卓球人気の「原点回帰」を招く誤算──開かれたメディア戦略の後退について
卓球人気の「原点回帰」を招く誤算──開かれたメディア戦略の後退について
近年、卓球という競技は、特定の愛好家層の中だけにとどまらず、一般層にも静かに、しかし着実にその関心の輪を広げつつあった。その成長の一翼を担っていたのが、YouTubeなどの無料動画配信プラットフォームであったことは疑いようがない。気軽に、誰でも、いつでも視聴可能であるというメディア環境は、それまでスポーツ中継にアクセスしてこなかった層──いわば「新しいファン層」──の取り込みに成功していたのである。
特にテレビ東京が運営する「テレ東卓球チャンネル」は、その代表格として多くの卓球ファンから支持を集めてきた。広告付きであれ、無料で視聴可能な環境は、「観ること」そのものへのハードルを極めて低く保ち、ファン拡大という文脈において極めて有効な戦略だった。
にもかかわらず、近年この方針に変化が見られる。特定の動画が有料配信へと移行したことで、視聴への心理的・経済的障壁が発生し、「気軽に観る」という行動自体が損なわれつつある。この転換は、まるで積み上げてきた人気の土台を自ら崩すかのような選択に見える。
スポーツ文化の普及において、最大の鍵となるのは「敷居の低さ」である。誰でも気軽に触れられる環境があってこそ、初めて「関心」は「関与」へと変わり、やがて「熱意」となって根を張る。その導線を敢えて遮断するかのような今回の施策は、多くの人々の地道な宣伝活動や、コミュニティ主導のファン形成努力を水泡に帰しかねない。
もちろん、有料化にはビジネス上の理由があるだろう。運営コスト、収益化、コンテンツの質の担保など、事情があることは理解できる。しかし、それらを理由に「アクセス可能性」を損なう決定は、戦略的には極めて短絡的であり、「未来のファン」を自ら門前払いすることにつながりかねない。
では、誰がこの方針転換を主導したのか。あるいは、何らかの外部からの「入れ知恵」があったのか。その詳細は定かではない。しかし一つ言えるのは、ファン心理に根ざした感覚や、現場の空気から乖離した判断であるということだ。それは、あたかも人気を得たことで「天狗」になったような、自己中心的な意思決定のようにも映る。
「そっから先は極寒地獄だぞ」という警鐘が、どこかから聞こえてくる気がする。ファンの裾野を広げていた時代の、あの「開かれた卓球」の灯を自ら消してしまってよいのか。そう問いかけずにはいられない。
私は、「広告付きであっても、無料でYouTubeから卓球の魅力に触れられる」あのテレ東卓球チャンネルが好きだった。誰にでも開かれたプラットフォームの中で、少しずつ増えていった仲間たちと一緒に、卓球というスポーツの価値を感じていた。だからこそ、今なおその「原点」に立ち返ってほしいと切に願う。
ファンは無料だから観ていたのではない。気軽に、誰でも、いつでも、というその「文化の開放性」に魅力を感じていたのだ。スポーツの未来は、金銭的価値ではなく、人と人との繋がりが紡ぐ文化の厚みにこそ宿る。だからこそ、私たちは「観ることが開かれている卓球」を応援し続けたいのである。
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