1.Spring





【椎名eyes】




「なぁ〜んで大人気の椎名しいな准教授の心理学の講義によりにもよって経済学部の学生が入れちゃったわけ?」


 俺が淹れたコーヒーをまっずそうにすすりながら、しんが俺を見つめる。

 わざわざ俺の研究室に朝一番で現れた高遠たかとおしんは俺の年の離れた従弟いとこ

 我が物顔で来客用兼ゼミ生用のテーブルに肘を突いてマグカップを傾ける姿はちょっとだらしないんだけど、絵になってんなーって思う。

 しんは見た目が整ってる。

 俺は自他共に認める女顔で、しんみたいにキリッてした男の子の顔じゃねーし。男らしくスっと通った鼻筋とキリリとした眉毛はしんの意志の強さをよく表してると思う。何より睫毛バシバシのアーモンド型の黒目の大きな瞳と厚めの唇なんて、ちょっとハーフっぽくて俺と血が繋がってるなら少しでいいから分けて欲しかったなぁってため息出ちゃうもん。


 自分の容姿の魅力をちゃーんと理解してるオシャレさんな服に身を包むしんが、軽くパーマをあてたゆるゆる艶々つやつやの黒髪の隙間からじっ……と見上げてくる。

 ファッション誌の表紙みたい。


「だってさぁ、しんが言ったんだよ?」

「ん?なんか言ったっけ?」


 も〜っ!自分が言った事忘れちゃうんだもん。いい加減だよねぇ。しんからのお願いなんて滅多にないからちゃんと聞いてあげたのに。

 本当に自分が何を言ったのか思いつかないらしくて、キュッと眉間に皺を寄せて視線を下に落として考え始めた。

 視線がテーブルの上をゆっくり移動してるのを見て、これは思いつかないやつだなーってため息をく。


「友達の来宮きのみやっていうやつが選択の単位取得ヤベェって言ってたから心理学勧めといた。気が向いたら入れてやってよって言ったじゃん!」

「は?だから入れてくれたわけ?」

「だから入れたわけ!」


 ただでさえ自分の研究が忙しいのに一から教えなきゃなんない手の掛かる子なんて本当は嫌だよ。

 定期的にしなくちゃならないアンケートの依頼とか集計はゼミ生が手伝ってくれるけど、分析とかは俺の仕事なんだよ?

 でもさ、しんがそう言うならって選んだのにさぁ。だってそれもう来宮くんに話しちゃったって事でしょ?その子が期待しちゃってたらしんの顔に泥を塗っちゃうことになるわけだし。

 しんって昔からあんまり友達の話とかしない子で、たまーに話題に上がる子がその来宮くんの事だっていうのは口ぶりとか表情でなんとなく分かっちゃったからさぁ。

 個人が特定できるようにいつも一緒に遊んでる友達の話をしたのは多分初めてだと思うけど。


 だらだらとコーヒーをすするしんにちょっとムッとなって、腰に手を当てて唇を尖らせて抗議した。

 俺は昔っからこの見た目のせいか迫力が足りないらしくて、こういう風にオーバーリアクションで頑張って主張しないとまっっっったく通じないんだもん。

 怒ってますって表現してみても相手に通じないことなんてざらだし。酷い時はアイツなんかむくれてるなぁくらいしか思われない。

 他人にそこまで腹を立てることもそうそう無いけど、自己表現はしないと存在が軽く見られちゃうからちゃんと怒らないと。

 でも、昔から全く伝わらないんだよね……。

 しんを含む親しい間柄の数人にはきちんと伝わってるからいいっちゃいいけど。


「ごめんごめん。まさか本当に初心者おにもつ拾ってくれるとは思ってなかったからさぁ。言ってはみたものの全然期待してなかったんだよね。そっちも仕事じゃん?そーいうのは分かってっし、来宮も俺に言われて希望出しただけで入れてもらえるなんて思ってたなかったんじゃないかな」

「でもねぇ……来宮くんって俺の授業取れなかったら留年確定だったみてぇだよ?俺が選んだの最後になったから分かったんだけど他の選択講義落ちてたから」

「マジで?」

「マジですぅ〜!」


 友達とは言ってもそこまで切羽詰まってるのを知らなかったのかもしれない。

 他の講義に落ちてるのなんて教員側おれたちじゃなきゃ分からないから仕方ない。でも俺からしたらある意味脅迫だったんだよね。選択科目とはいえ俺の単位無しじゃ足りてないって分かっちゃたんだもん。

 大学側こっちだって出来る限りで学生を進級させようとか不利にならないようにはするけど、自分のお気に入りの子以外にはかなりシビアに自分の事情を優先する教授や准教授はいっぱい居るし。


 ため息をふかぁく吐き出してから砂糖とハチミツの味しかしないコーヒー牛乳ってしんが揶揄からかうカフェオレをあおった。


「でもさぁ、椎名は来宮を気に入ると思うよ」

「はぁ……?なんの事かわかんねぇけど期待しとく」

「うんうん。そこは期待してよ。絶対に損はさせねぇからさ」


 しんは口の端をニィッと吊り上げてパチンッて片目を瞑ってみせた。やっぱり悔しいけどその仕草が様になってる。

 俺は見慣れてるから悪い顔して笑ってんなーって思うけど、しんの内面をよく知らない女の子なんかにコレやったらストンッて恋の矢が刺さっちゃう。

 しんはすっごくモテるけど、モテる理由もなんだか分かるんだよねぇ。

 気に入るとか何を言ってるのかさっぱり思いつかないけれど、しんが俺の不利になるような事をするとは思わない。


 結局しんは自分の講義が始まるまでこっちの事情お構い無しで俺の部屋にダラダラと居座った。











【来宮eyes】





 電車に揺られながら、目の前に立つ河野こうのさんをなんとはなしに見つめてみる。


 少し前まで締切だとかなんだとかで研究室に詰めていて、その姿は髪はボッサボサに伸び放題で無精髭がボーボーのそりゃあひっどい有様だった。

 目の下には凄まじい存在感を主張するもはや紫がかったくまをこさえ、肌は見るからにザラザラのボッロボロ。一目見て「あ、こりゃダメだわ」ってわかるやつれ具合で人間的な生活をギリッギリ最低限で維持してんなっていう。

 それが締切とやらが過ぎた途端に襟足をスッキリと短めに切り揃えた、瞳に少しかかるくらいの前髪だけ長いアッシュブラウンに染めた髪をサラサラと揺らしながらすっかり髭も消えた別人のような姿で「あースッキリした」とご登場なさった。

 このボロボロ期と美人期をほぼ一定の周期で繰り返していらっしゃる。

 ボロボロ期を脱すると緩やかに元来の男性にしては艶やかな肌に戻っていく。

 河野さんは体格こそしっかり男性的なのに顔の作りは柔和で優しげ……やや中性的なもんだから少し憂いを帯びたような(本人はだるいだけ)佇まいがとても良く映えてしまっていて、親しい仲という贔屓目ひいきめを差っ引いてもとても女好きのするものに仕上がってしまうからたちが悪い。

 そもそもが少し垂れた眉の下にあるスッと通った切れ長の瞳は表情にとぼしいくせにそれが見知った相手に対しては警戒心を解いたように目尻に皺を寄せて涙袋も目立つ笑みを敷くんですよ、このヒト。知り合い程度ならとんだキュン製造機ですよ。

 しかも話をする時に誰彼構わず相手の目線に合わせて(大抵の物事に興味が無いので)じぃ……っと焦げ茶色の虹彩で覗き込む。この仕草で様々な女性を本人は悪気無く、相手にとっては必然的な勘違いの沼に突き落としてきたんですよ。無自覚に。容赦無く。残酷に。

 普通、そんな風にされたら期待しますよ?

