第6話
俺は学園のある王都に帰ってきた。
そしてゲーム主人公のラムザ、ではなく女子寮に向かう。
その途中でプリムラと会った。
「いた」
「きゅう(大きくなって帰って来た)」
「小さい」
「きゅきゅう(そういう事じゃない)」
「きゅきゅう? (まあいいや、最近平和か)」
「平和、何も起きてない」
「きゅきゅう(よかった。あれはただの悪い夢か。俺は頑張ったよ、何度も危ない目に合った。そう、あれはウサギ100体を超える大軍勢との戦いから始まったんだ。攻撃力の低い俺は何度も白き叡智なる手を)」
「そういうの、いい」
「きゅきゅう(お、おう、そうか、ま、まさか話の腰を折られるとは、びっくりだ)」
俺の白き叡智なる魔法は大幅にパワーアップした。
回復も補助も攻撃も出来る賢者に至ったと言っていいだろう。
ただ、能力が補助寄りで攻撃力はあまり高くない。
話を……聞いて欲しかったなあ。
「それよりも、悪い夢?」
「きゅきゅう(そうなんだ、実はこんな夢を見てな……)」
俺は夢の内容を話した。
「今買い物に出かけていた。お嬢様と離れている」
「きゅきゅう! (な、不安になってきたぞ。早く学園に向かうぞ!)」
「乗って」
俺はプリムラの胸に飛び込む。
そしてもぞもぞと胸の谷間に入っていこうとする。
「そこじゃ、ない!」
プリムラが俺を鷲掴みにして俺を頭に乗せた。
そして走る。
学園に入るとエリスが先生達に囲まれていた。
男性教師が声を荒げた。
「学園に魔力を供給しているオーブが何者かに持ち去られた! そのせいで学園内の照明も、施設も止まった。 エリス・サクリ、君の仕業だね! 正直に言いなさい!」
「わ、私じゃありません」
「だが、君の部屋でそのオーブが見つかったのだ! どう言い逃れをするのかね! そうだ、誰かエリス君の無実を証明出来るものはいないかね!?」
エリスは口やかましい生徒会長のような態度を取る。
その為他の生徒から誤解されやすい。
味方がいないんだ。
「何でもいい、一緒に居た、どこにいたか、証言出来る者はいないかね!?」
「やっていません」
「エリス、君には聞いていない!」
闇堕ちイベントの発生が早すぎる。
ゲーム主人公のラムザもいない。
俺がラムザと一緒にいない事でイベントが早まった?
そう言えばゲームで伏線イベントがあった。
クエスが学園の廊下を急に走り回りラムザがそれを追った。
すると怪しい男が急いで走り去るイベントがあった。
そのイベントを起こさなかった事で早くイベントが発生した!?
