第22話 野獣になる
僕は人混みをかき分けて街の隅に呼び寄せた戦車によじ登った。ハッチを開け放ち砲手席に滑り込むとヘルメットを脱いで戦車帽に被り代える。それから砲塔旋回装置のスイッチを入れた。
地図を取り出し操縦手に行き先を伝えるために内線に手を伸ばすと肘が何かに当たった。振り返るとそれはエリッシュの足だった。僕はすぐに仕事に戻ろうとした。だが次に何をしようとしていたのか思い出せなかった。
「……あぁすまない」
暫く間をおいて僕は内線を取った。
「こっちを使おうぜ。こっちのが便利だ」
「あぁ、そうだな。こっちのほうが便利だ」
エランドはそう言って胸を叩いた。僕は首から下げていたペンダントラジオを取り出すと使い方を思い出してスイッチを入れた。それからエリッシュに少し除けてもらって砲塔から半身を乗り出し地図を開いた。
『行動開始』
指示を出すと操縦手は走行レバーを前に倒し戦車をゆっくりと目的地へ進めた。
射撃地C点の丘からは予想通り北から街へ向かう道が一望できた。その道は地図にあった通り異様に長く幅の広い一直線で、ここから見るとどこまでも続いているように感じられた。
『こっから来んのか?歩いて?』
双眼鏡で辺りを見回していると隣で同じように魔法望遠鏡を覗いていたエランドが言った。
北から街へ向かう道は三角フラスコの首の様に牧草地へ続いている。底に街があるとするとC点は三角の重心と見ることができ、フラスコの外側は雑木林だ。
『他に道がない』
僕はそう答えて警戒を続けた。森の縁には斥候や観測手が潜んでいるかもしれない。街を砲撃するならば必要なはずだ。ここはどの縁からも1,000メートル以上離れているので狙撃される可能性は低いがその分こちらも目を凝らす必要があった。
『なんかいる?』
『見つけられない』
『使えよ』
手渡された魔法望遠鏡でもう一度辺りを見渡すと南東の方向、ちょうど僕らが初めてこの街を訪れたときに登った丘の茂みに3つの人影が見えた。あの位置からは街を一望できる。距離は1,100メートルだった。
『タウンゼント、1634、1271に味方はいるか?確認してくれ』
『わかった』
僕は座標を伝え席に戻り、ハンドルを回して手動で砲塔を旋回させた。それから再度ハッチから半身を乗り出し砲塔上面にある重機関銃のコッキングレバーを引いた。
『味方部隊はすべて市街に展開している。1634、1271に友軍は存在しない』
『そうか』
『ちょッ待てよ。観光客かも?』
機関銃のハンドルを握り発射スイッチに指を置くとエランドが僕の肩を引いた。
『あそこはダメだ。優位すぎる』
『追っ払うだけにしとこうぜ。なぁ?わかるだろ?』
『……』
僕は少し考え警告射撃もやめにして魔法望遠鏡をエランドに返し席に戻った。彼らは観測手に間違いなく、この距離なら至近弾を撃ち込むのは難しくないが下手に威嚇して作戦を変更されては元も子もない。彼らはこちらに気づいているだろう。だが戦車の能力を知っているわけではない。わざわざ手の内を明かして奇襲性を削ぐ必要もない。
僕はタウンゼントに丘から砲塔だけを覗かせるハルダウンの体制を取るよう指示し砲塔を左に40度旋回させて道に射線を通した。戦車が停止し照準器を覗くと道の先に森から出てくる影が見えた。ハッチから乗り出し双眼鏡で確認すると攻撃目標に間違いなかった。距離は3,500メートル、攻撃予定地までは後15分程度だ。僕は席に戻って次の指示を出した。
『榴弾を装填しろ』
『榴弾?冗談だろ?』
『軟目標だ』
僕が聞き返すとエランドはハッチを開け放って、
『女だ!女がいる。徹甲弾にしよう』
と訳の分からない事を言いだした。
『見えないはずだ』
『あ?この望遠鏡はな、美女と野獣を見分け――』
『そんな機能はない。説明書はくまなく読んだ』
この距離では6倍の双眼鏡やエランドの魔法望遠鏡を使っても目標が何かを識別することはできない。魔法望遠鏡は魔法の拡散減衰の影響で500メートル以遠では機能が限定される。今この場所から分かることは、そこに攻撃目標があるということだけだ。装備や所属はおろか騎兵や野砲があるかすらわからない。それらの性別など区別できるはずもなかった。
