私の知っている人魚姫

鹿角まつ(かづの まつ)

1話

 みなさんは、小さい頃、絵本で「にんぎょひめ」を読んだことはありませんか。


 海の底に住む人魚姫が、人間の王子さまに恋をするお話です。


 あらしの夜、人魚姫は、船から海に落ちた王子様を助け、その日から王子様に恋をします。


 どうしても王子さまに近づきたい人魚姫は、恐ろしい魔女と契約して、

自分の美しい声とひきかえに、尾ひれが人間の足に変わる薬をもらいます。


 そうして気がついたら、人魚姫は浜辺に倒れていて、

ちょうどそこを王子が通りかかり、城へ連れて帰って、王子さまの側に仕えさせてくれるのです。


 しかし結局、王子さまは隣の国の王女さまを好きになり、王子さまは結婚してしまいます。人魚姫は死んでしまいます。

魔女との契約により、もし王子さまが人魚姫と結婚しなければ、

人魚姫は、海の泡となって消えてしまう約束だったからです。


 しかし、人魚姫の美しい愛を神さまが見ていてくださって、

人魚姫のたましいは、光にみちびかれて空へとのぼっていく…という、

ちょっと悲しいおはなしです。


しかし、私が知っている人魚姫の話は、少し違います。


 みなさんが知っている人魚姫は、王子様の結婚式が、船の上で豪華に行われますね。

 そして人魚姫が、船べりから海を見つめて泣いているところへ、

海の中から人魚姫のお姉さんたちが現れます。


 お姉さんたちは、海面から、人魚姫にナイフを差し出して言います。


「さあ、これをとりなさい。

このナイフは、私たちが魔女にたのんで、長い髪とひきかえにもらったものよ。

夜明けがくる前に、この魔法のナイフで、王子様を刺して殺しなさい。

そうすれば、あなたは人魚のからだに戻って、海に戻れるの。」


 人魚姫は、いちどはそのナイフをとり、王子とお妃様の寝室にそっと入っていきます。

 しかし、心から王子さまを愛しているので、眠っている王子さまを刺すことができません。

 とうとう人魚姫は、

(王子さまが死ぬくらいなら、いっそ私が…!)

と、ナイフを投げ捨て、船から身を投げてしまうのです。


 それが、童話としての人魚姫のおはなし。


 しかし、私の知っている話は、人魚姫は人魚に戻るために、王子さまを刺し殺してしまいます。

 

 人魚姫はすぐに海に飛び込んで、人魚の身体に戻れたのですが、家来たちに網で捕えられて、彼女もまたその場で殺されてしまいます。

 この悲しくおそろしい出来事について、国王は決して国民にはもらさないように、家来全員に厳しく言い渡しました。

 

 王子さまが殺され、ひとり残った新妻は、王子の子を妊娠していて、後に男の子を産みます。

 しかし、あのおそろしい出来事以来、ずっと心に深い傷を負い、立ち直ることができません。

赤ん坊を産んですぐに衰弱して、死んでしまうのです。


 国王は、生まれたばかりの新しい王子が、可愛くてしょうがありません。

わが孫の、愛らしい顔を眺めて決意します。

 (あの忌まわしい事件を、この子が知ったなら、どんなにつらいだろうか。決して知らせまい…)

 国王は、家臣たちに、この先王子に何を聞かれても、本当のことを答えてはならぬと、厳重に口止めをしました。


そして、月日は流れ、その子は15歳になりました。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る