提案した。「土曜日はほとんど誰も来ないから」


図書室は静かで、予想通り誰もいなかった。2人は奥の閲覧スペースに座った。


「ここなら安全ね、しばらくは」香澄は言った。


陽依はポケットからシアのクリスタルを取り出した。シアのホログラム体が現れる。


「ありがとうございます、お二人とも」シアは感謝の言葉を述べた。


「気にしないで」香澄は微笑んだ。「友達でしょ?」


シアは感動したように香澄を見つめた。


陽依はスマートデバイスを取り出し、父親に連絡を試みた。しかし、やはり繋がらない。


「おかしいな……お父さん、電話に出ないよ」


「拓己博士に何かあったのでしょうか」シアも心配そうに言った。


「わからない……」陽依は不安を感じていた。


その時、図書室のドアが開く音がした。3人は緊張して身を固くした。


「誰かいるのか?」男性の声が聞こえた。


陽依と香澄は顔を見合わせた。声の主は黒崎しゅう、陽依のクラスメイトだ。プログラミングの才能で知られる、無口な少年。


「黒崎?」陽依は立ち上がった。


黒崎が閲覧スペースに姿を現した。彼はシアのホログラム体を見て、わずかに目を見開いたが、すぐに平静を取り戻した。


「佐倉か。土曜日に何してるんだ」


「ちょっと……調べものを」陽依は曖昧に答えた。


黒崎はシアを見つめたまま言った。「そのAI、最新型だな。ホログラム投影機能付き」


陽依は驚いた。「知ってるの?」


「ああ、ネットで噂になってた。ネクサスAIの新製品だろ」黒崎は冷静に答えた。「それより、学校の外に怪しい連中がいるぞ。お前を探してるみたいだった」


陽依は息を呑んだ。「もうここまで?」


黒崎は3人の表情を見て、状況を察したようだった。


「何かトラブルに巻き込まれてるのか?」


香澄が前に出て、簡単に状況を説明した。シアが特別なAIであること、ネクサスAIの人間が回収しようとしていることを。


黒崎は黙って聞いていたが、最後に小さく頷いた。


「手伝おうか」


「え?」陽依は驚いた。


「俺もプログラミングに興味がある。」黒崎はシアを見た。「そのAI、普通じゃないだろ。目が違う」


シアは黒崎を見つめ返した。2人の間に、奇妙な理解が生まれたようだった。


「ありがとう、黒崎さん」シアは静かに言った。


黒崎は無言で頷き、窓から外を見た。


「校門に黒い車が停まってる。中に2人いる」


「どうしよう……」陽依は焦りを感じていた。


黒崎は窓の外を確認して、低くつぶやいた。「裏門も張られてるかもしれない……用務員通路を使おう。古い通用扉がひとつ、壊れたままになってる。知ってるやつは少ない」


陽依が息を呑んだ。「そこから出たとして、どこに行くの?」


黒崎はすぐに答えた。「俺の家が近い。当分は安全だろう」


「黒崎の家?」香澄は驚いた様子だった。


「親は海外出張中で留守だ。誰も来ない」


陽依と香澄は顔を見合わせ、頷いた。他に選択肢はなさそうだった。


4人は図書室を出て、人気のない廊下を通り、用具倉庫の脇にある古びた扉へと向かった。校舎の窓から、黒い車がもう1台、裏門の方へと滑り込むのが見えた。


「あの車の人たち、学校には入れないけど、いつまでも待ってるかもね」香澄が小声で言った。


「だから、死角から出る」黒崎は冷静に答えた。「準備はいいか?」


全員が頷くと、黒崎は扉のノブをひねった。ギイッという鈍い音とともに、通用扉はわずかに軋みながら開いた。


4人は小走りで学校の敷地を離れ、住宅街の路地へと入っていった。

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