 このかた自分の興味のあることにしか感情を動かされない根っからの学者タイプだというのにそこそこ高い身長に甘めの顔つきにギリギリ無口にならない程度には人の話を聞けて、どんな話をしても(興味が無いから)否定をしないときております。

 女性からしたら好物件らしくモテにモテるくせに今まで特定の相手を作らずにのほほ~んと気ままに研究に没頭していらっしゃる。

 ということに世間的にはなっております。


 そんなイケメンさんがガタン……ガタン……と揺れる電車のドア脇に立ってりゃまぁ人目を引くらしく。

 たまにチラチラと車内の女性達から熱い視線を受けているのですが、当人は全く意に介さずに真っ暗い地下鉄の景色を眺めているわけです。

 たまに猛者もさに話しかけられることもありますが『通勤中だから。悪いな』とぼわぁっと滲むような高くも低くもない声でやんわり断られるとほどんどの相手は頬を赤くして引き下がって下さいます。

 ちなみに、返答のバリエーションはこれだけです。

 どんなに夢見がちな女性でも毎回答えがこれだけでは相手にされていないことに嫌でも気がつくってもんでしょう。

 それでも話しかける剛の者がいなかったわけでもないのですが、河野さんは本当にこの一言以外話さないのでその内にいなくなってしまう。

 この態度は河野さんは朝がすこぶる弱くて頭の回転が恐ろしく下がってるからというだけなので悪気は無いんですけどねぇ。


 新学期にこの見た目ということはまた勘違いした学生に迫られるやつでしょ?

 なにせこのかた、見た目が実年齢を裏切りまくってらっしゃるので新入生が色々と勘違いをなさるそうなんですよねぇ。

 河野さんはこんな性格なので学生から迫られたりっていう面倒事が起きないように初町さんが露払いをして下さっているそうで。

 いや、あのヒトは自分の都合で露払いを喜んで請け負ってるだけだわ。


 そういえば河野さんの講義を取らないで済んだので俺が受ける講義で若い教員は経済学の初町さんと心理学の椎名准教授だけですね。

 若いっつても歳いってんだろうなぁ……。

 准教授になるなんてのは生半な努力じゃ到底無理ですからねぇ。

 河野さんや初町さんの見た目がバケモン並なだけで普通の教員はそれ相応に歳を重ねた見た目をしておりますし、椎名准教授だって例に漏れずに草臥くたびれた中年に片足突っ込んだようなかたなんでしょうねぇ……。

 見た目で受ける講義を決めた訳でもないですし、危ないところを拾っていただいたご恩は感じておりますですよ。はい。



「あぁん?」


 講堂に入ってみてかなり驚いた。

 うちの大学で一番広いんですよ、ここ。

 それなのに講堂内は学生でみっちりぎっしり。

 どこに空いてる席があるのか探すのも一苦労っていうくらいの満員御礼。

 呆気にとられて変な声を出してから入口で固まっていた俺にお声がかかりまして。


「おい来宮!」

高遠たかとお。あなたにしては早い時間のお着きじゃないですか」


 前の方の席に座ってひらひら手を振る高遠がこの時間に席に着いていることが少し意外で。

 いつもならば講義開始時間ギリギリにゆったりと現れて適当な席に着いて、なんとなく、でも卒なくこなして去っていくタイプでしょう、アナタは。

 それにしても嫌味なほど目を引くイケメン野郎だ。

 こんなに混んでいる講堂内でも軽く声をかけて手を挙げただけで見事に目を引いて、オマケにご丁寧にも俺の席まで取っておいてくれておりまして。

 それには感謝するけれど、普通ならあまりいい顔はされない行為だろうに見た目で周りを威圧しているものだから何の波風も立っちゃいない。

 席取りの荷物を置いていた席にするりと身を移して通路側の席を俺を勧めた。


「この講義は人気だって言っただろ」

「はい。まぁ、確かにそう聞いてはいましたねぇ」

「この時間に来たら良席は無いと思えよ」


 定員数までとっているそうですから席自体はあってもかなり後ろになりそうですね。それだと黒板も見え難いですし集中しにくそうではありますが、この講義を専攻している身分では無いので無難に過ごせれば自分としては文句はないんですけどねぇ。

 むしろこんなに前の方の良席を専攻もしていない自分が陣取ってしまっては非常に気まずいのですが。

 なるべく目立たずに適当にやり過ごしていきたいんですよね、こちらと致しましては。


「それにしても噂にたがわず出席率が物凄い事になっているようで。怖い方なんですか?椎名准教授は」

「ん?全ッ然」

「出席をきっちりとって評価に反映するとかでは?」

「そういう意味では出席をとるとは言えねぇな。本人には出席をとるって概念があるかどうかも謎レベル。上が出欠の確認をとれって言うからそういうもんかってとってるだけなんじゃん?でもさぁ、心理学やろうってんなら受けてて損は無い講義だから」

「と、言いますと?」

「椎名の講義はわかやすい。そもそもが心なんていう難解なモノを扱う学問なんだよ、これは。解り易い講義できちんとした知識を手っ取り早く得たいっていうのは学術書抱えてうなるのが趣味すき変態ドM野郎以外なら誰だってそうするだろ」


 そういう事……。

 いや、まぁ、納得しました。

 そりゃあ無駄な時間は省けるものなら省きたいですしねぇ。その講義をなさるかたが優秀で丁寧な人物であるのならば尚更なおさら

 さて、どんな人物なんですかねぇ。

 椎名准教授殿は。


「少しは興味湧いてきた?」

「まぁ、多少は」

「惚れんなよ?俺の従兄いとこなんだから」

「はぁ……?男相手にありえませんね」


 そんなやり取りをしていると講堂のバカでかいドアをじ開けるみたいにして白衣の人物が入ってきました。

 確かに重たいドアではあるのですが、それをパントマイムみたいなコミカルな動きで開けて身を滑り込ませ、くるんっ!と回ってまた大袈裟な動きで閉めた。

 彼は野暮やぼったくも乱雑に伸び放題に伸びた髪を後ろで一つに結わいて、これでもかってくらいに縁の太い黒縁眼鏡をかけていた。

 この見目の汚さ加減は少し前のボロボロ期の河野さんに匹敵するかと。

 しかも、ほっそりとした面長の輪郭に沿ってとても激しく自己主張する不精髭が彼の年齢をより分からなくさせているのかと。体型自体は中肉中背よりやや痩せ型に見えますので言い方を変えれば華奢きゃしゃと表現しても差支えないのかもしれませんが……。

