〝金銀花〟は止まらない
白神 怜司
第1章 〝金銀花〟結成!
第1章 プロローグ
《――覚醒が完了しました。あなたが獲得した〝ダンジョン因子〟は【月】です》
「……なんて?」
頭の中に響いてきた、無機質な女性と思しき高さの声。
その声を耳にした張本人である少女――
そうして数分近く。
同じように今日という日に〝覚醒〟をするためにやって来た人たちが、ガイドに言われた通りにダンジョンの中を歩いている。
そんな彼ら彼女らが、埴輪のような表情を浮かべて固まる流霞を怪訝な表情を浮かべては横目に歩き去っていく中、ようやく流霞は再起動に成功した。
――……え!? 〝ダンジョン因子〟の【月】ってなに!?
ついさっきまでは「誰もが〝覚醒〟する〝ダンジョン因子〟が私に限って失敗したり……」などとという、気弱な流霞の、無駄に過剰な不安が頭の中を埋め尽くしていたのだが、そんな不安も今となっては消え去っている。
そんなことより何より、当の〝ダンジョン因子〟が聞いたこともないものであることに対する困惑が圧倒的に大きい。
もしや若いままいられるとかそういう、というような女子高生らしい感想であったりといった無駄に冷静な感想も浮かんでいたりもするのだが、まあそれはともかく。
「え……っ。え? えぇ……?」
同じ一文字でありながらも、困惑、疑問、ドン引きという三通りの意味で連続して流霞の口から漏れるのも、無理はないだろう。
そもそも〝ダンジョン因子〟の〝覚醒〟というものは、初めてダンジョンに入り、その中にあるという『魔素』を吸収することによって、己が持つ〝ダンジョン因子〟を目覚めさせ、内部にいる魔物たちに抵抗し、戦う力を得るためのものだ。
ダンジョンがこの世界に現れて、もう50年。
かつては大混乱に陥ったという、異界とも言えるようなダンジョンの発生、そしてダンジョン外に溢れた魔物による襲撃。
魔物には科学兵器の類がろくに通用せず、一時は人類もすわ絶滅かと言われる程に追い詰められたが、しかし同時に超常の力を使えるようになった人間――後に『探索者』と呼ばれるようになった存在が現れるようになり、どうにか全滅は免れた。
それから半世紀も過ぎれば、そのような危険すらも当たり前のように日常の中に溶け込んでいる。
このご時世、ダンジョンに入って『探索者』として活動せずとも、誰もが義務教育である中学校卒業のタイミングで無料の『ダンジョンツアー』に参加し、〝ダンジョン因子〟を覚醒させるのは、スマホを持つ程度には当たり前のものとして普及している。
流霞もまたその一人であったのは間違いない。
もちろん、年相応に「もしかしたら特別な力なんかに目覚めちゃったりして」なんて妄想を抱いたりもしていたが、そんなものは当然の如く有り得ないと考えていた。
だが、蓋を開けてみれば聞いたことのない〝ダンジョン因子〟――【月】。
一般的に、〝ダンジョン因子〟とは要するに〝ダンジョンで戦う力〟――その力を使うことでダンジョンの魔物たちに対抗できるようになる、というものだ。
一般的には【片手剣術】であったりといったものから、珍しいタイプで魔法タイプの【火属性魔法】などを手に入れたりという形となる。
共通するのは、どれも極めればそう大差のない力を得られる、というところだろう。
たとえば剣術ならば飛ぶ不可視の斬撃を放つこともできるようになったりもするし、槍術ならば離れた場所のものですら貫くような一撃も得られたりもする。
要するに、研鑽を続けることによって凄まじい力を得られるものであり、得られたものだけで優劣が決まることはないが、【回復魔法】、【転移魔法】といった〝ダンジョン因子〟を得れば、それだけで高給取り確定とまで言われていたりもする。
だが、そういったものとは全く異なるのが流霞である。
この春から華の女子高生になろうという少女が、聞いたこともない、何ができるかも分からない【月】などという、意味の分からないものを唐突に与えられたのだ。
しかもこの女子高生、いわゆる陰キャである。
コミュ力強者であれば「えー、【月】とかワラ。ウサギが餅つきしちゃう」とでも言いながら草を生やしてSNSにアップし、笑って流せたかもしれないが、無駄に想像力豊かな流霞の中では、すでに自分は謎の組織の実験体にされるところまで想像してあわあわとしている。
ともかく、
――あっ、〝魔装〟確認忘れてた……。
八咫島 流霞、15歳。
3日後から高校生活に不安しか生まれない瞬間であった。
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