第36話

 こうなるパターンは考えてある。

 そしてノワールと話をして準備は整っている。


「お父様、聖獣クエスと話をしましたわ! そして答えが出ましたわ!」

「おお! ノワールに任せよう!」


 民がざわめく。


「邪神の生贄にされかけたんだろ? もう助ける事は出来ないんじゃないか?」

「殺す事は出来ないわ、一生幽閉するのよ」

「それが一番だよな」


「静粛に! ノワールの話を聞くのだ!」

「聖獣クエスが素晴らしい案を出しましたわ。もしおへその下に邪悪な淫紋が輝いていれば邪神の邪悪な魔力に犯されている証拠、無ければ聖獣クエスが完全に浄化をした証になりますわ! ルナ! 無実を示すのですわ!」


 寒い冬の中、地面が白い雪で覆われている。

 それほどに王都は寒い。

 ルナがローブを脱いだ。

 寒い冬の中、下着姿に靴だけを履いた状態。

 その異様な光景を皆が見つめる。


 そしてルナは両脇を女性兵士に抱える。

 そのままゆっくりとみんなにへそ下を見せるように何度も回転する。


 そして俺はエリスの胸元から飛び出す。

 雪の上を走ってルナの肩に乗った。


 ルナはゆっくりと、上品な動作で靴を脱いだ。

 そして雪で敷き詰められた地面に膝をつく。

 両手を重ねて目を瞑った。

 女神への祈りの姿勢だ。


「きゅきゅう(白き叡智なる手!)」


 白き叡智なる手でルナを包み込む。

 ルナが女神に祈りを捧げる。


「女神様のおかげでーンは考えてある。

 そしてノワールと話をして準備は整っている。


「お父様、聖獣クエスと話をしましたわ! そして答えが出ましたわ!」

「おお! ノワールに任せよう!」


 民がざわめく。


「邪神の生贄にされかけたんだろ? もう助ける事は出来ないんじゃないか?」

「殺す事は出来ないわ、一生幽閉するのよ」

「それが一番だよな」


「静粛に! ノワールの話を聞くのだ!」

「聖獣クエスが素晴らしい案を出しましたわ。もしおへその下に邪悪な淫紋が輝いていれば邪神の邪悪な魔力に犯されている証拠、無ければ聖獣クエスが完全に浄化をした証になりますわ! ルナ! 無実を示すのですわ!」


 寒い冬の中、地面が白い雪で覆われている。

 それほどに王都は寒い。

 兵士がルナの前に小さな神殿を置き、その上に小さな女神の像を置いた。

 仏壇のようなイメージだ。


 ルナがローブを脱いだ。

 寒い冬の中、下着姿に靴だけを履いた状態。

 その異様な光景を皆が見つめる。


 そしてルナは両脇を女性兵士に抱える。

 そのままゆっくりとみんなにへそ下を見せるように何度も回転する。


 そして俺はエリスの胸元から飛び出す。

 雪の上を走ってルナの肩に乗った。


 ルナはゆっくりと、上品な動作で靴を脱いだ。

 そして雪で敷き詰められた地面に膝をつく。

 両手を重ねて目を瞑った。

 女神への祈りの姿勢だ。


「きゅきゅう(白き叡智なる手!)」


 白き叡智なる手でルナを包み込む。

 ルナが女神に祈りを捧げる。


 邪悪な力を持っていない証拠になる。


 ノワールが畳みかけるように言った。


「更に、ルナは女神様に祈りを捧げる為、毎日祈っていますわ! 流れるような美しい仕草がその証拠ですわ!」


 民が話を始める。


「きれいな祈りだ」

「まるでシスターや司祭様のように美しい姿勢、まるで女神のような神々しさまである」

「慈愛溢れる優しそうな表情、胸がドキドキする」


 更にノワールが畳みかけるように言った。


「邪悪なるものを許さない聖獣クエスがルナの肩に乗っているのが何よりの潔白の証ですわ!」


「更にクエスが白き叡智なる手で体の隅々までを念入りに浄化しますわ! 悪しき者は白き叡智なる手に振られれば嫌悪しますわ! つまり今の状況が更なる潔白の証!」


「雪の降る中、殺されかけボロボロになったルナが邪神にそそのかされましたわ! ですが人には聖なる心、そして悪しき心の2つがありますわ! ルナが可愛そうだと思える聖なる心をわたくしは信じますわ!」