 まぁどこをどう見ても普通に男性ですよね。


「無い。ですね」


 思わず漏れた小さな呟きに高遠がにったぁ〜っとチェシャ猫のように意地悪く笑った。

 そもそも高遠は男の俺から見ても嫌味で憎たらしいくらいに男性的に整った顔立ちと体格をしてます。

 その彼と血縁だと知った上で見ても壇上の彼の見た目は引き籠もり期間の河野さんといい勝負のボッロボロ具合なわけで。

 美形の血筋だというのに今の彼が非常にやつれているのか、高遠が突然変異なのか判別がつかない程度には雰囲気すら似ておりませんねぇ。

 河野さんと初町さんの情報を疑うわけではありませんが異性に惚れられるような感じには見受けられないのですが。


「その言葉忘れんなよ」

「……なんですか、それ?」

「よく人間見た目が九割って言うけど。意外と当たってんだな」


 ニタニタ笑った高遠が壇上に立つ人物に向かって軽く手を振った。

 こちらと致しましては面白いことなど何もなく、手を振った高遠に気がついた椎名准教授がほんの少しだけ指先をチロチロと動かす様をなんとなく幼い仕草ですね。と思って見ていたくらい。

 今度はしっかりとこちらを見た椎名准教授の瞳が俺をとらえた。

 さすがは高遠の血縁だけあって顔自体の個々のパーツは整ってるかも……。


「はいはいは〜い。授業始めるよ〜」


 個性的な声。

 低くはないけれど甲高くもなく、少しハスキーなくせにスコーンとよく通る。

 歳も予想していたよりもずっと若いのかもしれない。

 准教授といったら若くたって三十歳を超えていると踏んだけど、学生達に笑い掛ける仕草は歳のいった人間のそれとは違うように見受けられます。

 確かにまぁ、雰囲気や声は嫌いではありませんが。


「出席とるよ〜」


 高遠の言ったとおり、本当に簡単な点呼のみ。

 学生の名を呼びながら手元のノートパソコンに何かを打ち込んでいく。

 手元と学生の顔を交互に眺めながら出席をとっていく様は目を引くかたと言っても過言はないかも知れませんね。

 華があるとでも表現すれば良いのか、つい目がき付けられる不思議なヒトではあるようで。


「そんじゃ、はじめましてな人に自己紹介。こんなボロボロでごめんね。昨日が論文の締切でさぁ」


 黒板に名前を書いてからくるって回転、身なりについてを説明してみせた。

 白衣の裾と縛った長めの髪がふわっと円を描く様は女の子だったらさぞ可愛らしい仕草だったでしょうが生憎と彼は成人男性なので残念ながらコミカル、または子供っぽい印象の方が強い。

 まぁ身のこなしは軽いみたいで結構。



 講義は初日だっていうのにバンバン進む。

 そりゃもうついてくのがやっと。

 予習もせずに軽い気持ちでやってきた初心者が受けていいシロモノではなかったといったところ。

 ……初心者の俺がついていけているというだけで椎名准教授の講義は解り易いんだと思いますよ。


「はぁああ〜……」


 講義終了と同時に机に突っ伏して息を吐き出す。

 必死で話を聞きながらテキストと黒板を交互に眺めてはメモをとる。それだけで脳みそフル回転して焼き切れそうだったわ。

 仕方ないでしょ。

 次の講義まで時間もあるしどこかでノートをまとめないと手遅れになる感はバシバシするのですが如何いかんせん気力が尽きかけてしまって……。


「お疲れ」


 少し高めの機嫌の良さそうな高遠の声に返事を返す気力もないんで。

 そのまま無視して突っ伏してたらカタンッて前の席に誰か座った。


「え〜っと、来宮くん?」

「はい?」


 予想外の声に驚いて顔を上げたら目線の先で椎名准教授が笑ってた。

 高遠の『お疲れ』は俺じゃなくって彼に言ったのか……。


 階段状になってる講堂。

 一つ前の席は当然一段低くなっていてそこにこちら向きで座った椎名准教授が上目遣いで俺を見上げていた。

 なんかこのヒト綺麗なぇですねぇ。

 分厚い眼鏡の向こう側で薄茶色の瞳がやたらキラッキラ光ってて、なんていうか……。


「今日は他に講義とか用事はある?」

「講義は経済論だけですが。用事は夜まで特に無いですね」

「経済論、恭くんの講義だね。来宮くんは経済学部だもんね。んー……わかった。終わったらいつでもいいから俺のとこ来てくれる?」

「はい?」


 経済論は絶対に落とせない必修科目。それが終わってからなら何の支障もありません。

 夜にバイトがありますがそこまで長時間拘束されるとも思えませんし。

 が!お呼ばれをしてしまった理由に不安が残るんですけど……。


「えーっと、だめ?」

「いいえ。行かせていただきますよ」

「わかった。んじゃ待ってるから。俺の部屋わからなかったらしんに聞いてね」


 またぴょんっ!とコミカルな動きで立ち上がってそのままふゎふゎした足取りで講堂を出ていってしまいました。

 仕草が一々子供っぽくて可愛らしいかたなんですね。


──ボッサボサのボッロボロですけど。









【椎名eyes】





「おーい。椎名ちゃん居る〜?」

「いるよー」


 とんとんって軽いノックの音がして部屋のドアが音もなくスルスルッと開いた。

 ドアの開け方で顔を見なくたって分かる。

 今日もきちんとアイロンのかかったシャツにスプリングニットのベストを着て、七三に分けた柔らかな髪を揺らしながら恭くんが入ってきた。

 年が近い教員は数が少ないから学部が違っても仲は良いんだよね。恭くんは大学の先輩だし。

 俺を見るなり苦笑い。


「仕方がないとは言っても見た目が汚いなぁ〜」

「いきなりそれぇ?恭くんひでぇよ」

「仕方ないでしょう実際に汚いんだから。においそうと言わなかっただけ優しいと思ってよ。職員に有るまじき姿だね。留守番をしているから着替えついでにシャワーを浴びる事を勧めるよ」

「……はぁ〜い」


 俺にお説教するだけあって恭くんはいつも上品な格好を崩さない。

 今日もピッカピカに磨かれた革靴の先っちょから襟の先を留めたボタンまで全部が全部整ってる。

 俺のが身長が高いんだけど、恭くんはシャンッと背筋を伸ばして真っ直ぐ立つ上に武道とかそゆのやってた?っていう凛とした雰囲気をまとってるせいで俺よりも背が高く見えちゃう。

 体格も良いのに威圧感は全く感じない。それどころかフレームの細い銀縁のメガネがよく似合ってて知的なお兄さん感満載。言葉遣いも綺麗だし言葉のスピードも緩やかだから更にイメージは柔和だね。

 次の講義コマまでの間の時間潰しにお茶を飲みに来たって口実で、実は締切明けの俺を心配して様子を見に来てくれたんだと思う。

 そう思うと面倒だなんて言えなくなって渋々家に着替えに戻った。


 家までは車で二十分くらい。まぁまぁ近い。電車なら信号が無いからもっと近い。

 職場に近すぎると仕事とプライベートの思考の切り替えが上手くいかなくなる可能性があるし、何かあった時に気軽に呼び出されやすくもなるからそこそこの距離は大事だと思うんだよね。



 家に帰ってそのままバスルームへ直行。

 ここのところは軽くシャワーで済ませてばっかりだったから久しぶりに湯船に浸かる事にした。

 それから伸び放題になってた髭を剃ってついでに眉も整えて、しんに常備させられてるトリートメントを本当に本当にかなり久しぶりに付けて髪を乾かした。

 ベタベタギシギシしてないサラッサラの髪とかいつぶりだろう?

