第11話「推し、探偵はじめました。」

「なあばあちゃん、昨日助けてくれた子って、どんな子だったの?」


翌日、春日駿は再び祖母の家を訪れ、こたつに入って訊いた。


「うーん、そうねぇ……かわいかったわよぉ〜。ほんのり天然な感じで、でも優しくて。まさるにもったいないくらい」


「まさるって俺な。でも、もうちょい具体的に」


「髪はねぇ……たぶん肩よりちょっと長くて、前髪がこう、ぱつっと」


「前髪ぱつん……!」


駿の頭の中で、「それだけで情報量の9割が前髪」のモンタージュが完成する。


「服は?学生?社会人?名乗った?SNSのIDは?LINE聞いた?!」


「そんなの知らないわよぉ〜。聞いておけばよかったわぁ〜。あっ!でも“さおりちゃん”って言ってたかしら?」


「……さおり、か」


(それって、まさか……いや、でもそんな偶然あるか?)


駿は思った。昨日、春組界隈で話題になっていた「今日の善行女子」は、名前が出ていなかった。

けれど、もし仮に「@sao_sao_love」の“さお”が“さおり”なら……?


(え、もしかして……俺の推しファンが、俺のばあちゃん助けたの? それってもう、運命じゃない??)


「よし、探す!」


「え、まさる、また脱走すんの?」


「ばあちゃんが言うな。今度は俺の番だ!」


というわけで、駿は「正体不明の救世主・さおりちゃん」探しを開始した。


まずは情報整理。


駅近くのスーパーでひでこを保護。


一緒に交番に行った。


たぶん20代前半?社会人風。


名前は「さおりちゃん」。


まさると雰囲気が似ている?(謎)


「そして、たぶん“駿ファン”の可能性高し……っと」


(にしても、地道すぎんかこれ)


そこで駿は考えた。


「……そうだ、SNSで探してみよう」


普段は見る専門だったが、今回は本気だ。


その夜、駿の秘密アカウントが動いた。


ユーザーネーム:@shun_no_sub

プロフィール:特技は人探し(たぶん)。好きな食べ物はおにぎり。


駿「よし、ツイート!」


【拡散希望】昨日、うちの祖母(スーパーひでこ)を助けてくれた“さおりちゃん”を探しています。

駅近くのスーパーで、白いエコバッグ持ってた人……かも。

お礼したいだけです、怪しい者ではありません。

#人助けの天使さおりちゃん #ばあちゃんありがとう


──当然ながら、即バレそうになる。


フォロワーA「ねぇこれ絶対、春日駿の文章じゃない???」


フォロワーB「え、句読点の打ち方が駿くんなんだけど」


フォロワーC「しかも“白いエコバッグ”って!ディテールの解像度よ!」


駿「やば」


慌ててツイート削除。


「だめだ……文体でバレるとか、どんだけ見られてんだよ俺……」


しかし、駿の挑戦は続く。


翌日、彼はマネージャーに内緒で、こっそり件のスーパーへ。


「すみません、昨日ここでおばあちゃん助けてくれた女性、覚えてますか?」


レジ店員「えーっと……ああ、いましたいました!あの、すごく優しそうな……」


「どんな人でした?」


「たしか、買い物袋が破れたって話をしてて」


「破れた……!」


(待てよ、それってもしかして――前に“@sao_sao_love”がポストしてた、袋が破れた話と一致……!?)


「……何か手がかり残してませんでした?」


「いやー、何も……あっ!でも、ポイントカード忘れてましたよ、昨日の人」


「それください!!!」


「い、いや、それは個人情報なので……」


「そっかあああああああ!!」


レジ前で崩れ落ちるアイドル(変装済)。


その頃、沙織は──


「《現在の数値:78/100》か、うん、今日はいい感じ!」


病室の窓辺で、カーテンに顔をうずめて鼻歌を歌っていた。


「ふっふ〜ん、推しと同じ空の下〜〜……って、違うか、病院だし」


今日も“@sao_sao_love”では、善行&推し観察レポートを更新中。


昨日、駿くんの文章みたいな投稿見つけた……けど、たぶん偽垢。

でも、ばあちゃん助けたさおりちゃんって、どんな人なんだろ〜(←自分)


──どちらも知らない。

相手がこんなにも近くにいるなんて。


《現在の数値:78/100》


沙織のパラメーターは穏やかに上昇中。

だが、それは「誰かの努力」の賜物かもしれない。


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