『俺達のグレートなキャンプ10 瓦せんべいで瓦割』
海山純平
第10話 瓦せんべいで瓦割
俺達のグレートなキャンプ10 瓦せんべいで瓦割
「よしっ!今回も最高に『グレートなキャンプ』になるぜぇ!」
紺碧の空が広がる秋の週末、石川は両腕を大きく広げて、富士山を一望できる湖畔のキャンプ場に降り立った。彼の顔には、何か面白いことを企んでいる時特有の笑みが浮かんでいた。
「また始まった…」
車から荷物を降ろしながら富山はため息をついた。長年の付き合いで、石川の「あの表情」が何を意味するか、彼女は痛いほど理解していた。
「うわー!マジで景色ヤバくない?」
キャンプ初心者の千葉は、湖面に映る富士山の姿に感動していた。石川に誘われてキャンプを始めてからまだ間もないが、毎回新しい発見があり、彼は純粋に楽しんでいた。
「な?最高のロケーションだろ?」石川は誇らしげに胸を張った。「でもな、景色だけじゃない。今回の『奇抜でグレートなキャンプ』は特別だぜ!」
富山は眉をひそめた。「また何か変なこと考えてるでしょ?早く言いなさいよ」
石川はニヤリと笑うと、大きなリュックからダンボール箱を取り出した。中からは、大量の瓦せんべいの袋が次々と出てきた。
「今回のメインイベントは…」石川はドラムロールを真似しながら言った。「瓦せんべいで瓦割り!」
「は?」富山は目を丸くした。
「瓦せんべいで何を割るの?」千葉は箱を覗き込んだ。
「瓦せんべいを!」石川は得意げに答えた。「瓦割りって知ってるだろ?空手とかでやる、あれ!瓦を積み重ねて、『えいっ』って割るやつ!」
石川は空手チョップの真似をした。
「それを瓦せんべいでやるんだよ。瓦せんべいを数枚重ねて、手刀で割る!せんべいの名前が『瓦』せんべいなんだから、これはもう運命的な組み合わせだろ?」
千葉は目を輝かせた。「めっちゃ面白そう!」
一方、富山は呆れた表情を浮かべながらも、「今回はまだマシかな…前回の『川の中でホットケーキ作り』よりは…」とつぶやいた。
テント設営を終えた三人は、湖畔の開けた場所に集まった。石川は大きなレジャーシートを広げ、準備を始めた。
「まずはルール説明だ!」石川は瓦せんべいを手に取った。「瓦せんべいを3枚、5枚、10枚と重ねていく。それを空手家のように『えいっ』と手刀で割る。何枚まで一度に割れるかを競うんだ!」
千葉は興味津々で聞いていた。「でも、ただ割るだけじゃつまらなくない?」
「その通り!」石川は人差し指を立てた。「だから、挑戦者はポーズと掛け声を工夫すること!そして、割れた後のせんべいの形も審査対象!きれいに真っ二つに割れたら高得点だ」
富山は腕を組んだ。「審査員は誰がやるの?」
「それは…」石川は言いかけて、「あ!」と声を上げた。視線の先には、興味津々で彼らを見ている隣のキャンプサイトの家族がいた。
「あの、すみません!」石川は手を振って声をかけた。「良かったら審査員やってもらえませんか?面白いゲームをやるんです!」
そうして、隣のサイトの中年夫婦が審査員に、小学生の息子さんも参加者として加わることになった。
「じゃあ、最初は俺からやるぜ!」
石川は3枚重ねた瓦せんべいの前に立った。深く息を吸い込み、両手を前に突き出してから、ゆっくりと構えを取る。
「集中…集中…」
周りが静かになる中、石川は突如叫んだ。
「瓦!割り!チョーップ!」
鋭い手刀が瓦せんべいを貫き、見事に3枚同時に真っ二つに割れた。
「おおっ!」見ていた全員から歓声が上がった。
審査員の夫婦は「9点」と「8点」のカードを上げた。「掛け声が良かった!」と褒められ、石川は得意げに胸を張った。
次は千葉の番だ。彼は5枚重ねた瓦せんべいに挑戦することにした。
「えーと…」千葉は少し緊張した様子で前に立つ。彼は何かを思いついたように、急に姿勢を低くした。
「千葉流!忍者割り!」
彼は忍者のような素早い動きで手刀を振り下ろした。
パリッ!
見事に5枚全てが割れた。しかも、ほぼ均等に二つに分かれている。
「すげえ!」石川は驚いた。
審査員からは「10点」と「9点」が出た。「動きが美しかった!」
富山は腕を組んで見ていたが、石川に「ほら、あなたも」と促され、渋々前に出た。
「もう、しょうがないわね…」
彼女は3枚の瓦せんべいを前に、静かに目を閉じた。そして、突然、華麗な回転をしながら手刀を振り下ろした。
パリン!