「北の辺境は悪しき統治によって邪神と邪神教に支配され毎日人が死に、若い女性は体を犯され、家畜のような扱いを受けていた者もいますわ! 王都とは比べ物にならないほどの貧しさと恐怖を感じながら皆が生きてきたのですわ! ルナだけではありませんわ! 北の辺境に住む善なる民すべてを女神の愛で包む時ですわ!」


 周りに居た民がルナを哀れむ。

 そしてその声が大きくなっていった。


「皆さんが善なる心を持っていて嬉しく思いますわ!」


 ノワールが説得していたのは王ではない。

 民だったように思えた。


「提案しますわ! しばらくの間ルナの様子を見た上で王にはもう一度熟慮をお願いしたいのですわ!」


 つまり王に「今すぐ判断しなくていい。ルナの状態を見つつ会議を進めて欲しい」と提案している。

 ここまでやればルナが幽閉される事は無い、はずだ。


 ルナの美しさ。

 そして上品なしぐさ。

 女神への祈りを何度も重ねた者の流れるような動き。

 そして白き叡智なる手に触れて苦しむ様子の無い表情。


 民の表情を見ると態度が恐怖から憐みに変わっている。

 ルナは恐怖の対象から悲劇のヒロインに変わった。


「話は分かった! だが念の為ルナには毎日協会で女神への祈りを捧げる。これが条件だ! 都合が悪くなった場合すぐに私に言うのだ!」

「王の命に従いますわ! ルナと聖獣クエスの礼拝は誰でも見学可能ですわ! ただし邪神の手先が潜んでいる可能性もある為護衛を付けますわ!」


「うむ! 話は分かった! 今は寒い冬の時期! 長旅の疲れもあるだろう! ルナよ、今日の所はゆっくりと休むのだ! 苦しい想いをさせた!」


 王とノワールの話がスムーズに進みすぎる。

 裏で口裏合わせをしていた?

 プロレスのパフォーマンスのようにも見える。


 ルナが靴を履いてローブをまとう。

 そしてみんなに礼をして女性兵士に囲まれて去って行く。

 ルナは城ではない場所で休むのか。


 城に入ると俺とラムザは王から感謝された。

 俺はそんな事よりルナがどこにいるのかが気になった。

 ラムザとノワールは王との晩餐に招待されていた。


 本当は2人を休ませた方がいいと思う。

 2人は特に疲れている。


 王も2人の疲労は分かってるはずだ。

 色々しがらみがあるんだろうな。

 頑張ってくれ。



 拠点に帰るとメイドと一緒にルナが出迎える。


「クエス様、お帰りなさい」

「きゅきゅう(あ、ここに住むのな)」

「はい、これからもよろしくお願いします」


 俺は嬉しくなった。

 その日は皆で休んだ。

 みんな疲れている。

 聖なる浄化をしたかったけど今はやめておこう。



【王都への帰還から2日目】


 ルナと俺は女性兵士の護衛を受け教会前にやってきた。

 教会の前には人だかりが出来ている。


 女性兵士が王都の民を誘導する。


「離れてください! 道を開けてください!」

「馬車に近づかないで下さい!」


「ほ、本当に、このローブで、人前に出るんですか?」

「きゅきゅう(そうらしいね、さあ、作戦通り馬車から出よう)」


 ルナが馬車を出た。

 白いローブは昨日より薄く、ルナの肌に張り付くようにぴっちりしている。

 どのくらい布が薄いかというと、下着の形が浮き出るほどだ。

 冬に着る服ではない事は明らかだ。


「わ、私は、武器を持ちこんでいません!」


 ルナが皆の前で回転すると歓声が上がった。

 見物する男性が拳を振り上げてルナを応援している。

 ルナは美人で表情がいい。

 人気が出るのは分かる。


 更に昨日やった下着姿&雪の上で祈る&悲劇のヒロイン効果が出ている。


「おおお、尻の割れ目まで分かる、凄い!」

「胸の形が、分かる!」

「すっごい、もうすんごい!」


 外で待っていた司祭さんがルナを中へと案内する。

 司祭さんは中年の男で恰幅がいい。


「さあ、そのような姿では寒いでしょう、中へ」

「は、はいぃ」

「きゅきゅう? (恥ずかしい?)」

「は、恥ずかしいです」


「きゅきゅう(昨日は下着姿を見せたからから大丈夫)」

「昨日は、私の運命がかかっていました。でも今日は、恥ずかしいです」


 外から司祭さんの声が聞こえる。


「皆さん! 彼女は武器を持ちこむ疑いを晴らす為あの衣装で祈りを捧げに来ました! もし応援したい、邪悪な心に犯されていないか見極めたい、そう思える方は教会にお金の施しをした上で礼拝をお願いします!」


