037

「ふむふむ、どうしてライトマシンガンはないのじゃ? ランボーごっこができんではないか」

「お前はどっちになりたいんだよ」

「私はメイトリクス大佐です!」


 芽衣ちゃんが手を上げる。


「芽衣ちゃんも空気を読まないでいいからね!」


 まったくどうしてこの二人はこんなにも戦争に関わっている人物の事を知っているのか。いやシモヘイヘ以外はフィクションだけども。


 と言う訳で今、僕達は目の前の会議場を破壊して、中に居る侵略者を全て屠る事を企んでいるのだ。作戦名はラブ&ピースとアンリが自ら呼称していたが、壊滅的にセンスがないので二度と言わないでほしい。


「ふぅ、息抜きはできたかの?」


 黒スーツの僕と芽衣ちゃんとは違い、ディアンドルとTシャツを着ているアンリが僕達に訊ねてくる。どうしても気になるからTシャツを無理やり脱がそうとしたら、痛いと言い張ったので脱がすのをやめておいた。皮・・・なのかな?


「十分に息は吐いたよ」

「私もできました!」


 それに僕達は答えを示す為にそれぞれの武器を構える。僕はツェペシュとアサルトカービンを。芽衣ちゃんはショットガンと匕首を逆手に持ち構える。


 芽衣ちゃんの匕首はギミックが搭載されていて、刀身の中にまた刀身があることだ。そしてその中にまたあり、またその中にある。一本の匕首に計七本の刀身が入っている。眼前でそれを見せられた時は、急に刃が伸びて、顔を切られるかと思った。


「それでは行くかの!」


 アンリが先頭に立ち、集会所の扉の前に立つ。集会所集会所と言っているが、ここは使われなくなった教会だ。目の前の大きな扉は僕達の身長より少し高い。これをアンリは普通に開けるかと思えば、蹴っ飛ばした。


「めいどいんへぶん!」


 可愛くよくわからない単語を叫んだ瞬間に、ミザよろしく会議をしていた五十人程の敵意がこちらに向けられる。女性からお爺ちゃんやお婆ちゃん、おまけに子供までもがいる。だがしかし、今日ここにるこいつら全員がアンリのお墨付きの侵略者だ。その証に誰も逃げ惑うこともせずに、全員が逃げ惑うことなどせずに臨戦態勢になっている。ほら、子供が片手で長椅子を持ち上げているもん。


 この廃教会は誰もが想像するのっぺりと横に長い教会で、右奥に地下室があるだけの簡単な図面でまとめられる。


 ここにいる人物全員が死体になると言う問題は大丈夫だ。みんな身元不明だから。ここで動くは生きる屍。元ある魂を持たぬ肉塊。だけどこの一掃が終わってからは、全員を治して手を合わせるつもりだ。でなければこの人達が報われなさすぎるし、僕は虐殺をしたい訳じゃない。


「誰だ貴様ら!」


 会議の中央で演説をしていたと首魁と思われる男が、僕達に向けて指をさしたと同時に芽衣ちゃんが胸につけているフラッシュバンの栓を引いて投げた。芽衣ちゃんの能力で僕達の顔には光がかかっているらしいので、相手には顔が光っている人間が襲ってきているように映っているのだろうな。


 芽衣ちゃんが投げたのを確認したら耳栓をした。その後眩しい光が教会を照らし上げて目の前にいる奴らは耳を押さえて、目を瞑り、膝をついて、手さぐりで僕達を探している者や、涙を流しながら嘔吐している者に別れた。ザイガ持ちだと言っても、感覚過敏なので、こういう唐突な五感を刺激する攻撃に弱い。一応治癒能力も高いから、効果時間が短くもあるけども、今はこれで十分だ。


 このサングラスは眩しさを物ともしない代物で、芽衣ちゃんの能力でフラッシュバンの光は僕達にはほぼ無害との使用だ。ただし爆音だけは防げないのでしっかりと耳栓をしてないと耳鳴りがずっとするらしい。


 片手でアサルトカービンを乱射する。南霧さんのところで、一度試し打ちをしたし、覚醒もしているので片手で撃っても反動もなんのそので、撃ちこなす。相手の手足を撃って動けなくした後に、ツェペシュで胸をどんどんと貫いて行く作業。


「南無三!」 


 芽衣ちゃんもショットガンを至近距離で撃ち一人ずつの胸に大きな穴を開ける、そこから覗かせる奴らの本体を匕首で刺し身に包丁を添えるように斬って行く。あの匕首にはザイガの力が乗っている。


「一、アル、トレス、フォー!」


 一方乱雑なカウントをしながらアンリはサングラスをしていないのにフラッシュバンをものともせずに、淡々とモシンナガンを撃ってはあの言いにくい名前のナイフを胸に刺す。手持ちのアムタイトプリエアーが無くなったら、モシンナガンを捨ててヘルシングで一気に十人ほど葬ってしまった。この作戦、実はあいつが銃火器を撃ってみたかっただけなんじゃないだろうか。


「なめるな人間!」


 残り十数人となったところで、フラッシュバンの効力が切れたか一人が僕へ襲いかかった来る。この人物見た事がある。僕にあの胸糞悪いアンケートを渡してきた男だ。相手は僕の事が見えてなくて解らないだろうけど、私怨でやらせていただく。


 僕はアサルトカービンを捨てて、目の前に迫りくる男に対してサブマシンガンを顔面と腹部目掛けて引き金を引き乱射する。


 男の顔と腹は蜂の巣のように穴だらけになってこちらへ勢いをつけたまま慣性の法則で飛んできているので、ツェペシュをドンと落下位置に置く。その後男はツェペシュの先端に刺さり、串刺し刑のように振り子運動をした。