『……いたらどうすんだよ』
『構わない』
銃弾が持つ運動エネルギーは射手によって変化しない。女だろうと年寄りだろうと例え子供が扱ったとしても数千ジュールを発揮する。剣や弓とは違う。それを持つものは皆平等に扱うしかない。
『こうしよう。コイツを近くに落としてやるんだ。できるだろ?』
エランドは徹甲弾を担いで僕に見せた。
『それに何の意味がある』
『チビって逃げるかもしんねぇだろ?』
『銃口を向けても手を上げろと言わないのが戦争だ。有り得ない』
死の恐怖は戦場において支配的ではない。負傷すること死ぬことすら戦場では最も恐ろしことではない。この力によって敵を敗北に追い込むことはできない。彼らが危険を理由に撤退あるいは降伏を選ぶことはない。団結した人間はこの類の恐怖に対して驚くほど強固であり、彼らの味方に対する期待と責任は損害として死傷者が確実な戦闘を可能にする。ロイやエランドがそうであったように。もしも、この力を使って敵を降伏に追いやろうとすれ、ばおびただしい数の犠牲を積み上げることになるだろう。ロンドンへの爆撃が効果的ではなかった訳はここにある。
敵の集団を効果的に降伏へ追い込むほとんど唯一の方法は彼らが抱く勝利への希望をかけらも残さず粉砕することだ。この場合ではすべての組扱い兵器、野砲、機関銃と象徴でもある騎兵をすべて破壊することだ。加えてこの攻撃はごく短時間で奇襲的である必要がある。戦闘が明確に実感として開始されるより先に、集団が戦う意思を共有するよりも早く、必要十分な犠牲を伴って勝利の可能性を否定しなければならない。
これが最小限の損害で敵部隊を破壊する方法である。生半可な威嚇や十分でない攻撃は戦闘を不必要に長期化させ返って犠牲を増大させるだけだ。
『アイツらはハエで?クソは川を流れてるんだろ?それに
『そうだ』
僕はそう答えてエランドに向き直った。
この部隊はおそらく陽動部隊だ。しかし、放置することはできない。野砲と騎兵の数を考慮すると部隊規模と比較して脆弱だが、報告によると弾薬車を伴っており継続した砲撃が可能かつ市街地に浸透されれば十分な脅威となる。
エランドは何故こうも反抗するのか。こんなに単純なことがわからないはずはない。彼も見てきたはずだ。
『いいか、よく聞くんだ。ここは君の好きなヨーロッパ大陸でも合衆国でもない。状況不明の土地だ。厄介なことに魔法なんてものまである。僕がそれを無視した結果どうなった?二度と同じ過ちは犯さない』
『んお馬さんと?大砲なんて海賊みたいなクソだぜ。
『野砲を確実に破壊できる距離は1,500メートルだ』
『だったら近づけばいいだろ?3インチだぞ』
エランドは装甲を叩いた。
『ダメだ。騎兵がいる』
『馬だぜ?』
『数を20として、それを1,500メートルまで引き付けて攻撃したとする。第1射で相手はこちらに気づいて突撃してくるだろう。そうなると27秒以内に残り19騎を討ち取る必要がある』
『27?!』
『君の言うお馬さんがここで出した最速記録を教えてやる。294キロメートル毎時だ。27秒というのは騎馬突撃の最速記録200キロメートル毎時からの計算だ』
『嘘だろ……』
『加えて魔法防御を考慮すると、突撃を阻止するには戦車砲か最低でも車外の50口径が必要だ。牧草地に散開されたら旋回が間に合わない』
『塞ぐのはどうだ?その、道を』
『地の利を捨てることになる。茂みに近づくべきじゃない』
『ちょっと囲まれたからって――』
『魔法の射程は一般的な魔術師と考えて長くて15から25メートルだ。地面を耕されれば戦車は擱座、火炎瓶をもらえばもう車外には出られない』
『歩兵は?』
『歩兵の援護はない。聞いてただろ?』
『クソッ』
『それと忘れているようだから言っておく、攻撃標的は騎兵だけじゃない。僕らが騎兵にかまってる間に他が森に退避してしまう』
『それはそれで……ぁああ!』