 しまいっぱなしだったコンタクトレンズを付けて繁忙期用の効率重視の分厚い眼鏡はケースにしまってしまう。

 今日はもう講義は無いからいいやってセーターにシャツとチェックのスラックスにスプリングコートっていうラフな格好で家を出た。

 コンタクトレンズって若く見られがちだから本当は好きじゃないんだよね〜。



「おけぇり。また異常に若返ったなぁ」

「通常運行の椎名ちゃんの見た目は学生と間違えられちゃうくらいだからね」


 大学に戻ったら俺の部屋でこうちゃんと恭くんが仲良くお茶してた。

 そんで言われたくなかった事をズバズバ言われた。

 わかってますよ〜だ!童顔で、しかも女顔だから身なり整えてコンタクトレンズ付けるとすっげぇ若返んの。


「二人だって似たようなもんじゃん」

「あ〜……」

「まぁそうだけど……ねぇ?」

「こりゃあ反論出来ねぇな」


 だって二人のが年上だもん。

 こうちゃんが二個上で恭くんが一個上。

 年なんかそんなに変わらないのに二人だって実年齢よりもずっと見た目は若いよ。

 それに二人とも大学の先輩だから当然若い時の姿を知ってるけどそんなに劇的には変わってないもん。

 俺の言葉を受けた二人が顔を見合わせて、お互いの姿を確認し合ってから結局あはははぁ……って空笑からわらいとため息の混じったような声を口から小さく吐き出した。

 若く見られるのって良いことばっかりじゃないからね。学生と間違えられちゃうとか不名誉だから!

 二人はちゃんと男顔だしそこまでじゃないけど。それでも院生とかに間違われるのしょっちゅうだから。


「あ!椎名綺麗になってんじゃん。なになに?来宮が気になっちゃった感じ?」


 勢い良くガラガラガラ~……ピシャンッ!てスライドして開いたドアと楽しそうなしんの声。

 しんのやつ揶揄からかうつもりだー、心底嫌だーっ、て渋い顔を作って入口を振り向いたらこうちゃんと恭くんがカラカラ笑った。

 二人は俺としんが親戚なの知ってるし、しんが俺に対して年上の扱いをしないのも知ってるから俺達のやり取りを見ていると兄弟でじゃれてるみたいに見えるんだって。


「気になってませんー!」

「お?反論したな。でもさ、綺麗になってるのは事実じゃん。これから来宮と会うからでしょ」

「違ぁ〜うっ!」


 やっぱり揶揄いに来たんだよ!もぅっ!しんてこういうとこがあるから!

 すっごく悪い顔してるから。イジってやる気満々。子供がクラスの誰々くんとぉ~誰々ちゃんがぁ~とかやる時みたいな顔してる。


「来宮くんがこのまんまじゃ講義ついてけなくなるの確定からだよ!」

「は?なにそれ?呼び出しってまさか……」

「補習に決まってんだろ!」


 そんなの聞かなくたって決まり切てんじゃんか。

 あちゃーって固まったしんがヒクッ……て口の端を歪めた。

 俺が本気でムカッ!てしたのに気がついたらしくて、やっちゃった……って肩を竦めた。

 何を勘違いしてたんだよ、本当にさぁ。


「高遠は椎名ちゃんとキノをラブラブにしたいのか?」

「ん~?今のところはそうだね。別にそこまではしたいとは思わない……かな」

「じゃあいいべ?」

「まぁね」


 こうちゃんがずずぅ〜……とお茶をすすった。

 しんも苦笑いで席に着いて自分用にコーヒーを入れる。


 あとから知ったけど、こうちゃんは来宮くんと仲良しさんだった。

 年が離れてるからちょっと驚いたけど俺としんも同じようなもんだからねー。そういう事もあるよねって感じかな。

 きのって呼び方、可愛くていいなぁ。俺も呼んじゃおうかなぁ。嫌がられないかなぁ。


「来宮って器用なイメージあるんだけどやっぱ専門外だとキツい?」

「きついよ〜。心理学って名前だけで構えちゃってんもん」

「なるほど。それはそうか」


 恭くんいわく、来宮くんは経済学にいては優秀な生徒さんらしい。

 確かに頭の回転そのものは早そうな感じはしたけどね〜。向き不向きは人によってあるし、向いてたとしても来宮くんは本気で心理学をやるわけでもないからどの位のところを目指せば良いのか分からないんだと思う。


「椎名ちゃんは来宮の面倒をみてあげる気なんだね」

「そりゃあさぁ、自分が入れるって決めたんだもん。見捨てるわけにいかねぇじゃん」

「椎名ちゃんは優しいな」


 こうちゃんがつたない仕草で頭をなでなで撫でてくる。

 他の人にやられると子供扱いされてるみたいで腹が立つけど、こうちゃんに撫でられても腹は立たないし、なんだか嬉しい。

 多分、悪意とかそういうのが全くなくてただ純粋に褒めてくれているのが伝わってくるからだと思う。

 しんがニマッて笑って鞄を持ち上げてから立ち上がる。

 つられて時計を見た恭くんとこうちゃんも。


「次の講義の時間ですね」

「俺も次は講義だな」

「俺バイト入れてんだよね」


 三人ともササッと片付けて部屋を出ていっちゃった。

 さっきまでわいわいやってたから部屋が急にガラ〜ンてなって広くなったみたいに感じる。


「来宮くん。ねぇ……」


 しんは一体何をもって俺が来宮くんを気に入るって思ったんだろう?

 あの感じだと、そういう『気に入る』だよねぇ。こうちゃんもラブラブとか言ってたし。

 どうしてそうなっちゃうんだろう?

 来宮くんの顔を思い出してみたけど、本人からはそーいう感じしなかったけどなぁ。








【来宮eyes】





 午後一番の講義を終えて生ぬるくなった陽の光が差し込む研究棟のクリーム色の廊下の床をじっと眺める。

 とてもじゃないけれど気乗りはしない。

 でもそのままにも出来ずに、俺は仕方なく椎名准教授の部屋の前までやってはきました。

 ええ。

 それなのにノックをしても返事は無い。

 まったくなんの音もしないときたか。

 留守なのかと淡い期待を抱きつつ、ドアに手を掛けたら微かな音を立ててスライドしてしまいました。

 ……どうしましょうかねぇ。

 無視して帰ってもいいのでしょうが流石さすがにまずい気がするんですよね。

 だけど初めて訪れる人様の研究室に主が居ない中へ勝手にお邪魔するのもやっぱり抵抗がある。


 誰か……ゼミ生とか来ないものかと様子をうかがいながら指を突っ込んだまま暫く悩んで、取り敢えず完全に誰もいないことを確認だけしておいとまする方向でいくことにした。


「失礼しますよ」


 果たして、室内では白衣姿のかたが一人広めのスチールテーブルに突っ伏して眠っていました。

 最初こそ椎名准教授かと思ったのですが近くで確認したところどうやら違ったようで。

 体型こそよく似ていますが、テーブルに散らばった髪の色は先程の椎名准教授とは少し違うしなんだか艶々としています。ほっそりしたうなじからはなにやら良い香りまでして、先程の椎名准教授はどちらかといったら良い匂いとは程遠い見た目だったなぁ……と気の毒になる。

