Epilogue
「しーな!いつまでモタモタやってんだよ。早くしねーと遅刻すんぞ!」
「待って!今終わる!今終わるとこだから待ってよ!きの〜っ!」
急いでしーなの分の弁当を詰めた俺は、まだ洗面所で頑張ってるしーなを急かす。
俺達が秘密で付き合ってから三年。
念願叶って同棲中だったり致します。
卒業と同時にプロポーズは割りと聞く話だけど、自分がやる側になると凄い大変だった。
まず、家をどうするか二人で散々悩んで、結局しーなの家で暮らすことにした。
心機一転、新居でっていうのも考えたは考えたんですけどねぇ。予想通り高遠と池田さんが考えに考えて作られていた快適生活空間以上の物は今の俺では提供出来そうにないな、と白旗を振りました。
出来ない物は出来ない。これは情報を集めて何年か後にリベンジしましょう。
次に親族や友達への報告。
これね、本当にキッツいから。
男女のカップルだってコミュ
しーなのご両親から殴られたり
「お兄ちゃんの恋人さん?本当に?」
ご挨拶に伺ったご実家でお義母様が信じられないものを見るような顔で俺を見た。
ですよねぇ。そうなりますよねぇ。大事なご子息に手ぇ出したとか……。普通はありえないですよねぇ。わかりますとも。
義弟夫婦と子供達も兄の恋人が挨拶に来ると聞いて顔を出して下さったのですが、軽く挨拶だけをしてサッと席を外して下さいました。
兄の恋人が
「お父さん!ちゃんと聞いてた?お兄ちゃん、恋人出来たのよ!しかも、ご挨拶に来てくれたの!まぁまぁ、それも可愛らしい子じゃない」
ん?
なんか流れがおかしくねぇか?
お義父様も驚いて固まってらしたのですが、お義母様の言葉で我に返って俺としーなを交互に見比べた。
「来宮君」
「はい」
何言われるんだって構えるでしょ?
普通構えるでしょ?
俺は失念してたわけですよ。ここはしーなの実家で、しーなの人間性についてを誰よりも熟知した方々に会っているわけで。
高遠なんて及びもつかないほどの理解力の塊なわけですよ。
「本当によく考えた?」
「はい」
「知ってはいると思うけれど、光希の性格が恐ろしく抜けているのは分かっているね?」
「はい……え?」
「付き合っている分には気が付けないかもしれないけれど、平気でコンロを消し忘れたり風呂を付けっぱなしにして家を燃やしかけたり、トイレの調子が悪いからと言っては水栓を吹き飛ばしたり、掃除をしながら窓を」
「おいっ!」
黙って聞いてたしーながお義父様に向かって声を荒らげた。
俺は何を聞かれていたんでしょうか?
え?なに?なんだって?家が燃えて水栓がぶっ飛んで窓が割れんの?なにそれ、ホラー?今、ジャパニーズホラーの話をしてたっけ?そのバリエーションは寧ろハリウッド?
「昔の話!昔の話をなんで今すんの!もうしてない!そんなの時効でしょ!親なら応援してよ」
「親だから言ってるんだ!詐欺に加担するわけにいかない」
「詐欺ぃいい!?」
これはアレだな。
親子喧嘩だな。
なんでこうなったよ?
