異世界転生‐男の娘Ⅱ/僕とリリーの奇妙な関係

放射朗

第1話 三年後


 この世界に転生してきて、すでに三年が過ぎた。

 リリーは十八歳になって、背丈も初めて出会った時から比べて十センチは高くなった。

 推定170センチくらいかな。

 胸もそれなりに育って、軽装の革鎧の中からぐんと存在を主張している。

 顔つきも勇者らしく目つきが鋭くなったし、少しアマゾネスのタバサに似てきたかもなんて思ってしまう。


 僕はと言うと、サキュバスの特性なのか、外見全く変わらずだ。

 最初に会ったときは僕とリリーは身長も同じくらいだったのに、今では女子高生のお姉さんと小学六年生の妹みたいな感じになってしまった。

 妹じゃなくて本当は弟なのだけど、僕はこの世界に転生する時、思い切り美少女にキャラメイクしていたから、外見は完全に女の子なのだ。


 まったく、最初に川で水浴びした時、裸の股間に予期せぬものがぶら下がってるのを見つけた、あの驚きは今も忘れない。

 

 男の娘サキュバスの能力は、その後、新しいものは何も見つけられなかった。

 お尻の穴を見せての魅了の術、これは男にだけしか効果がない。

 僕のおしっこは回復薬になる。そして僕の精液は若返り薬になる。

 お尻に男の精をもらうのが僕のエネルギー源で、魔力を持った人の精をもらうと、その魔力を何度か使えるようになり、お口で飲むとその男の知識を受け取れる。


 というのが僕のこの世界での設定なのだけど、お尻で受け取った能力が尽きるように、知識の方も無限に蓄積することはないようだ。

 それができれば、すぐに無双になれるのに。

 後からもらった知識が、前のを上書きするらしくて、それを控えていても一週間ほどで忘れてしまうのだった。


「ジュン、いくぞ。今回の任務はトドロキ橋の近くに現れる山賊狩りだ」

 首長の城に続く階段に座って待っていると、城から出てきたリリーの鞭が僕の肩を軽くたたいた。

 痛くはない。

 リリーも、この三年間で淫電の鞭の達人になっていたのだ。

 痛くするもしないも手首のひねりひとつで自由にできると言っていた。

 

 いつもの任務だと思っていたけど、今回の任務はひとつだけ違うところがあった。

 リリーの後からひとり、新品の革鎧を着た、まだあどけなさの残る少年がついてきたのだ。


「その人は?」

 僕が尋ねると、リリーはその少年の肩を叩いて言った。

「こいつは騎士見習いのケンタってやつ。俺が指導係になったんだ。よろしくしてやってな」

 リリーの言葉の後に、よろしくお願いしますと、丸顔のケンタは頭を下げた。


 三人並んでホワイトホースの街の門を出る。

 リリーさんが見習いの指導係か。

 三年前に初めて会った時は、おじいさんの形見の大剣を担いで、田舎から出てきた勇者気取りのおっちょこちょい娘だったのに。

 ずいぶん出世したもんだ。


 あの紅の触手事件の後、ロイナース師の推薦でホワイトホースの騎士見習いになって、苦労してここまで来たのだ。

 僕もたくさん手伝ってきたし感慨深いものがある。


 実は、僕にも王宮魔導師見習いにならないかという話があったのだけど、それは断った。

 紅の触手事件で功績のあった魔導師の僕だ。

 当然引く手数多あまたなのだけど。


 僕が男の娘サキュバスということがバレたら、若返り薬になる僕の精子を求めていろんな奴が寄ってくることになるから、ロイナース師は僕のことは魔導師ということにしてくれたのだった。

 とはいえ、サキュバスの僕には、お尻を見せての魅了の術しか使えない。

 お尻に魔導師の精をもらえば、その魔導師の術ができるようになるとはいっても、そんなの数回使えば終わりなのだから。


 タバサとリズは、彼女たちも功績が認められ、古い砦をアマゾネスの拠点として使用する許可を得た。

 現在、彼女たちはその砦で新たな仲間を集めているようだった。


「ジュンさんは、どんな魔法が使えるんですか?」

 よく晴れて乾いた土の道を歩いていると、僕の傍に寄ってきたケンタが目を輝かせて尋ねてきた。

「魔法に興味あるの?」

 僕が聞き返すと、こくんと頷く。なかなかかわいい奴だ。

「僕は剣と魔法の使い手になりたいのです。魔法剣士ってやつです。できればジュンさんにも魔法を教えてもらえればなあって思ってます」

 子犬がしっぽ振ってるみたいだ。

「教えてやれるものなら教えたいんだけど、僕の魔法は特殊だから……」

 言葉を濁す。


「そうだな。ジュンの魔法は真似するのやめておいた方が良いぞ。そうしないと男辞めることになるぞ」

 後ろからリリーが忠告する。そしてもう一言。

「ジュン、狼の走力は、もう無くなってしまったんじゃないか? この前全部使っただろ」

 

 そうだった。狼の走力は戦闘時にもとても役に立つ能力だ。

 男をやめるって言葉に不思議な顔をしているケンタ。

 そのケンタとリリーさんに僕は言った。


「じゃあ、狼の能力を仕込んできますから、先に行っててください。確かあの辺りにいつも狼がいるはずだから」

 僕は右の丘の方を指さした。


「何言ってるんだよ。二匹以上いたら面倒だろ。ひょっとしてケンタに見られるの恥ずかしい? でも山賊との戦闘が始まってしまえば即バレるんだぞ」

 にやつくリリーが言う。

 戦闘が始まるとすぐにバレてしまうのは事実だけど、年下の後輩が慕ってくれているのに、恥ずかしい場面は見せたくないのだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る