 ほら、河野さんもそういう時期があるので。

 風呂に入る時間も惜しい、みたいな。


 どうしたものかとじぃっと見つめていたところ、彼が身動みじろいで枕にしていた腕から少し顔をずらして俺を視界に収めた。


「ふぁ……ん?」

「勝手にお邪魔してしまってすみません。椎名准教授に呼ばれておりまして」

「きのだ……」

「はい?」


 顔を上げた彼には全く見覚えがありません。

 重力に引っ張られた髪がサラサラと後ろへ流れて顔全体が明らかになる。

 すっ……と筆で引いたような眉の下の人懐こそうな瞳が俺を視界に捉える。すっきり通った鼻筋に笑みを敷いたように薄く弧を描いた唇。長めの横髪から繋がるようにしてほっそりとした頬が続き、肉の薄い首から繋がった鎖骨が儚げな印象を与える。

 女性であれば完全に好みのタイプというやつですね。

 歴代カノジョは全てこのタイプの見た目だったなとか頭の後ろっ側で思って、今はその考えは要らない。と無理矢理追っ払った。

 黙っていれば完璧な容姿だと思ったのに不意に目を細めてふにゃん…と笑った彼に見覚えがあるような?そういえば、このきらきらとした瞳には見覚えがあります。

 髪の色やら匂いは空き時間にどこかでシャワーでも浴びてきたんですかねぇ。

 河野さんも染めたわけでもないのに髪の色が変わったりするので、長い間髪を洗わなかったせいでくすんだりするのでしょうかね……。しくは先程お見かけしたのが暗い講堂で柔らかな午後の日差しが差し込むこの部屋の違い。

 うん。そっちにしておきましょう。


「そっか、俺寝ちゃってた?」

「そうですね」

「俺が呼び出したのにごめんね。昨日までちょっと眠れてなくて」


 あー、やっぱり?まぁ、声がそうですもんね。そうなんでしょうね……

 大変身どころか最早もはや別人だろ?


「椎名准教授ですよね?」

「待たせちゃってごめんね〜」


 ふわっと花が咲くように笑った彼を見ながら、頭の中でぐゎんぐゎん警鐘が鳴り響く。

 これはいけない。

 思い出したくもないのに意地悪くこぼした高遠の言葉が頭の中をぐるぐると回り始める。


『人間見た目が九割。意外と当たってんな』


 ……ありえませんね。

 容姿がドストライクだからって一目惚れだなんて、ねぇ?あ、一度お会いしているので二目惚れですかね。

 でもまぁそこまで俺も単純に出来てないんで。そもそも性別がおかしいでしょ。年齢だってこの方、俺よりもずっと上でしょう?

 色々と頭の中で言葉がやり合って、少しの間ぼけっと突っ立ってしまいました。


「きの?」

「あー、はい。俺のことですかね」

「うん。来宮くんでもいいけど呼ぶの短い方が楽だしこうちゃんが呼んでたから。今日のノートとか見せてもらっていいかなぁ?」


 にっこり笑われて胸がドキッと高鳴った。

 嘘だろ?俺の心臓!なに脈打ってんだ!

 相手は男、相手は准教授、相手はおっさん。

 自分にそう言い聞かせながら変に脈打つ心臓を落ち着かせるように隠れて深呼吸をして、空き時間に簡単にまとめたノートを手渡した。


 ノートを探すふりをしながら深呼吸している間に、椎名准教授は黄土色の焦げ臭い臭いのする飲み物を作って下さいました。

 適当に座っててって言われたので遠慮なく座ってそれに口をつけてみたら、ほとんど砂糖水みたいにべらぼうに甘いコーヒー牛乳でございました。


 することもない俺は甘ったるいコーヒー牛乳をチビチビ舐めながら椎名助教授がノートを捲るのを何とはなしに眺めています。

 長い指。

 先程までしていた眼鏡ではないから見難みづらいのか、たまに眉間に皺を寄せてピントを合わせるような仕草をしてさらりと前に落ちてきた髪。それを掻き上げて耳に掛ける仕草。

 微かな音にも反応してつい目が追ってしまう。


「……わかった」


 ゆっくりノートを閉じた。

 それから俺にノートを返して席を立つ。くるりと回れ右をしてそのままキャビネットをなにやらあさりは始めた。

 白衣に着られてしまうくらい細い背中を手持ち無沙汰に眺める。

 ブカブカといっても過言でないくらいに大きい白衣。白衣の裾の長さを見る限り着丈はあってるんでしょうけれど、どうにも細身のせいで布が余ってしまってるようですねぇ。

 それにしても何がわかったんですかね?


「ほい」

「あ、はい。ありがとうございます」


 差し出されたのはプリントの束。

 つい手に取ったのはどうも誰かのノートのコピーらしく、見覚えの無い文字が並んだプリントの厚みをつい指先で測ってしまう。

 なかなかの厚みですね。


「俺の学生時代のノートとかレポートに最新情報を加筆訂正したやつ」

「え?」


 なんだって?

 椎名准教授は小首こくびかしげながら俺の受けとったプリントを指差す。


「きのは地頭じあたま良さそうだし専攻する人達から出遅れてんの自覚してるよね」


 そりゃまぁそうでしょうよ。

 本気で心理学やるような人間ヤツらは一年の時から講義をとってるでしょうし。

 俺は別に高遠みたいに心理学系の職に就きたいわけじゃありませんし。単に勧められたからとか、単位の為だとか、その程度。

 門外漢が席を埋めるのは他の受講者に迷惑なのでは?と思うくらいには自覚しておりますとも。


「俺の話が全くわからないのにただ単位の為だけに講義を聞いてたってつまんないでしょ?」

「そりゃそうですね」

「俺もさぁわかってないな~ってわかる子に向かって一生懸命教えようと話すのはやっぱ嫌だもん。きののせいじゃないのはわかってっけど、それを承知で受け入れたのは俺だしね。だから、ちょ〜っと補習?しよっかなって」

「補習ぅぅううっ!?」


 困ります!バイトもあるし他にもレポートとか抱えてますし!

 今後のスケジュールを頭に浮かべてサッと顔色が青くなった俺を見た椎名准教授がにっこりと笑った。


「そうは言ってもきのも忙しいでしょ?だから都合が良い時でいいよ〜。補習をちゃんと受けたらレポート提出は要らないし、テストも免除する」

「うぇ?それ本当ですか?」

「うんうん。本当。だって、レポートもテストも講義を聴いて理解したか、きちんと知識が身に付いたか、学んだことを自分のモノにして他人にちゃんと伝えられる能力が身についたか、そゆのの確認でしょ?」


 これはオイシイ話かも……。

 補習で単位が貰える。

 真面目に受けさえすれば面倒なレポートもテストも無い。


 何より椎名准教授に会える。


───は!?

