第5話:妻の裏アカ

 妻がいなくなったことに気づきはしたものの、どこに行けばいいのか分からない俺はまだ家のリビングから一歩も出られていなかった。


 テレビドラマみたいに雨の中、思い当たる場所を探して回るみたいなことはしない。俺は合理的なところがあるからかもしれない。理系だし。


「ムックだ」

「ムック?」


 俺のために来てくれた初田先輩にムックについて説明した。


「ムック」は俺の昔住んでいた家……実家に住んでいた時に隣の家に住んでいたやつだ。2階同士の距離が近くてマンガみたいに行き来したりしてよく遊んでいた。


 小学生のころまではよく遊んでいたけど、中学くらいから実際には顔を合わせなくなっていった気がする。それでもゲームとか、共通の趣味が多くてLINEとかでやり取りは続けていた。


 俺は大学に入ったタイミングで実家を出たので約10年は会ってなかったな。


 ネットとかに詳しくて、2ちゃんとか5ちゃんとかにも詳しい。


「要するに、きみの幼馴染みたいなものか?」

「幼馴染……まあ……そんないいもんじゃないですけど……」


 俺の歯切れの悪い返事に初田先輩はしっくり来ていないのを感じたようだった。


「違うのか?」

「俺の中で『幼馴染』って言ったら、かわいい女の子で、主人公のことを盲目的に好きで、将来主人公とねんごろになる……そんなイメージですけど、あいつはその真逆の存在です」


(シュタ)『チョージ、奥さんの名前は?』


「蝶ニ」は俺の名前な。筒泉蝶ニ。ムックとは付き合いだけは長いから、昔からやつは俺のことを「チョージ」と呼んてる。、


「どうした?」

「いや、そのムックが俺の莉々菜の名前を聞いてきたんで……」


 別にやつに隠す必要はないので俺はメッセージを返す。


「莉々菜」っと……。


(シュタ)『ボクも探してみる。ちょっと待って』


「なんか、ムックも探してくれるらしいです……」

「ふーん」


 あいつは莉々菜の顔も知らないし、あったこともないはず。どうやって探すっていうのか……。探したフリか? いや、そんなことをする必要がない。


「それより、奥さんの居場所の手がかりになりそうなものがないか部屋の中を……」


 そこまで先輩が言いかけたところで、ムックから再びメッセージが届いた。


(シュタ)『奥さんってこれ?』


 そう言って、あとにSNSのURLが書かれていた。俺はスマホの画面をタップした。


 そこには、莉々菜のインスタと思われるページが表示された。目線をうまく隠してはいるがアイコンは莉々菜っぽい。


 過去の写真を見ると俺の知らないバッグなどブランド物を見せびらかす感じの写真が多い。


 これは……沖縄? 旅行なのか? いや、これは莉々菜のアカウントじゃない。あいつは旅行なんて行く暇はなかったはず……。


 半分は違うと安堵しながら、ページを進めていく。


「あ……」

「どうした? やっぱり奥さんのアカウントなのか?」


 初田先輩が俺のスマホをのぞき込んだ。


「これ、莉々菜のアカウントみたいです……」


 かなり昔の写真に左手のアップの画像があった。その薬指には指輪が……。結婚するときに買った指輪。あいつがかなりこだわってブランド物のやつを買ったんだ。


 期間限定、数量限定のやつで、直営の専門店でしか買えないとかで、ブランドショップまで連れて行かれて買ったやつ……。


 その手も見間違えるはずがない。人物の画像はほとんどないんだけど、指輪を写すために左手を写したことで俺には分かってしまった。


 裏アカ……って言うのか? そもそも莉々菜がインスタやってたのを俺は知らないし、『表』があるのかも知らないけど……。


(シュタ)『最新の投稿は10分前』


「なに!? ホントか!?」


 慌てて最新の画像を見てみた。


 そこにはテーブルの上に皿が3枚置かれた画像。その皿の上には料理が乗っている。


 1枚の皿に複数の料理が乗っている。


 なんとなく、家ではなく、お店の料理っぽい。


(シュタ)『この画像から店がどこか分かれば、奥さんを見つけられるかも』


 なるほど!


 ……でも、そんなことできるのか!?


(ペトポコペン、ペトポコペン)


 俺のスマホが鳴った。


「なんだその着信音は!? 緊張感が削げるな!」

「あ、すいません。ムックが電話してきたみたいで」


 俺は「通話」のボタンをタップした。


『文字より言葉の方が早いから』


 確かに……。でも、文字入力が遅いのは俺の方かも。ムックは長文でもめちゃくちゃ早く返してくる。やつなりに急いでくれているのかも。


「私は、筒泉くんの会社の者で初田くるるという。奥さんが失踪したということで心配して駆けつけた。よろしくお願いする」

『あう……あう……よ、よろ……』


 ムックは俺だけだと思ってたみたいで、急に言葉に勢いがなくなった。


 昔からあいつは人見知りって感じだった。電話でまでとは……。


 ここで冒頭に話は戻るのだ。

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