『わかるだろ?あと5時間で33センチ重榴弾砲、8時間で9センチ野戦砲がツヴィーバックから引き返してくる。900ポンドの近接信管付き榴弾だ。サンダーボルト戦闘機の爆弾となんの違いもない。森にとどまれば犠牲は膨れ上がる』
『んンン!』
『だから。最初の攻撃で敵の戦意を挫くんだ。これが敵の損害を最小限にできる計画可能な唯一の方法だ』
エランドはヘルメットを脱いで床に叩きつけた。説明に納得しているとは思えなかった。だが、これ以上の反論もないのかヘルメットを被り直すと床下の弾薬庫から榴弾を取り出して装填した。
僕は閉鎖機が閉まる音を聞いて照準器に目を戻した。
『撃つんですか?』
その声に僕は振り返ることなく答えた。
『ちょっと驚かしてやるんだ』
『この爆発する砲弾で?森に落ちたときはあんなに必死に探したのに?』
『……そうだ。仕方がないんだ』
他の方法も探しはした。でも選ぶことはできなかった。可能性の話をするのならやり方はいくらでもあるだろう。だがその中に確実に動作するものは何一つ見つからなかった。計画可能なものは何一つなかったんだ。無策な者は最初に死に、最後まで考えた者は最後に死ぬ。重要なのは適切に可能性を捨て余地を残して決断することだ。例え切り捨てなければならない可能性の中に希望があったとしても。
『私が――』
『話をしに行こうって言うんだろ?それはできない』
『なんで?』
『言葉が通じるのと話ができるのは違う。彼らには時間がない』
残念ながら話し合いが成立する可能性は極めて低い。なぜならそれが遅延行為であると受け取られるからだ。戦力の不在をついた計画的な攻撃、この作戦の成否はいかに迅速に市街地へ浸透できるかにかかっている。それが出来なければ砲兵隊と警察隊に包囲され身動きが取れなくなる。彼らがどのような要求を持っているのかは分からないが、それを通すためにはトルピード総統を捕らえるか市民を人質にする他にない。作戦の遅延は部隊の壊滅を意味することを彼らは知っているはずだ。
僕は攻撃目標を照準線の上に捉えて砲撃の準備をあとはスイッチを踏むだけに整えた。あと数分で彼らは十字の中央を通るだろう。
そして何故か、をエリッシュに説明することにした。納得させられないことは分かっていたがそれでも僕は彼女に知っておいてほしかった。
『エリッシュ、話し合いっていうのはいつだって力で決着してからするものなんだ。彼らはこう言ってるんだ。黙って言うことを聞けって、大砲を突きつけてね』
『撃たないかもしれません』
『遠すぎるんだ、エリッシュ。離れすぎてる。本能は顔も名前もわからない遠くの者たちに価値を与えてはくれない。確かにそこいると分かっていても。君ならわかるだろ?だから僕はそのもしには賭けられない』
かけがえのない、たった一つしかない、何より大切。ほとんどの人間にとってそんなものは耳障りのいい音でしかない。誰も他人をそんなふうには感じていない。十分に無視できる。彼らが本当の他人を思い浮かべるときには、それらはすっかり抜け落ちている。だから大人もチョコレートを買うことができる。
これも人間性だ。美しくないからといってこの事実を人間性から除外するべきではない。
『それでも!みんな平和がいいはずです。でも撃ったら――』
『誰もが平和を願う。その通りだエリッシュ。ただし、自らの支配による秩序のもとで、維持されることを願ってる。願い事は、誰かが叶えてやらなきゃならない。それが僕で、その方法が戦争だ。こういうのを正義って言うんだ。聞いたことあるだろ?』
『俺たちはもうトイレットペーパーじゃない。トイレに流されるのはごめんだ』
『いいや。僕はトイレットペーパーだ。これまでも、これからも』
『次から次にクソが出る!拭いても拭ってもキリがない!』
『どおして?どうして自分にもできないことが彼らにできるって、そんなこと言うんですか?』
『簡単だよエリッシュ。僕にできることが彼らにできないはずはない。彼らと僕には何の違いもない。だから、殺すんだ』
『そんなの違う』
『いいや、僕だ』
僕にできないはずはない。これまでもずっとそうしてきたんだ。彼らにできないはずはない。僕にもできたのだから。彼らが初めてであれば自分が何をしたのか知るのはずっと後になる。そして、もしも分かっていたとしてもできるだろう。今の僕のように。