 何考えてんだ俺の頭は!彼は男性ですってば!しかも、あの高遠の従兄。河野さんと初町さんの同僚。

 どこをどう切り取ってみたって無し無しの無し案件でしょうが。しかも、しかもですよ?年齢差!年齢差がエグい。

 違う!

 年齢差とか考えんな俺の頭。

 そんなの恋愛対象前を前提としてんじゃねーか。


「決まりでいい?」

「はい」


 ……もう男でも良いや。

 こてんっと首を傾げた椎名准教授に頷いて答える。


 これだけ好みドストライクの見た目でらただそこに居るだけで目の保養になる存在をこちらの都合良いタイミングで眺められる。

 プラス、真面目に通えば単位が貰えるだなんて好条件を目の前にぶら下げられて引き下がる理由なんて、そもそもあるはずもないんですよ。

 それに、変な気の迷いならすぐに晴れるでしょう。








【椎名eyes】





 大学の教員って面倒。

 他の仕事をしたことないから何かと比べようにもよくわからないけど、兎に角こなさなきゃならないことが多くって。

 好きな事を仕事にするのって俺には向いてなかったのかもって忙しさに追い立てられるたびに思う。

 あーもーこんなはずじゃなかったのに!自分のペースでやりたいことをやりたい時にやりたいようにやりたい!って。

 そんなの出来る人の方が圧倒的に少数ろうけど。


 さっきまでゼミ生の質問とかを受けつつ資料をまとめたり明日の講義の準備をしたり、やらなくちゃいけない事とやった方がいい事の総攻撃を受けてた。

 そうこうしてる内に後でいいやって後回しにした事が溜まっていって泣きを見る羽目になったりする。


「ん〜……」


 背伸びを一つ。

 すっかり暗くなった窓にブラインドを下ろしてついさっきまで向かってたパソコンの電源をOFF。軽くデスクの周りを片してから帰り支度を始めたら、こうちゃんがカラリと音を立ててドアから顔を出した。

 今日はここまで!って時間を決めないといつまでもズルズルやることになっちゃうから帰ると決めた時間に帰る。

 日付またぐとか締切の前だけで十分。


「椎名ちゃんそろそろメシ行けるかぁ?」

「あーい!今準備してるからちょっと待って」


 こうちゃんはいつも通り元気にだるそう。

 ふぁああっと気の抜けたあくびをしてからゆっくりと頷いてくれた。

 俺は急いで帰りの支度をして、肩掛け鞄を突っ掛けて研究室を飛び出した。

 おっとと、ドアの施錠は忘れずに。また警備の人に叱られちゃう。


「昨日までは恭くんと二人でご飯食べてたの?」

「……椎名ちゃんが繁忙期だとアイツとサシ飯になるから椎名ちゃんが居てくれるの本当に嬉しいわ」

「そうなの?」


 眉間にキュッと皺を寄せてなんだか疲れたように呟かれて首を捻る。

 恭くんとこうちゃんは学生時代からニコイチみたいに一緒に居るし、それこそ空気感が以心伝心レベルなのに二人きりでご飯は嫌なのかなぁ。

 黙って手を出したら醤油手渡されるみたいなやりとりしょっちゅう見るんだけど。


 今日は昼に荷物を研究室に持ってきてたから職員用のロッカーに寄らない。こうちゃんはもう私服だから先にロッカーで支度を済ませてる。二人してタイムカードを押してから向かったのはいつも待ち合わせしてるイチョウの下の青いベンチ。

 いつも通りに足を組んで本を読んでた恭くんが、俺達に気がついて本をゆったりと閉じて鞄にしまい込むと穏やかに微笑んでから軽く片手を上げてこっちに合図を送る。

 全く慌てる事無く俺達が近づくのを待ってから、視線でささっと忘れ物とか無いか確認して優美な仕草で立ち上がる。


「お疲れ様。どう?区切りはついた?」

「まぁまぁかなぁ。恭くんの方は?」

「うーん。学生の質問攻めにあったから少し予定より遅れてしまっている、ってところ。取り戻せないほどでもないけれど」

「あー恭くん人気あるからしゃーないね」


 学生からの質問に答えるのも俺達のお仕事だし。でもそれで時間をとられると他の業務や研究に影響が出ちゃうんだけどそれはそれ。仕方がないんだよねぇ。

 落とし所が難しいけど物を教える立場上どうしてもそこは疎かに出来ないし。

 俺と恭くんのやりとりをちゃんと聞いてはいるんだろうけど、こうちゃんは相変わらず一切会話に加わらずにほゎほゎと歩いてる。多分、夕飯の事で頭がいっぱいなんだと思うんだよねぇ。今日の夕飯のメニューを考えてる時はいつも以上に反応がないもん。

 そんなこうちゃんも工学部では大人気。


「上と上手くいかなきゃさ、教授までの道のりは遠いよね」


 恭くんが苦笑いを浮かべて肩をすくめる。

 俺も笑っておく。


 俺を准教授にしてくれたのは国立くにたち教授って人。

 前の教授が心理学方面でもっと掘り下げていきたいことがあるからって当時准教授になったばかりだった彼に教授の座を無理矢理押し付けて、自身はポーンと外国へ飛び出して行っちゃった。

 残された側はそれはそれは大変だった。

 大した引き継ぎもなく思い付きでカッ飛んで行かれてしまった俺達は教授だの准教授だのと言ってられなくって、役職や年齢こそ差があったけどいがみ合うような暇もなく。様々な場面で助け合いながら、色んなことに折り合いをつけながら、なんとかここまでやってきた。

 正直に言っちゃうと、なんであの人は俺を准教授になんてしてくれちゃったの!って友達を相手になげき散らしたこともある。だって、そん時はすっごく若かったんだよ、俺。若くて准教授なんて肩書きがくっついたらやりにくくて仕方が無いったら。


 おつかれさまのビールを飲みながらこうちゃんがぽそっと呟いた。

 やっぱりさっきの話をちゃんと聞いていたみたい。


「俺もどうせなら国立教授みたいな上司が良かった」

「河野君……」

「だってよ。頭が固いジジイの相手は疲れんだって。国立教授のが若い分まだマシだべ」


 大学の駐車場と最寄り駅の真ん中あたりにある定食屋で二人の愚痴を聞きながら夕食を食べるのが俺の日課。


 国立教授に対しては俺はそこまでの不満もないし、うわぁ感じ悪い言い方するなぁっていうのは最初のドタバタである程度慣れたし、それでも権力を笠に着て横暴なことをするようなタイプじゃなかったから。

