Lie Stage:名を借りた者たちの物語

ことのは

第一章

ep.1 CAFE 「Lie Stage」

駅から3分。喧騒を抜けた裏路地に、灯りの控えめな店がある。


名は、「Lie Stage」。


本を持って、名を隠しに来る者たちが集まる、少しだけ嘘くさい場所。




カラン、カラン


「やぁ、マスター」


黒いマントを羽織った、茶髪の男性。


年齢は、20代後半だろうか。


「こんばんは、本日はどんな御用で?」


「部屋へ」


そういいながらその男性は、黒いカバーのかかった本を差し伸べた。


この喫茶店では、本にカバーをつけることがルールとなっている。


マスターは本を受け取り、あるページを開き、何かを確認した後、奥の扉を開いた。


「いらっしゃいませ、漱石そうせきさん」


マスターの少し低い声が響いた。




「漱石さん!こんにちは、お久しぶりですね」


柔らかな女性の声が聞こえてくる


「ああ、久しぶりだな、紫琴しきん」


「今日は何の小説を持ってきたんですか?」


今度は茶色のカバーがかかった本を取り出した。


「ああ、今回は"彼岸過迄”をな」


「私は"こわれ指環”ですよ~!」


紫琴、と呼ばれた女は、赤いカバーがかかった本を取り出した。


「龍之介りゅうのすけは来ていないのか?」


「龍之介さんはさっき帰りましたよ」


「すれ違いか」


「お気に入りですものね!」


「あいつの書く小説が楽しみだからな」


「ほんと、仲良しですよね~」


「そう、なのか?」


「仲良しだとおもいますよ~!」


「そうか」


「お前は本当に明るいな」


「この世界では口調くらい自由にさせてもらってるの~」


本を読みながら二人が会話をしていると、


ガチャ、という音とともに、冷たい空気が一瞬、室内を撫でた。


「、漱石、紫琴もいるのか」


「あ!こんにちは!鴎外さん!」


鴎外と呼ばれた男性は、


黒髪を撫でつけた鴎外は、紺のスーツにカッターを胸ポケットに差していた。


鋭利なものが似合う男だった。


其のカッターを右手に持ち、カチカチと音を鳴らしながら本を取り出した。


カッターを戻し、青いカバーの本を両手で持ち直した。


「今日は、"舞姫”だ」


「いいですね~!」


「読んだことがないな」


「貸す」


「今度な」


「私にも!」


「、了解」


「ほんと静かですよね~、鴎外さんって」


「その方があっているんだ、放っておいてやれ」


「はーい」


鴎外は少しだけ、言葉を選ぶように口を開いた。


「我に彼岸過迄を貸してくれ」


鴎外の指先が、黒いカバーの角をそっとなぞった。


「感謝」


「じゃあ、俺はこわれ指環を」


漱石の声は、いつもよりほんの少しだけ、柔らかかった。


「じゃあ、私は舞姫を」


紫琴は、その青い本を両手で受け取った。


まるで、壊れ物を扱うように。


それぞれの本を読みながら、夜が更けていく。


マスターが白い本に何かを書き込み、静かに灯りを落とした。




記録された名前たちが、今日も静かに、カフェの奥でページをめくっていた。












あとがき


登場するキャラクターや本は、実在しているので、良ければ調べてみてください!

あと、感想などもらえるとめっちゃうれしいです。

もしよければ、感想や評価お願いします!

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