『でも……』
僕は肘を膝について手を組み静かに続きの言葉を待った。いくらかの期待とそれを封殺する回答を持って。
僕の作戦は完璧ではないが現時点では最良のものだ。単純で確実に動作する。
彼らは命をかける覚悟とともに銃を持ったはずだ。少なくとも頭ではそうなっているはずだ。ならば見せかけの脅しも交渉もそれを揺るがすことはない。戦争においてもっとも重要なことは始まったときにはもう終わっている。今更どうすることも出来はしない。もう遅すぎるんだ。彼らを降伏に追いやることができるのは情け容赦ない砲撃がもたらす一方的な死と、それに伴う敗北の実感だけである。これまでもそうだった。
暫くの静寂のあと砲塔旋回装置に手を戻すとエランドは咳払いして砲尾栓にもたれかかり物申したげに僕を見た。
『それにもたれるなといつも言ってる』
『知ってる』
『何が言いたい?』
『撃ちたくないんだろ?まぁ聞けよ』
彼は砲尾栓に手をかけたまま話しを始めた。
『俺が代わってやるよ。俺はあんなクズ共、ジャップ、ナチ、パルゲンイ、ベトコン!なんでもいい、なんとも思わないからな、お前が弾込めて……いや!弾も必要ねぇ!俺がやる。お前はここで見てりゃいい、音楽をかけろ!』
『僕の役目だ』
『たまには俺にもやらせろよ。もう狙ってあるんだろ?俺がケツの穴を増やしてやる!あ、あ、あぁあ!その代わり、モニュメントは俺が真ん中な?ドラゴン追っ払って街守って建たないなんてはずねぇよな。並ぶ順番はぁ……俺がこう両手に花を――』
『黙れ、離れて次の弾を持て』
僕は床の即応弾ラックを指さして命令した。照準器を覗くと彼らの先頭集団は照準線の中心に迫っていた。あと数秒だ。
残酷だがこれが現代の戦闘だ。奇襲攻撃は不運な者に降伏の選択肢を与えない。
彼らとの距離は2,700ヤードだった。
Ready。発射スイッチの手前に右足を置き、左手を砲昇降機のハンドルに添える。
Aim。右手で砲塔旋回装置のハンドルを掴み最後の調整も終わった。
Fire。この一撃が彼らに実感を与えることを願う。
『On the way』
『やめて!』
照準器に映る人影が照準線の上を通り過ぎていく。
だが僕はスイッチを踏むために足をあげることもハンドルを回して照準を修正することもできなかった。
僕は目を閉じて首の力を抜いた。目を開き自分を見ると面積としては小さな手が僕の身体を包み重く体温のある額が肩に乗せられているのを感じた。柔らかな髪が首に触れた。
彼女の体温がこの厚手のタンカージャケットを貫通するはずはない。にも関わらずその熱は確かに伝わり僕の両手を動かしていた歯車を歪ませ振動となって現れた。そして手はハンドルを離れた。
僕は膝の上に戻った両手のひらを見て拳を握りまた開くよう命じた。薄汚れた手袋に包まれた僕の手はやってのけた。誰に手を掴まれている訳でもない。だがどうやってもハンドルには戻らなかった。
僕は照準しなければならない、発射スイッチを踏まなければいけない、攻撃目標を、彼らを殺さなければならない。それがどういうことか、僕は知っている。わかった上で撃ってきたんだ。これまでずっと!何故今さら、何が違うっていうんだ。
上着にしまった懐中時計の音が時間が経っていることを知らせ続けた。
「アルデストンミルクティーだ。カモミールに似ている」
タウンゼントが言った。足元を見ると彼はいつの間にかエンジンを止めて副操縦席に移っていた。彼は席に膝をついて紅茶の入ったカップを差し出した。僕は手袋を外してエリッシュの手をそっとほどきカップを受け取った。カップはひどく音を立てた。タウンゼントはティーポットをしまって操縦席に戻ると走行レバーを握った。
「僕は間違ってるのか?」
カップの中を覗いたままタウンゼントに尋ねた。
「私の知る男のなかでフレディ・フェアフィールド大尉は最も優秀な戦車指揮官だ。彼はいついかなるときも常に正しい判断を下してきた。私は彼と共に戦えたことを誇りに思う」