 感じ悪いなぁって思ったとしてもその時だけの感情で後に引き摺ることもなくやってきたと思う。

 俺がぼーっとしてっから嫌味とか言われてたとしても気が付かないだけかもしんねぇけど、波風が立ってないならそれはそれでいい。

 境遇や環境なんて受け取る側次第でどうとでも変わるし、俺はたまたま上手くやれてるだけ。

 普通に横暴な上司を持つ二人には悪いなぁと思いながらも、二人よりも大分マシな環境に内心感謝してる。



 本日の愚痴はお腹が満たされたら自然に解消されるみたいで、空の食器に手を合わせて夕食はおひらきになる。

 俺は車通勤だからアルコールが飲めない。

 駅へ向かう二人と別れてから家に向かう途中のコンビニでビールとツマミを仕入れて、家のチャイムを押して玄関の鍵を開ける。

 家の窓に灯りが付いてたからもう帰ってるはず。


「ただいまぁ〜」

「お〜、お帰りちゃん」


 エントランスでピンポンを押したら明るい声がして、エントランスのオートロックのドアを開けてくれたのは大学で同期だったひろ。

 三峯みつみね広嵩ひろたか。留年してるらしくて俺よりちょっとお兄さん。

 出張でビジネスホテルに一ヶ月も泊まることになったってボヤいてたから、それなら俺んに来ちゃいなよって今晩から泊めることになった。

 ホテル泊になっちゃったのはマンスリーマンションが運悪く抑えられなかったかららしいけど、夜と土日しか居ないのに一ヶ月もホテル借りたら勿体ないじゃん。出張費で落ちるかもしれないけど一ヶ月もホテルじゃ落ち着かないだろうし、だったら俺ん家は部屋も余ってるし今更気を遣う間柄でもないし。丁度いいかなって。


「はい、おみやげ」

「おー!サンキュなぁ」


 毎日宅飲みするわけじゃないけど、飲みたい日は車で行かないか帰ってからこうして晩酌する。


 今日から暫くはひろがいるからコンビニで買ってきたツマミをつつきながらテレビから流れるバラエティを眺めつつ二人でくだらない話をする。

 で、本日の話題はもっぱらきの。

 俺がしんの口振りを真似てみせたらひろはぶはっ!て吹き出して笑った。


「なんなん?好きになりそな相手なん?」

「ん〜……それがわっかんないんだよねぇ」

「わからんて、お前なぁ自分のことやろ」

「仕方ないじゃん。きのは男だし」

「男か!お前相変わらず説明下手くそやな。俺今まで女や思って話聞いてたわ」


 ひろはアルコールが入ると西のなまりがひょこっと顔を出す。

 カラッとした性格で面倒見も良いから兄ちゃんがいたらこんな感じかなって思う。

 俺は初孫長男で年上の身内がいないし、余計にそう思うのかも。

 大学に残った俺とは違ってひろはちゃんとした身なりにしっかりとした格好をしてる。間違えても朝の俺みたいなボロボロな姿を晒したりはしない。

 それでも男の子を勧められましたとかいくら仲が良くたってなんかこう……変な顔されそうな話題にもかかわらず、ひろはカラカラと笑いながらツマミの軟骨揚げを口に放り込むとビールと一緒に豪快に飲み込んだ。


しんかぁ。あいつもたまにしょうもないからなぁ」

「しょうもない?」

「違うか?」

「ん〜……違わない、かな?」

「違わんと思うけどな」


 確かにしんて昔から突拍子もないことを思い付いてしかも実行するっていう傍迷惑系はためいわくけいの行動力を発揮する事がある。

 ひろはまだ子供だったしんを知ってるから兄ちゃんていうより親みたいな感覚で笑ってるんだと思う。


 しんが子供の頃の話。

 しんの両親はとてもとても忙しかった。

 そんなだから俺の母親と俺が主にしんとしんのお姉ちゃんの面倒見てて。母親の都合がつかない時には俺が大学に連れて行ってたし、休みの日に遊ぶ時とかもひろともう一人の仲良しさんがまめにしんの相手をしてくれた。

 ついでに言うと、俺達三人の講義が重なった時にはこうちゃんと恭くんで空き時間がある方がしんを預かってくれてたんだよ。

 十歳以上年下のしんに対してひろともう一人の仲良しさんはとっても優しくしてくれたと思う。俺が気が付かないところまで細かに目をやってくれてたし、俺が苦手な悪い事や危ない事をした時に叱ってさえしてくれた。

 そーいえばあの時さーとか、そんな話をしつつ二人でビールを飲みながらケラケラ笑って夜が更けた。




「はぁ~?三峯来てんの?いつから?俺聞いてねーけど!」


 あれ?話してなかったっけ?

 大学の俺の部屋でしんが吠えた。

 今でも仲が良いんだよね。

 夜しか時間がとれないからひろは敢えて伝えていなかったのかもしんないけど連絡を貰えてなかったってしんが不貞腐れる。

 仲が良いっていえば、しんときのも仲が良い。

 今日も仲良く二人でやって来て、しんは別に大丈夫なのにきのの補習を一緒に聞いてる。


「うん。俺の締切明けた日から」

「今日行くから!三峯に言っといて」

「お〜。わかった……」


 すげぇ勢いでずいっと俺に顔を近づけた。ドアップの怒れる美形は迫力マシマシだからグイッとおでこを押して身を離した。

 俺達のやりとりをきのが何だ何だって顔で見つめてる。

 そりゃそうか。

 知らない人の話題だもんね。








【来宮eyes】





 なんというか……まぁ、面白くないんですよね。

 目の前で楽しげに知らない人間の話をされることが愉快ではないのは当たり前として。

 そんな事より面白くないのは、その【ミツミネ】なる人物が椎名准教授の家に泊まっているということが、ですかね。

 なんでそこが引っ掛かるのかは気が付かないフリをすると決め込んで、二人にバレない内に眉間に寄った皺をそっと指で撫で付けて伸ばした。


「あ!そーだ!きのも俺ん家来る?」


 なんでそうなりました?

 とても楽しそうに声をかけられて口元がひくっと引き攣った。鏡を見なくたって感覚で分かりますとも。

 声に反応して顔を上げれば椎名准教授は案の定きらっきらした瞳で俺を見つめていて、思わず小さく息を吐いた。


「……遠慮させていただきます。夜はバイトがあるので」

「あぁん?拗ねんなよ。今日バイト休みの日だろ」

「は?拗ねてる?何故?」


 横槍を入れてきた高遠を睨み付けてやって、手元のプリントをまくった。

 この態度が何より如実に拗ねていることを表してしまっていることに気がついて、小さく舌を打ってしまう。

 どうせ椎名准教授は俺にそこまでの理解がある訳でもなし、高遠に気付かれたとしてもイジられることに変わりないのでそれはもう別に構わない。

 で、なんで拗ねているのかが問題ですが。

 そこに言及してしまうと自分としてはあまり都合が宜しくない気がヒシヒシとしてまいりますので、一切考えないこととします。

 高遠が指摘してきたバイトについては『急な欠員が出ました。今夜のシフトに入れる人はいますか?』という連絡を受けているので嘘ではないんですよ。嘘では。

 ただ、今月分の収入目標には達しているしそこまで根を詰めることもないので誰かが手を挙げていれば断るつもりだったっていうだけで。


「え?きの毎日バイトしてんの?」


 首を傾げて俺を見つめる椎名准教授の仕草が小動物みたいに愛らしくて、さっきまで唇を尖らせて拗ねていたはずの俺の唇はゆるゆると弧を描く。


 親の教育方針で学費は出来る限り自分で払ってるんですよ。実家ですから家賃や水道光熱費がかからないのは良いですけど、大学の学費って高い!だから留年なんて絶対に御免だし余計な出費をしてたまるかの精神で飲み会などのお付き合いはすべからくお断りしている次第で。

 理由わけを話せば誘ってきたかたのほとんどは理解を示してくれますし、女の子とはそりゃあ目に見えて縁遠くなってしまいましたが、お金が無ければ付き合わないような人と縁が無いのは考えようによってはいいことだとすら思うんですよね。

 ただ拘束時間と実入りの兼ね合いから選ぶ職が夜間のものにどうしてもなってしまうので、バイトの話はあんまり大っぴらにしていないんですよ。

 だって、バイトで本業がおろそかになるのでは本末転倒でしょう?