 やった本人だけど、惨い。


 その人の死体を丁寧にツェペシュから抜いた後に周りを見渡すと、もう侵略者は後一人になっていた。


 その侵略者はさっきまで円卓会議の中心にいた人物だ。その人物の口にアンリがモシンナガンを突っ込んでいる。


「どうじゃ? 私が改造したモシンナガンのお味は」

「あががが」

「そうか、そうか。では質問するぞ。この場所の幹部は誰だ?」

「あがあがああが」

「ふむ、口を割る気はないと。良い心がけじゃな」

「あっがががが!」


 ギャグなのだろうか。絶世の美女がモシンナガンを中年男性の口に入れて、質疑応答をしているではないか。しかしまったく会話になっていない。


「早く話さないと次は爆発するじゃがいもを胃に入れることになるのじゃが」


 そう言って隣に居て、しどろもどろしている芽衣ちゃんの胸に付いている手榴弾を手に取って投げて遊んでいる。


「拷問官か!」


 見兼ねた僕はアンリにドロップキックを入れる。アンリは右から左へと飛んでゆき、死体の中に紛れた。どうしてかモシンナガンが発砲されてしまい、尋問中の男の顎が半分無くなった。


「マンゴーみたいに割れましたね」


 手で眼を塞ぎながら嫌な例えを芽衣ちゃんはした。


「いやいやそんな怖い事言わないでね」

「怖いのはお主じゃ! 何故人が情報を聞き出そうとしておるのにドロップキックをするんじゃ。おかげで暴発したじゃろうが!」


 死体の上から置きあがり、憤怒の表情でこちらを見ている。


「聞き方ってのがあるだろ! こう、もうちょっと人として扱うとかな」

「お主じゃて先程、惨い殺し方をしておったじゃろうて!」

「それはお前のツェペシュが勝手にやった事だ! 僕は関係ないね!」

「まるで私のツェペシュが串刺し好きと言っておるように聞こえるの!」

「お前がそう言ったんだろうが!」

「そうじゃったな!」

「お二人共! コントをしてないで、早く済ませましょう!」


 芽衣ちゃんが僕達の間に入ってきて、キスしちゃう三センチ手前くらいに近かったアンリの顔が引き離された。


 そうだ、アンリと馬鹿な口論している場合じゃない。


「さっさと地下室にある書物に火を放って、爆発させないと」


 この言葉を言った後に、僕は物騒な人間なんだと理解できた。


 僕は一人地下へ降りる。すると御影さんの遺書に書いてあった通り、そこには大量の書物や電磁記録媒体が積み上げられていた。この書物は止まり木の会にとって、資金繰りしている一般人や、手足となる一般人の情報が書かれた物である。この中には反逆者の情報も書かれた物も中にあるらしい。それらの原本が今ここにある。これらを消滅させれば、大きな打撃を与えるに違いない。


 だから南霧さんはプラスチック爆弾とのオーバーなものを笑顔で渡してきたのだろう。彼女も止まり木の会とは敵対関係ではあるからな。


 威力がどの程度かは知らないので、せっせと設置してから、地下室を出ると、アンリが丁度さっきの男をヘルシングで縛っているところだった。どうやら他の亡骸は芽衣ちゃんが担いで全て外へと移動させてくれていた。


「おぉ仕掛け終わったかの?」

「ばっちりさ」


 僕が親指を立てるとアンリも真似して立てた。


「お前ら一体何者だ! こんなことして我々の恨みを買うだけだぞ!」


 名を持たないけど、力はそれなりにあるようで、顎が治っている男は叫ぶ。まだ僕達の顔は判別できないらしい。


「恨み? もう売り切れだよ」


 これはお前達に利用された御影さんと、無断で支配している人達の恨みをこめての行いだ。


「人間風情が!」


 噛みつかんとばかりに僕達に向けて怒号の声を上げる。


「侵略者風情が」


 僕は嫌らしく言い返してやった。


「わ、私は侵略者じゃないからの」


 その一言にアンリが媚びるかのように僕へゴマを擦ってきた。


「今さらお前は何を言っているんだ」

「そうですよ、アンリさんは私達の味方ですよ」

「あ、アンリだと!」


 コードネームで呼び合う案もあったが、どうせ全員屠るので意味はないとの結論になった。うーん。アンリの名を聞いた侵略者は同じ反応をしないといけないのだろうか。


「アンリか、アイアンニートを殺してくれてありがとうな。だけどお前達はずっと狙われるだろう。知らんと思うから冥途の土産に言っておいてやる。お前達は高額の指名手配者だ。アイアンニートを殺したことによって、この街へ名のある奴らがやってくるだろう。そうなればお前は終わっぐべっ」


 男が話している途中に血を吐いて、動かなくなってしまった。僕の両脇に居たアンリも芽衣ちゃんも誰も手を出していない。


 三人で顔を合わせていると、男の体がモコモコと膨れ上がって、風船が割れるように破裂した。


 僕達の黒いスーツは赤く染まって血なまぐさくなり、目の前には見たくないグロテスクな光景が広がっている。


「ねぇアンリ。吐きそう」


 僕は心の底から思っていることをアンリに告げる。喉奥まで来てる。


「わ、私もです」


 芽衣ちゃんも口を押さえて青ざめている。


「我慢じゃ、とりあえず外に出ようぞ」

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