お供物

金城さんが小学生4年生の頃に体験した話。


金城さんの自宅周辺は建物が少なく、手付かずの薮が広がっていた。

将来昆虫博士になる事を夢見ていた金城さんは、時間を見つけては薮で虫を捕まえて生態を研究していた。

研究と言っても餌を与えるだけで、ただ飼育していたという方が適切かもしれない。

そんなある日、大切に育てていた蟷螂が死んでしまった。

数多くいる昆虫の中で、その蟷螂は一番のお気に入りだった。

金城さんは悲しみを癒すため、蟷螂にお墓を作ってあげる事にした。

何か入れ物が無いか勉強机の引き出しを開けてみると、ラムネ菓子が入っているプラスチック容器が出てきた。

いつか食べようと引き出しに突っ込んだまま忘れていた物だったが、ちょうどいい物を見つけたと容器を取り出した。

半分程ラムネ菓子を食べ、容器の中に蟷螂を入れると蓋を閉めて近くにある藪の中に埋めた。

ラムネ菓子を半分残して埋めたのは、蟷螂へのお供物としてだった。

その後

(カマキリのはか)

と書いたアイスの棒を土に挿すと、蟷螂の事を想って手を合わせた。


その夜、金城さんは奇妙な夢を見た。

蟷螂を埋めた藪の中で、知らない男性と向かい合っている。

男性は空っぽの容器を手に持っていた、蟷螂を入れて埋めた容器だ。

しばらく無言で見つめ合っていると、男性はニヤっと笑いお辞儀をした。

頭を上げた後、男性は

「ありがとう、ありがとう」

と笑顔を浮かべながら言った。

その笑顔に不気味さを感じ、何も言えずにいると男性は

「もっともらっていいか?」

どこかを指差しながら言った。

指差した先を見ると、掘り返された土の上に

(カマキリのはか)

と書かれたアイスの棒が置かれていた。

その瞬間、金城さんは目覚めた。


時計を見ると、朝の7時だった。

餌の時間だ──

そう思いながら、身体を起こした。

昆虫達は虫籠に入れて、2階のベランダで飼育していた。

チョウやバッタにカミキリムシ、そしてカマキリと数種類の昆虫がいる。

2階に上がり、窓を開けて外用スリッパを履くとベランダに出た。

虫籠を確認してみると、全部で20匹程の昆虫達が全て息絶えていた。

よく見ると、蟷螂の虫籠だけ様子が変だった。

他の昆虫達は死体が残っているのだが、4匹いるはずの蟷螂だけ姿が見えない。

虫籠は閉まったままなのだが、蟷螂のみ1匹残らず消えてしまった。

夢の事を思い出し、昨日蟷螂を埋めた薮へと向かった。

アイスの棒を目印に土を掘り返すと、容器が見つかった。

中を確認すると、蟷螂の死体とラムネが無くなっている。

しかし、土に汚れた容器の蓋は閉まったままだ。

全身がゾワゾワと震えた。

恐怖よりも、昨晩の夢から始まっている一連の出来事に強い嫌悪感を抱いた。

金城さんは容器とアイスの棒を手に持つと、そのまま近くの側溝に投げ捨ててしまった。


金城さんはその後、小学校の教員となった。

あの日から昆虫嫌いになってしまい、今でも理科の教科書を開くのは嫌だという。

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