 我が家は裕福なほうでもないので。

 親の言う学費を自分で払えって言うのも理解しているし姉は実際にそうして大学を卒業しておりますので俺が出来ないっていうのはちょっと嫌なんですよね。


「椎名は来宮のバイトに興味あんの?」

「えー気になるじゃん。俺、きのと仲良くなったつもりだったのにそーいうの全然知らない」

「減るもんでもないんだし教えてやれば?」


 面白いオモチャを見つけた子供みたいな顔でそう言われると、さっきまでは別にどうとも思っていなかったものも急に教えたくないような捻くれた気持ちになる。

 仲良くなったつもりっていうのも、ねぇ?

 そもそも俺のバイトのことを知ってるのは飲みに誘ってきたヤツら以外では河野さんと高遠くらいですし。

 飲みに誘ってきたヤツらは俺とどうしても飲みたい訳でもないから直ぐに忘れるか呼んでも来ないヤツ認定されるから幹事をよく押し付けられてる奴に刷り込んでおけばいい。

 バイトで学費稼ぎながら頑張ってる……とか、うっかり同情でもされたら次から口をききたくなくなるじゃないですか。

 俺にはこれが当たり前のことなのに可哀想がられるなんて真っ平御免ですよ。


 ワタクシは天性の天邪鬼あまのじゃくなんですよね。

 こうやって聞かれたら答える気がなくなる。ほら、さっきまで俺は不機嫌だったわけじゃないですか。

 そんなほいほい答えてたまるものですか……。


「だめ?」

「いいえ。コンビニ店員とバーマンです」


 俺の口……。

 コテンッと倒された首と期待に満ちた視線にやられた口のやつが脳みそ裏切ってまんまと答えやがった。

 口から出た言葉に自分で驚いてつい喉を抑えそうになったのを拳を握り込んでなんとかこらえた。

 本当に見た目だけは好みなんですよ、このヒト。

 体が脳を裏切ってしまうくらいに!


「へ?ばーま?」

「あ……すみません。バーテンダーです。とは言っても成人なりたてほやほやなんで調理とか裏方メインですけど」

「裏方って?」

「飲み会とか参加していないのでほとんど飲んだ経験がないのでお酒の味がまだよくわからないんですよ。開店前にカクテル作らせてくれるからそれなりに覚えられるにしても時間が、ねぇ?だから作れるカクテルも少ないですし。そうしたら自然と簡単なツマミ作ったりとか掃除とか備品の補充とか、誰かがやらないと回らないような仕事がメインになってくるんですよ」


 バイト先の店は欧州寄りの店だからかマスターがバーテンて響きが嫌なんだそうで。こちらはバー自体に馴染みがないし時給が良ければ文句はないって立場で。雇ってくれたマスターがそう言うならって受け入れちゃいましたけど確かに伝わらないことが多い。

 それに一般的にバーの仕事と言われて想像するのはカクテル作りでしょうし。

 それもやらせてはもらえてはいますがそこまでの腕じゃないというか……。器用だからなんとなく作れてはいるけれど客からお金を取って出すクオリティかって言ったら際どいレベルってところですね。


 明らかに興味を持ったらしい椎名准教授が目を輝かせたまま身を乗り出してくる。

 仕草が愛らしいのでついつい話に乗ってしまって、高遠が肘をついているせいで歪んだ頬にニヤニヤとした笑みを浮かべるのを無視して話に付き合ってしまう。


「タキシード着てるやつでしょ?」

「た……?ああ。白いシャツにタイですね。ウチはジレも着用していますが、そうですよ」


 タキシードとは、また。それは着たくないな。俺は姿勢もあまり良くないし肩幅も胸板も平均的なのでそういった格好には自信が無い。どちらかといったらそういう体格がモノをいう服装は高遠の管轄かんかつでしょう。

 姿勢に関しては努力でなんとかなる範囲ですが肩幅やら胸板はどうしようもない。

 昔っから筋肉の付きにくい体質なもので。


「見てみたい!」


 いやいやいや?

 そんな期待に満ちた瞳で見つめられても。実際に見たらそんな凄いもんでもありませんし、ねえ?それになんか見られると思うと恥ずかしい気が致しますし?

 いかがわしい格好ではないのに背中のあたりがムズムズする。

 背中を反らせて背中の違和感をやり過ごす。


「へー。椎名が食いつくの珍しいじゃん」

「だって知り合いに居ねぇじゃん。バーとか行ったのいつぶりだろ?記憶にないくらい行ってねーもん」

「そりゃ俺だって来宮くらいしかバーでバイトしてる奴なんかいないけど」

「でしょ。見たいじゃん。今度行っても良い?」


 そんなキラッキラした眼差しで見つめられて嫌だなんて言える人が居るなら会ってみたいですよ。

 身を乗り出して当然OKを貰えるものだと疑わずに俺を見つめてくる。

 その期待に満ちた視線に耐え切れなくなって小さい声で渋々


「店は高遠に案内してもらって下さい。シフトも高遠なら大体把握していますから」


 って、言うしかないじゃないですか。

 このヒト顔面凶器なんですよ、俺にとっては。

 さっきとは打って変わった何とも言えない表情で高遠が俺を見ているのを必死で無視して、視線を手元に落とす。


「そんな事より続きを」

「あ。そっかそっか。話が逸れまくってごめんね」


 俺が椎名准教授の研究室に通うのはあくまで補習の為に他ならない。

 親しい友達じゃないんだからあんまり距離を詰めたら良くないに決まってる。

 ……こちらの気持ち的にも。


 会う度にどんどん変な気持ちを感じる頻度がが増えていく気がする。

 少しずつ、本当に少しずつ。

 広いプールに一滴、また一滴と蛇口からほんの僅かに滴り落ちる水滴のように。

 自分の中の見えない何かに正体不明の感情がゆっくり、ゆっくりと自覚しない内にかさを増していくていくような……。


 再開された補習は解り易くて丁寧、その一言に尽きる。

 心理学なんてとっつきにくくて大変だろうなぁって思ってました。それに気がついた椎名准教授はこちらが分からないということを分かった上で初心者に分かるように、一からとことん説明してくれたおかげかもしれません。

 高確率で高遠が同席しているとはいえ、完全なるマンツーマンですからね。

 厚意とはいえ本来ならこんなことはありえない状態なわけですし。


 結局、主に顔につられた俺は椎名准教授の都合のつかない日時以外の全て、ほぼ毎日を補習をして過ごすこととなった。

 折角時間を割いてもらって教えていただいているわけですから、四六時中『あーこのヒト本当に顔が良いなぁ』とか『声も絶妙に好きなところを突いてきてるんですよねぇ』とかよこしまなことばかりを考えている訳にもいかず、それなりに本気で取り組むことになりまして。

 その結果、夏季休校迄の短期間で高遠達先発組の知識に追い付いてしまうこととなった。





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