吸血鬼は待ち続ける

 しばらく横になり、動けなかったカシオペヤだが、その内喉が乾き、血を求めて動物を狩りに行く。目につく動物を八つ当たりの如く食い荒らし、待って、待って、待ち続けたが……ジュリアスもジェラルドも帰ってこない。

 呆然と日々を過ごしながら、喉が乾けば適当な動物を食い荒らしていたが、ある時、雪穴に何かが入っているのを見つける。寒そうに震える小さな身体を目にして、堪らず彼は救い出した。

 それは、白熊だった。

 寒がりな白熊はガタガタと震えており、たまたま満腹状態だったカシオペヤはその白熊を食べることなく、家に連れ帰り、寝床の毛布にくるんでやった。

 白熊の名前は、サンだという。家族もなく、当てもなく歩いていたら、この雪山に辿り着いたのだと。


「これからどうするつもり?」

「……どうしたら、いいんでしょうか?」


 心細いようで、小刻みに震える白熊を見ていたら、自然とこう口にしていた。


「ここで生きていく為の術を教えよう」


 在りし日の、狼に向けた言葉を思い出しながら。


◆◆◆


 一年が経つ。


 サンはすっかり元気になり、カシオペヤに文句を言うようになった。彼の存在のおかげで、カシオペヤは毎日笑えているが、以前のような明るさには程遠い。

 二匹の狼は未だ帰らず、あの口付けの続きだって、できようはずがない。……いやそもそも、カシオペヤには今までそんな相手がいなかったものだから、教えようにも教えられなかった。こればっかりは、無理なのだ。

 一緒に学んでいくしかないというのに。


「先生、本当に今日も待つんですか?」

「待つ」

「野草採集に行きましょうよ」

「サンだけで行きな」

「わたしだけで行くの大変だから言ってるのに!」


 文句を言いながら、結局サンは一頭だけで行く。

 カシオペヤは玄関の前に立ち、愛弟子の帰りを今日も待つ。

 その姿が見えなくても、日が沈むまで、そこにいる。

 待てと言われた。続きを教えろと言われた。だからきっと、弟と共に帰ってくるはずなのだと、願いながら、泣きたくなりながら、待つのだ。


 弟子の帰りまで、あと■■日。


 まさか弟の他に色々連れて帰り、家を大改装し、そして、蜜月を過ごすことになるなど、この時のカシオペヤは想像すらしていなかった。

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雪解けを待つ吸血鬼 黒本聖南 @black_book

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