第8話「善行ハンター沙織、街に出る!〜ポイント求めて三千歩〜」

朝。

目覚めた沙織は、開口一番こう叫んだ。


「やばい!今日、なんか悪いこと起きそうな気しかしない!!!」


ベッドの上でスマホを開く。


《現在の数値:51/100》


「な、なぜ!昨日、猫の動画にいいねしたし、募金アプリで50円送ったし、コンビニのスプーン断ったし!」


(環境にも配慮したし善意も示した。むしろ表彰されるべきでは?)


しかし数字は正直だった。誤差なのか、はたまた「スプーン断り」は“自分にとっての善”と判断されたのか──とにかく数値は下がっていた。


「あと1ポイントで“災いの刻”が始まる……」


沙織は震えながら着替えを済ませ、勢いよく玄関を開けた。


「こうなったら、街中で“善”をかき集めてやるわ!!」


──こうして、善行ハンター・沙織の一日が始まった。


まず向かったのは、近所の公園。

朝の空気はさわやか。ジョギング中の人々や、ラジオ体操をするおじいちゃんたちがちらほら。


「……よし、ゴミ拾いだ」


ポケットから用意しておいたビニール袋を取り出し、目を光らせる。


(あ、あった。ペットボトルのフタ!)


しゃがんで拾う。


「これはプラゴミだよな……あれ?あの隣のは……え、割れたおせんべいのカケラ?」


「ねぇお姉さん、それ俺が今落とした煎餅なんだけど」


「す、すみません!」


──まさかの“落ちてないゴミ”を拾ってしまうというトラップ。


(これはノーポイント……いや、むしろマイナスだったかもしれん……)


次に向かったのは、駅前のロータリー。


「……お、あの人、スマホ落としそう!」


すかさず駆け寄って──


「あのっ!スマホ、ポケットから──」


「あっぶな!うわ、ありがとうございます!」


「い、いえいえ!」


《現在の数値:52/100》


「うおおおおお!!!回復した!!」


(善行、確定演出きた!)


喜びに震えたその時、背後から男の子の泣き声が。


「う、うわぁぁぁん!僕の風船がぁぁ!」


振り返ると、風船が空に舞い、少年がべそをかいている。


「待ってろ、小さき者よ。今こそ“優しさアタック”の出番……!」


沙織は持っていた小銭を握りしめ、近くのコンビニへダッシュ。


「すみません!風船ってありますか!?」


「風船?……ああ、子ども用のガチャガチャなら」


「それください!300円!えーい、2回まわす!」


カプセルがガコン、ガコンと出てきた。


──中には、パンダとカエルのビニール風船。


「っしゃあ!当たりや!!!」


急いで戻り、男の子の前にしゃがむ。


「はい、これ。泣かないで?」


「……わあ……ありがとう!パンダさんだぁ!」


少年の笑顔が弾ける。


《現在の数値:56/100》


「完璧ッ!!」


(やっぱり子どもは最高のポイント源……!)


昼下がり。

ファストフード店で軽く昼食をとっていた沙織は、ふと思い立つ。


「……トレイ片づけ、店員さんの代わりに全部やったらポイント入らないかな」


席を立ち、あちこちのテーブルをチラ見。


(あそこ、バーガーの紙とストロー放置されてる……)


「えへへ……失礼します、地味に善行中です〜……」


怪しい独り言をつぶやきながら、トレイ3つ分を片づける。


店員「……あの、お客様、何か……?」


「いや!なんでもないです!自主的ボランティアです!」


逃げるように退店。外でこっそり数値チェック。


《現在の数値:58/100》


「じわじわ来てるぅ〜〜〜〜!」


(誰かのためじゃない。自分のための偽善。それでいいのだ)


夕方。善行ラストスパートとして、沙織はスーパーに立ち寄る。


「お年寄りが重い荷物持ってたら即アタック、車椅子の人いたら自動ドアまでエスコート……」


──狙いは完全に“やらしい善人”だが、効果は高い。


そして、ちょうどいいタイミングで、カートを押すのに苦戦する高齢女性を発見。


「お手伝いしましょうかっ!」


「まぁ!ありがとう、助かるわぁ〜」


エスコートしながらにっこり。


《現在の数値:62/100》


「っしゃああああああああ!!善行のターン終了ッ!!」


帰宅後、沙織は冷たい麦茶を飲みながら、スマホ画面に向かって勝利宣言。


「これにて本日の“パラメーター維持”ミッション、コンプリートです!」


鏡の前に立ち、ポーズをキメる。


「我こそは──街の平和を守る、善行ハンター・サオリン!!」


……が、ふと冷静になって気づく。


「……私……めっちゃ怪しい人じゃん……?」


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