顔が見えない
日本の南側に位置するある地方では、怪異が起こると有名だった坂がある。
地元に住んでいる人に取材を行うと、数名の人が奇妙な出来事を体験していた。
取材を行った内の一人である大城さんの話が興味深かったので、今回は書かせて頂く。
暑い日差しがさす昼下がりの事だった。
大城さんがコンビニに向かって歩いていると
おぉーい、おぉーい
と声が聞こえてきた。
声の主を探すと、左手にある坂の下で男が立ち止まってこちらを見ている。
(知り合いか?)
そう思い男をみつめると、坂の下までそんなに遠くないのだが顔がよく見えない。
なんだかボヤけて顔が見えづらいのだ。
近づいて顔を見ようと思い、坂を下り始めると男は突然駆け出して去っていった。
腑に落ちないが、大城さんは坂を上ってコンビニへと向かった。
それから数日が経った後、役場で用事を済ませた大城さんは自宅に向かって歩いていた。
あの日のように暑い日差しの中を歩いて、例の坂を上ろうとした時だ。
おぉーい、おぉーいと声が聞こえる。
坂の上を見上げると、身体中の血が一瞬で凍りついた。
坂の上には目と口の無い男が立っていた。
真ん中に鼻だけがついている平らな顔でこちらを見ている。
坂を上る事ができず立ち止まっていると、男は坂を下り始めた。
大城さんは慌てて駆け出し、坂を上らないルートから自宅まで走って帰った。
この坂では下での怪異にあった人と、上で怪異にあった人がそれぞれいる。
話す内容は大城さんの話と大体同じだ。
大城さんだけは下と上の二つの怪異を体験したそうだ。
この話を語り終えた後、
「もしかして、この怪異は上と下で同時に起こっていたのかもしれませんね」
と大城さんが話してくれたのだが、今では確かめようがない。
坂の途中に建っていた電柱を撤去した後、何故かこの怪異は一切起こらなくなったからだ。
ちなみに、この坂で事件や事故などの忌まわしい出来事が起きた事は今まで一度も無いそうだ。
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