第40話 新しい木材
――バーン!
「パパいる!?」
「リーザ。パパの執務室に入る時は、……ってもうわざとやっているだろう?」
「えへへ、分かっちゃった?」
パパは苦笑いしている。壁際で執事長が何か言いたそうにしているが、気にしてはいけない。カティ?カティはもうとっくに諦めてるけど?
「パパ、南方の木材で欲しいものがあるの。パパのツテを頼りたいんだけど、誰か紹介してもらえる?」
「南方といっても色々あるだろう?」
「1つはアフリーカ地方でとれる黒檀。あとは、先年ブドウガル国が新大陸を発見したじゃない?あの地の南方でペルナンブコって木材があるのよね。それらが欲しいの。どちらも丸太1本分でいいわ。」
「アフリーカ地方はなんとかなるだろうが、新大陸はかわいい娘の頼みと言えど無理だぞ。ブドウガルもそれに続いて新大陸に到達したスパニヒも、国家戦略として新大陸と他国が関わるのを禁じておる。」
「ええー、そうなの?」
「ブドウガルにそのなんとかという木材が輸入されて、その上で運良くこちらに流れてくるのを待つしかないだろうな。」
「そっかぁ。じゃあとりあえず、アフリーカ地方の黒檀だけでもお願い。」
「ああ。執事長、手配してやってくれるか?」
「はっ、かしこまりました。」
黒檀は指板、ペグに使うのよね。究極を目指すならリュートでも必要だったけど、通過点でしかないリュートならそこまではいいかと妥協したのよね。でもバイオリンでは妥協できないわ。それにバイオリンの場合、指板、ペグ以外にもテールピース、弓のフロッグでも使うから余計にね。
しかし、ペルナンブコが無さそうなのか。困ったなぁ。
バイオリンに使う弓といえばペルナンブコの木なんだけど。近年ではカーボン素材が代用されているけれど、この世界でそれはちょっと無理。ならばせめて、イチイのような堅い木で気長に試すしかないか。
1か月後、黒檀の丸太1本が金貨25枚で輸入されたが、ペルナンブコはやはり手に入らなかった。
「カティ、今日は村に行くわよ。」
「何か用事ありましたっけ?」
「何言ってるのよ。私は領主なのよ。特に用事が無くても月に1回くらいは顔を出すべきだわ。」
「……お嬢様が、ちゃんとした領主をやっている!?」
「あのねぇ。私ほど自分の村を豊かにしている領主はいないと思うのだけど。」
「くっ、確かにそうかもしれません。」
「なんで悔しがるのよ。」
道中、カティがリコーダーを練習している。私も試作品の時は持ち歩かなかったけど、完成品のリュートは持ち歩いているので、たまに邪魔にならないように伴奏する。
――ぷひー
あら、カティったら音を外しちゃったわね。
私はそれをサポートするように、多少アレンジを加えてリュートを奏でていく。
……。
あら?カティのリコーダーが止まってしまったわ。
「カティ、どうしたの?」
「お嬢様。私なんぞの練習に伴奏していただけるのは大変ありがたいのですが、時々とてもみじめな気分になるので、控えていただいてもいいですか?」
「私は気にしないし、別に気にしなくていいのよ?私の伴奏を踏み台にして練習してくれて。」
「私が気にするんです!」
はぁ。とカティはためいきを一つつくと
「お嬢様。お嬢様のような名人にこのようなお願いをするのは心苦しいのですが、一時間待ってもらえますか?そうしたらお嬢様の伴奏に合わせて練習したいです。それまでは少し自由に吹いて練習したいです。だからお嬢様はそれまで適当に弾いててください。」
「わかったわ。ごめんね、カティ。」
「いえ、そんな。贅沢な悩みだとは思っています。」
じゃあ、なんか適当に弾くかなぁ。
「Lemon(米津玄師)」を弾いてみた。リュートでも悪くないわね。
みるとカティは目を瞑ってうっとりと聞いている。
私が弾き終えると、カティはハッと目を開けた。
「お嬢様。やっぱり何も弾いちゃダメです、私が聞き入ってしまうので。だからじっとしててください。」
「えー?」「かわいくスネてもだめです。」
ちぇっ、しょうがない。大人しくしていますかね。
カティとそんなやりとりをしているうちにヴァルトバッハ村に着いた。一通り視察をしたけど、特に問題になりそうなところはなかったわね。今は視察を終えて子供たちと遊んでいるわ。
私がリュートを弾いて子供たちが歌う。カティもリコーダーで参加すればいいのに、と思うけど、前回子供たちに拙い部分を冷やかされたから、もう少し上手くなるまでは嫌みたいね。
そうそう、そういえば私の知識を総動員できた今年の秋は大豊作だったわ。みんな喜んでいて、お陰で先月行われた収穫祭も大盛り上がりだったわね。
まだリュートの完成前だったから弾かなかったけど、次は少し弾いてもいいかしらね。
子供たちと一緒に村長も一緒に歌っているわね。
そうだ。どうせなら聞いてみましょうか。
「村長、このあたりに珍しい木とかあったりしない?ヴァルデックの材木屋には無さそうなやつ。イチイの木より堅くて弾力があるといいなぁ。」
「珍しい木ですかぁ。私らには何が珍しくて珍しくないのかがまず分かりませんが、イチイの木といえばエングランドの長弓兵が使う弓の素材ですなぁ。それより堅くて弾力性があるとなると、なかなか無いのではないでしょうか?」
「はぁ、やっぱりそうよねぇ。まぁいいわ。もし、そんな木があったら丸太にして、適当にヴァルデックのハンス親方の木工工房に送っておいて。」
「はい。かしこまりました。」
乾燥させる時間も必要だし、ペルナンブコの木がブドウガルの市場に出るのを待ちながら、とりあえずイチイの木を確保しておく必要がありそうね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます