第26話
マインは2番目の列にある馬車に乗って景色を眺める。
その後ろの馬車にはノワール・エリス・プリムラが乗っている。
マインの両親、その姿を思いだした。
マインはレベル不足だ。
だがレベルが低いからレベルアップをしようと言っても話を聞かないだろう。
あいつ、プライドが高いからな。
マインの性格を考えてみた。
マインは学校で皆に馬鹿にされてきた。
そして両親はマインを𠮟れなかったんだろう。
学校では運動が出来ず、嫉妬されて『お前は何もやっていない』『全部両親の力だ』そう言われてきた。
でもマインは努力が出来る人間だ。
マインは他のパーティーメンバーより弱い事を本当は分かっている、と思う。
方針が決まってきた。
「きゅきゅう(プリムラ、マインと話したい)」
「また喧嘩、ですか?」
「きゅきゅう! (違うって! マインのレベルアップをしたい、その話だって!)」
「クエスは何を言ったの?」
「マインと話がしたいです。マインのレベルアップをしたいですと言っています」
「良いと思いますわ。キャンプの際に夜の見回りに参加していただくのは大歓迎ですわ」
「きゅきゅう(プリムラ、ゴー)」
「分かりました。行きましょう)」
俺はプリムラに乗った。
プリムラが身軽な動きで馬車を降りてマインの馬車に乗り込み隣に座る。
「きゅきゅう(こんにちわ)」
「こんにちはと言っています
「んだよお。お前何の用だよ」
「きゅきゅう(北での戦いでマインの火力は鍵になると思っている)」
「北での戦いでマインの火力が鍵になりそうですと言っています」
「あたりまえだろお」
マインがちょっと嬉しそうな顔をした。
「きゅきゅう(マインには真の可能性が眠っている)
「マインには真の可能性が眠っていますと言っています」
「可能性ってなんだよお?」
食いついたか。
「きゅきゅう(夜になったら一緒に周囲の見回りをするついでにモンスターを狩ろうぜ!)」
「夜になったら一緒に見回りをしつつモンスターを狩りましょうと言っています」
「質問に答えろよ、マインの真の可能性ってなんだよ?」
「きゅきゅう(たくさんモンスターを狩れば目覚める、夢を見た)」
性格にはゲーム知識だ。
ゲームではマインの魔法はもっと強くなる。
「たくさんのモンスターを狩れば目覚めます。夢を見ましたと言っています」
「まあ、どうしてもマインの力が必要なら協力してあげてもいいけどお」
マインめ。
照れ隠しがバレバレで可愛いな。
「きゅうきゅう(よろしく頼む)」
「よろしくお願いしますと言っています」
「クエス、よく見てるじゃん」
マインの機嫌が良くなった。
「きゅきゅう(夜になったら頼む)」
「夜はお願いしますと言っています」
「しょうがないなあ。やってやるよお」
プリムラに乗って後ろの馬車に戻る。
俺はその後、パーティーに案を伝えた。
【夜】
兵士が枯れ木を集めて焚火をする。
「クエスう、まだあ?」
「きゅきゅう(いつでも行ける)」
「いつでも行けますと言っています」
「マイン、お願いしますわね」
「期待しているわ」
俺はマインの肩に乗った。
プリムラと兵士6人が後から続く。
でこぼこした地形の林と草原の見回りが始まった。
雪で地面が湿っているから炎魔法を使っても問題はないだろう。
「きゅきゅう(こっちにモンスターがいる)」
俺は前足で横を指す。
「あっちにモンスターがいるようです」
「まかせろよお!」
マインが走り出す。
「「ガルルルルルルルルルル」」
ブラックウルフ(黒いオオカミモンスター)が5体現れた。
ミノタウロスより弱いがそこそこ経験値がいい相手だ。
「きゅきゅう! (白き叡智なる手!)」
「「グギャアアアアアアアアアアアア!」」
ブラックウルフ5体が拘束されて苦しんだ。
「きゃははははははは! くらえくらええええええ!」
マインが笑いながら炎の玉を飛ばしてブラックウルフ5体をドロップ品に変えた。
「マイン、ちゃんとモンスターを倒せて偉いぞ!」
「倒すのが早い、流石マインだ」
「すごいわ、もう5体も倒したの!?」
兵士がマインを褒める。
これも作戦だ。
マインは両親と学校の先生以外から褒められる事が無かった。
生徒からは『金持ちだから魔法の訓練が出来たんだろ』『私はすぐに帰ってお家の手伝いなのよねえ』と何でもお金持ちのおかげだと言われてきた。
舐められれば舐め返す。
やられたらやり返さないとずっと言われ続ける。
その環境がマインの今を作った。
基本人を馬鹿にし、意地でも勝とうとする。
マインは頑張ったら飴を与えるおもてなしが必要だ。
だが飴だけを与えれば調子に乗りすぎる。
だから飴のハードルを徐々に上げていく。
「兵士に杖を向けなければもっと尊敬されるのに」
「そうよねえ、杖を向けるのはまるで子供みたいよね」
そして悪い部分に少しだけ鞭を与える。
「マインはそんな子供のような事しませんよね?」
そしてすかさずマインが怒鳴る前に助け舟を出す。
「喧嘩を売ってこないなら、やらないじゃん」
「俺は、今までマインを子供のように接してきたかもしれない」
「そうよね、こんなに出来るなら立派なエースだわ」
そして更に助け舟を出して悪い部分をさりげなく矯正するよう促す。
「きゅきゅう (このまま続ければマインは更なる覚醒を迎えて魔法が強くなる)」
ただのレベルアップだけどな。
「マインは更に覚醒します。魔法が強くなりますと言っています」
「ええええ! もっと強くなるの!」
「もっとたくさんのモンスターを倒せば、行ける! マインならもっと強くなるぞ!」
そして乗せる。
「次もマインが倒すから。後ろにいていいぞお。クエスも助けはいらないから」
「では次から基本私とマインでモンスターを倒しましょう」
「きゅきゅう(次はあっち)」
「次も倒してやるよお」
マインが走った。
現れた8体のブラックウルフをプリムラがサポートしつつマインが倒す。
俺は白き叡智なる手を使わない。
でもマインの魔力とスタミナはしっかり回復させ補助魔法で強化する。
助けをセーブするが助け続ける。
その夜マインはたくさんのモンスターを倒した後焚火を見つめながらうとうとして眠る。
「ふふふふ、やり切った顔をしていますわね。眠っているとこんなに可愛いですわ」
「マインを馬車に運んでおきます」
「ええ、お願いね」
マインは昼は寝て夜はモンスターを倒した。
言葉使いはまだまだ悪いがその態度が少し柔らかくなった。
マインは先生と両親、それ以外の居場所が欲しかったんだろう。
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