第20話 

あっという間にら10ヶ月が過ぎた。


激しい陣痛の波に飲まれながら、私はただひたすらに息を吐いた。


「ユリア、がんばって――あと少しだよ」

ルーカスがずっと付き添いながら手を握ってくれていた。

その手は少し汗ばんでいて、けれど私の不安を優しく押さえてくれるようだった。


「うっ……ああああ!」


声にならない悲鳴とともに、身体の底から何かが引きはがされるような感覚が走る。長い間叫び続けたのはもうそんな気力を残っていないまま脱力した。とそのとき


「……生まれましたよ、元気な女の子です!」


医師の声とともに、小さな体から大きな産声が響いた。


(生まれたんだ……私と、ルーカスの……)


全身の力が抜けて、意識が遠のきそうになったけれど、ルーカスの手がぎゅっと私の手を包み込んでいた。


「ユリア、よく頑張ったね。」

と愛おしそうに私を見て、頭を撫でながら褒めてくれた

私はそんなルーカスの顔を見ながら微笑んで頷いた。


そのあとルーカスの腕の中には、まだ赤くて、でもとても愛おしい命が眠っていた。


「可愛い……私たちの子、だね」


「うん、君に似てる。とても愛らしい」


そう言って、ルーカスは赤ん坊の額にそっと唇を触れさせた。


その姿に、私は涙が止まらなかった。

この人を信じてよかった。そう思った。


……でも。


そのすぐあと、彼が私達の子供を撫でながら、誰にも聞こえないように小さく呟いた声が――妙に耳に残った。


「ふふ……これで、もう逃げられないね」


「え?」


「ん? なんでもないよ。ユリアは少し休んで。あとは僕が全部、面倒を見るから」


優しい笑みを浮かべたまま、ルーカスはそっと私の額にキスを落とした。

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