 窓から外を見るとあっという間に列が出来た。


「お金を持っていない方は入る事が出来ません! 今すぐお金を持って礼拝に来て下さい!」


 そして礼拝堂が満席になった。

 礼拝堂の前には女神の像がほほ笑む。


 司祭さんが前に立って進行する。


「さあ、ルナよ、女神様に祈りを捧げるのです!」

「は、はい」


 ルナが両膝を床につけた。

 両足の踵にお尻を乗せた所で顔が赤くなった。

 そしてお尻に手を当てた。


「「おおおおおおおおおおおおおおおおお!」」


 男性陣から声が溢れる。

 そしてその視線はルナのお尻に集中する。

 この世界には刺激が無い。


 ルナのきわどい姿だけで男性は興奮するだろう。

 それとルナの恥じらい、これもポイントが高い。

 隠そうとすれば見たくなる、それが男性の心理だ。


「ルナ、よそ見はいけません。手を合わせて目を閉じ祈るのです」

「は、はいぃ」


 ルナが顔を真っ赤にしながら女神に祈りを捧げる。


 俺は白き叡智なる手でルナを包み込む。


「皆さんはルナが聖なる者か、邪悪なる者か判断するのです!」


 20才くらいに見える男性4人が話を始めた。


「お、おい、あれって、下着が浮き出て、見えてる!」

「しずかに、声を抑えろ、ごくり、はあ、はあ、ああ、興奮するよな」

「ルナ、いいよな。あんなお嫁さんが欲しい」

「帰ったら、今日来なかった奴に自慢する、安産型でラインが綺麗だ。はあ、はあ」

「そうだな、いつ疑いが晴れるか分からない、見る事が出来る今の内に見ておこう」


 老婆が若い男性に注意する。


「これ、あまりいやらしい目で見るのはやめなさい。ここは聖なる礼拝堂だよ。あの子はただ祈っているだけなんだから」

「「す、すいません」」


 司祭さんが両手を広げて皆に語りかける。


「これは聖なる行いです。とはいえ人は聖なる心、そして邪悪なる心の2つを持っています。修行をした私でも邪悪な心はあります。例えば施しのお菓子を必要以上に食べすぎてこのお腹です」


 司祭さんが笑いを取った。


「邪悪な心を完全に無くすことは出来ませんが小さくする事なら出来ます。聖なる行動を取るのです! 隣人を助けなさい。特に教会に寄付をする施し、そして女神様に祈りを捧げる、この2つは誰でも出来ます。ルナに欲情してしまう事も若い男なら仕方がありません。私ももっと若ければ彼らのようになっていたかもしれません」


 司祭さんが更に笑いを取った。


「おや、ルナ、お顔が真っ赤です。申し訳ない、恥ずかしい思いをさせてしまいました」


 司祭さんの話がうまい。

 相当話に慣れていて面白おかしく飽きさせないように教会の教えをみんなに伝えている。

 若い男も視線はルナに釘付けだが話は聞いている。


「ちなみにですが、私はルナが悪人には見えません。ルナの祈る表情を見てください。と言っても後ろからは見えませんね。前から見るとまるで女神様のほほ笑みです。そこの邪悪な欲情を抱えた4人の男性方、魅力的なルナに欲情を抱えるのは仕方ありません。ですが今邪悪な心に向き合ういい機会でもあります。邪悪さと向き合いなさい。それでも欲情の心が消えないのなら女神に祈り、ルナを応援し、何度もお布施を払ってここに何度も通いましょう」


 斜め前を見るとノワールとエリスがいた。

 司祭を呼んでいる。


「少し、失礼します」


 司祭さんが退場してノワールと話を始めた。

 そして司祭さんが戻ってくる。


「ルナがあまりにも恥ずかしい思いをして精神的に疲れているようです。ルナの祈りはこまめに休憩を挟みつつ行う事にしました。みなさん、本日はありがとうございました。全員礼拝堂から速やかに退出してください」


 ルナが退場するとみんなが帰っていく。


「ルナ、お疲れさまでしたわ」

「え、ええ、いつも、この薄いローブで、いつまで続くんでしょうか? 私は許されるのでしょうか?」


 ノワールがルナの手を握った。


「恥ずかしい思いをさせてしまいましたわ。結論から言うとルナは無実確定ですわ。ですがお金を得る為に毎日、何回にも分けてここで祈りを捧げて欲しいのですわ」

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