「
「あぁぁぁぁぁぁあああああ!」
しーな、壊れた。
そりゃあまぁそうか。
普通は同棲報告の場で、実の親から崖っぷちで後ろから全力の助走をつけたドロップキックを喰らわれたくらいのショックを与えられるだなんて思わねぇもんな。
あと高遠。お前一体いくつの頃からしーなの面倒見てたんだよ……。
家に帰ってからのしーなのヘコみ方は半端なかった。
気持ちは分かる。
俺は全然気にしてないんですけど、あの後しーなの失敗談をご両親にたっぷり聞かせていただきまして。
「こんな息子だけど、良い?」
と
そこはしーなさんも喜んで下さったのですが、帰ってきた今でもソファで俺の腰に抱きついきながら身を丸くしていじけてらっしゃるんですよ。
これはこれはと頭を撫でて慰めるというご褒美をいただいております。
余談ではありますが、俺の実家の顔合わせは
重たい沈黙を破った姉が信じられないものを見るような顔をして。
『ウソ……哲哉にも恋愛感情とかいう人並みの感情が存在してたんだ。うっわぁ~!驚いたぁ』
っていう心無い一言をぶっ放して下さいまして。一同が賛同して頷いた挙句、こちらの反論を待たずにもう一発。
『アンタ子供とか居ない方がいいって!絶対!鬱陶しいのダメでしょ?周りからお子さんのご予定は?とか言われたらもんの凄い勢いで冷めるタイプだもんねー。普通の女の子じゃメンタル持たないもん!椎名さんは綺麗だし、二人でマイペースにやる方がアンタには絶対合ってるって。椎名さん逃がしたらアンタに付き合ってくれるような物好き現れないんだから大事にしなさいよ』
とかキッツいのをカマしてくれた。
あ、心配していたしーなに対しての無礼はこれ以外は無かったのでそこは良かった。
それにしても姉。お前そんなこと思ってたのかよ。
今後の付き合い方考えんぞコラ!
で、友達への報告ですが。
要る?本当に要りますか?これ。
高遠に河野さん、初町さん。それに三峯さんと池田さんには内情筒抜けなんですけど。筒抜けどころか後になって振り返ってみれば、年上組には見守られてた感すらあるんですけど。
改まってのご報告っていうのもなんなんですが、言わない訳にもいかなく……。
それ以外の友達には敢えて言わなくていいんじゃないかっていうね。
結婚式とかはちょっと無理だけど、六月に身内で集まってささやかなお食事会的なものはしました。
えぇ、まぁ、お義父様お義母様よりも三峯さんと池田さんからの圧の方が凄かった。実のご実家は圧どころかしーなが無事にパートナーを得られて良かった感が半端なかった。
その代わり、二人からの圧がとにかく物凄かった。高遠なんて比じゃなかった。付き合ってる時と正式にこうして皆に披露してからでは明らかに圧が違う。浮気を疑われでもしたら沈められるんじゃないですかね。どこにとは言いませんが。
まぁ、浮気なんてしませんけど。
そんな感じで(実質)新婚生活が晴れてスタートしたわけです。
「早くしねーと高遠に叱られるぞ!」
キッチンから洗面所に向かって怒鳴る。同棲を始めてからほぼ毎日毎日これを繰り返してる。
あぁ、敬語はすっかり消え失せましたね。毎日一緒ですからそんなもん秒速で消え去っていきましたとも。そもそも俺はお口が宜しくないんで。
「それは嫌だ!しん容赦ねーから怖ぇ!」
「だったら急げっつの!」
朝食は食べさせたのに、その後の身仕度が長いっ!
どうして毎日同じルーティンで
何をしてるのかと思えば、今日は頑固な寝ぐせと戦っていらっしゃった。
情けない顔でこちらを見るのが愛らしくて、つい口元が緩んでしまう。
結局、高遠はしーなの下……准教授を目指して大学院へ進みました。卒業してしまった俺の代わりに未だにどこか抜けてるしーなをサポートしてくれています。
はぁ?サポートだぁ?って、キレ散らかす姿が頭に浮かびましたが、まぁ、相変わらずってことで。
「ほら、行くぞ!」
「あぃっ」
俺は卒業してサラリーマンってヤツになりました。
一応、大手企業のエリートって呼ばれるご身分です。
しーなが俺の事でなんにも心配しなくていいように、周りから何かを言われても跳ね飛ばせるように、そりゃあもう頑張りましたとも。
肩書きも大事ですからね。
「駅まで飛ばすぞ!」
「あぃっ!」
いつかみたいに、自転車に立ち乗りしたしーなが俺にぎゅって抱きつく。
俺は駅までの道を全速力で自転車で駆け抜ける。
車もあるけど、しーなはこれが好きなんだから仕方ねぇなぁって毎日あくせく駅までの道のりを疾走することとなっております。
さあ、幸せになる覚悟は出来ましたか?
【END】
秘密【BL】 キオ @kio0704
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