第6話 

放課後になると、俺たちはいつものように集まって情報を共有する。

 けれど——ここ一週間、ルーカスの様子がどうもおかしい。


 十年以上付き合いのある仲間だ。少しの変化でも、見逃すはずがない。

 あれほどユリアに固執して、狂ったように「探し出せ」「潰せ」と言っていた男が、最近ではやけに冷静だ。


 普通ならあの日の話の流れで「ユリアがいないならランル国、もういらないよね?潰そっか」とでも言い出すだろう。

 それが、妙に理性的で、慎重で、まるで“確信”を持ってるようだった。


 ……まあ、俺らがルーカスに逆らえるわけもないんだけど。


 ——ルーカスの、ユリアに対する執着は昔から異常だった。


 四六時中、ユリアのそばにいて、彼女に近づこうとする人間はすべて排除対象。しかも本人はそれを悪びれもせず当然のようにやってのける。

 ……とはいえ、俺たちもユリアに近づこうとする“ろくでもない奴ら”をそれなりに片づけてきたから、あんまり大きなことは言えない。


 けど今のルーカスには、何かが違う。妙な余裕がある。

 まるで、ユリアがどこにいるか、もう知っているみたいな顔をしている——


◇◆◇


 そんなルーカスが“最強”であることは、この世界の誰もが知っている。


 この大陸には、四つの国がある。それぞれが独自の文化と力を持ち、互いに緊張と共存の狭間で成り立っている。


 まず、ユリアが住んでいたランル国。

 自然に恵まれ、住人たちは魔法というより“おまじない”のような形で、植物を操る力を持っている。大地と対話し、緑を育てるその力は、人々の穏やかな暮らしと深く結びついている。


 次に、俺——ガイアンの出身国であるアルファンド国。

 鉱山資源に富み、古来より武器と鍛冶の技術が発展してきた。

 この国の誇りは、どの国にも引けを取らない“最強の騎士団”だ。実戦を前提に鍛え上げられた騎士たちは、国境を守る最前線でもある。


 そして、ルカとユーリが生まれ育ったフラジーナ国。

 ここは、数少ない治癒魔法の継承地である。

 治癒魔法士は人口の1割にも満たず、世界的にも極めて希少な存在だ。そのため、彼らは戦地でも災害地でも重宝され、各国へ派遣されることも多い。

 ちなみにユーリはその中でもかなりの実力者で、ある意味ルーカスに次ぐ“ぶっ壊れ枠”だ。


 最後に——ルーカスの祖国、アルベルト国。

 ここは全ての魔法の源とされる場所であり、攻撃・補助・治癒、あらゆる系統の魔法使いたちが集う。

 伝承によれば、大昔、“全能の大魔法使い”が四国を創り出したと言われており、その魔法使いこそがアルベルト国の初代王——つまり、ルーカスの先祖だ。


 そして今、その血を最も色濃く受け継いでいるのがルーカス本人であり、彼は“全能魔法使い”の現世の継承者とされている。


 その力は、並の魔法士が束になっても敵わない。

 さらにフラジーナ国の聖女様が、かつて神より「ルーカスが欠ければ四国は滅びる」との神託を受けている。


 だからこそ——彼には逆らえない。逆らう理由も、意味も、存在しない。


 けれど俺たちは知っている。


 “最強”の仮面の下に、ユリアという少女に向けた激しい執着と狂気が、静かに渦巻いていることを。

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