もう、俺の行動が変わって未来が変わり始めている。
今は、何とかこのイベントを切り抜けなければ。
証明出来る物……何も思い浮かばない。
こういうのはやった事を証明するよりやっていない事を証明する方が難しいんだ。
それに俺は現場にいなかった。
ゲームで黒幕は知っているが実行犯が分からない。
黒幕の名前を言えば更にエリスを追い詰めかねない。
不確定要素が多すぎる。
だが、それでも。
俺はエリスの胸に飛び乗った。
そして後ろ脚で立ち上がり前足を広げ庇うように立った。
「きゅきゅう!(エリスはやっていない)」
「プリムラ、クエスは何と言っているのかね?」
「エリス様はやっていませんと言っています」
「だが君はエリスのメイド、嘘の翻訳をした可能性も……証拠はあるのかね?」
「きゅきゅう!(無い、でもやっていない。俺には分かるんだ)」
「証拠はありません、でもやっていないと私には分かりますと言っています」
「話にならないな」
「きゅきゅう!(大体おかしいだろ。何でわざわざエリスの部屋でオーブが発見されたんだ!? 誰がエリスの部屋を調べると言った! こういう時、誤解されて孤立しているエリスを狙えば簡単に陥れられるだろ! それにエリスは公爵家だ。金には困っていない)」
「何と言ったのだ?」
「おかしいです。なぜわざわざエリスの部屋でオーブが発見されたのでしょう? 誰がエリスの部屋を調べると言ったんでしょう? こういう時に誤解され孤立しているエリスを狙えば簡単に陥れる事が出来ます。エリスは公爵家でお金持ちです。お金に困っていません、と言っています」
他の先生が動揺し始めた。
「確かに誰かが見ていた証拠はありません。エリスさんの部屋からたまたまオーブが見つかった事も不自然です。ですが、エリスさんがやった明確な証拠もありません」
「聖獣にして聖なる叡智の魔法、その使い手がここまで庇っています。今聖獣がエリスさんを庇っているこの状況を多くの生徒が見ています。このままエリスを罪人と決めつけてしまえば悪い噂が立つでしょう。学園の信頼に関わります」
「清らかで無垢な心を持つ聖獣があそこまでエリスに懐いているのを見てしまうと、私にはエリスが悪者には見えないのだ」
「きゅきゅう! (エリスは誤解されやすい! でもエリスは本当は優しいんだ!)」
「エリスはとても誤解されやすいです。でもエリスは本当は優しいです。と言っています」
「きゅきゅう! (俺がエリスと共にいる!)」
「私がエリスと共にいますと言っています」
「きゅきゅう! (俺がエリスの胸元に入っていればいつも一緒だ! 寝ていてもすぐに起きる! 悪い気配は分かるから!)」
「な!」
プリムラの顔色が変わった。
俺はもぞもぞとエリスの胸元に収まって顔だけを出した。
「プリムラ、クエスはなぜエリスの胸元に収まっているのだ? 何を言った?」
「クエス、もう一回。ふざけたことを言ったように聞こえた」
「きゅきゅう(ちゃんと翻訳しようよ)」
「そういう、事じゃない」
「プリムラ! 不明瞭な言葉は慎みたまえ! 今はクエスが何を言ったか聞いているのだ! それだけを答えなさい!」
「クエス、もう一回」
「きゅきゅう(あまりに高度かつ複雑な言葉過ぎて伝わりにくかったか。俺エリスの胸元にいるじゃん? 寝ても落ちないじゃん? ずっと一緒じゃん? 悪い気配は分かるじゃん?)」
「この!」
「プリムラ! 何を言ったかだけ言いなさい」
「く、翻訳が、伝わらないかもしれません」
「いい、そのまま言いなさい、私達が判断する」
「私はエリスの胸元に居ます。私は寝ても落ちません。ずっと一緒です。悪い気配があれば感知します」
「つまりだ。クエスがエリスと一緒に居る事で悪い事が出来ない。もし他の悪い人がいても悪意を感知する。そう言いたいのかね?」
「きゅう(その通りです)」
俺はコクリと頷いた。
生徒も納得する。
「あそこならクエスが寝ていてもずっと一緒ね」
「あの小さな姿で常にエリス様を守ろうとしているのだわ。なんとけなげで優し心なのかしら」
「ああ、何と心優しき聖獣なの? 私も懐かれたいわ」
「う、うむ、聖獣が見張ると言うのならば、しばらく様子を見ようではないか」
お、闇堕ちイベントは回避できた。
「クエスは、エリス様の胸元に入りたいだけ」
「きゅきゅう! (ち、違うって! 俺が守るって! ホントだって!)」
「クエス、ありがとう、みんなの疑いを晴らす為にずっとクエスをここに入れておかないと駄目ね」
エリスが俺を抱きしめるように包み込んだ。
「きゅう(その通りです)」
俺はコクリと頷いた。
聖獣効果で何とかなったか。
エリス、これからは俺が胸元で守るから。
柔らかい。
俺は今、
天国にいる。
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