「俺も!俺も!なぁ?」
タウンゼントは話を遮るエランドにビスケットを渡して続けた。
「だが友人としてお前を見ると、撃ちたくないように見える」
「撃ちたくて人を撃った事はない」
「お前は正しい……だが我々の戦争は終わった。ここで燃えている火はお前が付けたわけではない。始まったときから燃えていたものだ」
「そうだな」
「戦争の遂行はあらゆる形で分担される。戦車の設計、砲弾の製造、燃料の運搬、そして彼らの洗濯物を洗うこと、彼らを受け入れる全て。これらの承認なくして実行されることはない。これらはお前が背負うべきものではない」
頭では分かっていた。
「でも消さなきゃ、逃げたくはないんだ」
それでも、今はもう無関係じゃない。たとえ僕らがこの世界では生まれて数日の赤ん坊でも、それが生まれたときには既にあったとしても、バケツを持つ力が与えられたのならば努力すべきだ。
僕は戦争の理屈をいくらか知っていて、でも止める手立てはまだなにも知らない。それでも諦めるつもりはこれっぽっちもなかった。
「冷めるぞ?」
カップから操縦席に目を移すとタウンゼントは僕が紅茶を飲み干すのを待っているようだった。
空のカップを返すと彼は今朝預けた手帳を膝の上に開いた。
「私の調べによると1,500までは引き付けても脅威度はさほど変わらない。まだ猶予がある」
彼は手帳を閉じて続けた。
「人は大人になると理由がなければ何もできなくなる。正義、合理、普遍、そんな社会的承認の剣、軽くそして鋭い剣でなければ振るうこともできなくなる。しかし、それをもってしても切り分けられないものはある。今がそうだ」
「ああぁハッハァア!今がそうだ!」
「全くアメリカ人は既成の装備に頼りすぎる」
「どうしたらいい?」
僕が尋ねるとタウンゼントは手帳を僕に差し出して言った。
「棍棒を削り出して、ぶちのめしてやれ。やりたいことを思うがままに。もし間違っていたら私が止めてやる」
手渡された手帳を受け取り開くと、そこには僕が集めた情報への見解と僕では探すことすらできなかったさらなる情報が書き加えられていた。これは、空白を埋めるピースであり、この色付きのピースはモノクロの他を想像させる。
「ありがとう」
僕は手帳を読み込み選べなかった可能性と照らし合わせた。そして見つけると拾い組み直した。その計画は必要なもの、ただ欲しいだけのもの、すべてを詰め込んだ完璧なものに仕上がった。精密で一滴の泥にすら耐えられないだろう。想定通りに運ばなければその都度、素早く、そして的確に変更していかなければならない。戦争には不向きだった。
これがもし
そうなると当然この問題は何かで補わなければならない。そのすべてが手の中にあった。
「ハハハッ、これは……ひどいな、とてもじゃないが計画可能とは言えない。まるでパレードショーだ」
こう言うと、それを実行しようとするのは無謀に思えるかもしれない。
大概はその通りだ。
「エリッシュ」
「はい。エリッシュです」
「ほとんど賭けみたいな作戦だ。奇跡なしには成功しない。危険で、命の保証もない」
「はい」
「付き合ってくれるか?」
「まずは名前を考えましょう。そうすれば絶対上手くいきます」
「ありがとう」
僕はこの作戦をオペレーションオーバーライド、上書き作戦と名付けた。
この作戦は極めて非文明的であり、理性によって否定され戦争の歴史の中で瘦せ細った野獣としての本能に回帰したものである。同種同士の闘争に存在するすべての結果を否定せず、選択可能であるために段階的にゆっくりと進行し互いに権利を付与する。この戦いでは戦争において奇跡となり果てた至極まっとうな結末を取り戻す。
これは社会的命令に対する上書き、僕の戦争に対する上書きだ。
アメリカ人として説明すれば、これは単なるコヨーテの縄張り争いと言えるだろう。
「戦争の時間だ」
僕が作戦の手順を簡単に説明するとタウンゼントは飲みかけた紅茶を鼻から噴き出してむせ散らかしスカートをベタベタにした。
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