瓦せんべいは見事に割れ、しかも綺麗な月形になった。
「わぁ!芸術的!」審査員の奥さんが感嘆の声を上げた。
「11点!」「10点満点なのに!」と笑いながら、高得点が出た。
そうしているうちに、周りのキャンプ場からも人が集まってきた。
「なにやってるんですか?」
「面白そうですね!」
石川は喜んで説明した。「瓦せんべいで瓦割りゲームです!誰でも参加できますよ!」
すぐに、様々な年齢のキャンパーたちが挑戦者として名乗り出た。中には、本物の空手家もいた。
「私、三段持ってます」と言う中年男性は、10枚重ねた瓦せんべいに挑戦。見事に一刀両断したときには、場が大いに沸いた。
大学生グループからは、アクロバティックな技を披露する若者も。跳び上がりながらの回し蹴りで瓦せんべいを割ると、拍手喝采が起きた。
小さな子供たちも参加した。石川は彼らのために特別ルールを作り、1枚や2枚のせんべいでも大きな成功として祝福した。
「次は団体戦だ!」
石川は更に盛り上げようと、チーム対抗戦を提案した。瓦せんべいを15枚も重ねた高い塔に、順番に3人で攻撃して崩すゲームだ。
「うちらの『グレートキャンプ団』と対戦してくれるチーム、募集!」
すぐに、近くでバーベキューをしていた4人家族が「挑戦します!」と名乗り出た。
「パパ、絶対負けないでね!」小さな女の子が父親を応援する声が可愛らしい。
対戦が始まり、石川チームは息の合った攻撃で瓦せんべいの塔を見事に崩した。対する家族チームも父親の力強いチョップを中心に健闘し、接戦となった。
審査員たちが「技の美しさ」「チームワーク」「掛け声の統一感」などを採点し、最終的には引き分けとなった。
「素晴らしい戦いでした!」石川は対戦相手の父親と握手を交わした。
日が傾き始める頃、キャンプ場の管理人さんがやってきた。彼は最初、騒ぎを注意しに来たのかと石川たちは緊張したが、管理人の顔には笑みが浮かんでいた。
「面白そうなことやってますね」管理人は言った。「実は私も若い頃、空手をやっていたんですよ」
石川の目が輝いた。「じゃあ、特別ゲストとして一発お願いします!」
管理人は少し照れながらも、挑戦を受けた。彼は20枚重ねた瓦せんべいの前に立ち、静かに気合を入れる。
「せーのっ…はっ!」
管理人の手刀は稲妻のように瓦せんべいを貫き、見事に全てを一刀両断した。
「すげぇ!」
場が沸いた。管理人は照れた様子で頭をかきながら、「若い頃は県大会で優勝したこともあるんですよ」と明かした。
「今日は皆さんのおかげで、楽しい思い出ができました」管理人は微笑んだ。「実は来週、この近くで地元の祭りがあるんです。そこで『瓦せんべい割り大会』をやってみませんか?」
石川は大喜びで「もちろん!」と答えた。
夕暮れ時、瓦せんべい割り大会は最高潮に達していた。最後は、割れた瓦せんべいをみんなで分け合って食べることに。
「意外と美味しいよね、瓦せんべい」千葉はパリパリと音を立てながら食べた。
富山は微笑んで言った。「石川のバカげたアイデアが、今日はたくさんの人を笑顔にしたわね」
石川は満足そうにうなずいた。「これぞ『奇抜でグレートなキャンプ』の真髄だぜ!」
湖畔では各サイトに火が灯り始め、皆が今日の出来事を語り合う声が聞こえてきた。明日は祭りの準備を手伝うことになり、さらに交流が深まりそうだ。
夜、焚き火を囲みながら三人は星空を見上げていた。
「次は何をやるの?」千葉が尋ねた。
石川は星空に向かって手を伸ばした。「次は…『星空プラネタリウムキャンプ』かな。天体望遠鏡と白いシートを使って…」
富山は軽くため息をつきながらも、楽しそうに笑った。「また始まった…」
千葉は目を輝かせながら言った。「どんなキャンプも、一緒にやれば楽しくなる!」
三人の笑い声が、夜の静けさの中に優しく響いた。
翌朝、彼らは管理人から聞いた地元の祭りの準備を手伝うことになった。キャンプ場から車で10分ほどの山間の集落では、秋祭りの準備が急ピッチで進められていた。
「石川さん、昨日は本当にありがとうございました」管理人が彼らを出迎えた。「皆さんの『瓦せんべい割り』の話が村中に広まって、今日は特別イベントとして取り入れることになったんですよ」
石川は誇らしげに胸を張った。「俺たちの『グレートなキャンプ』が地域活性化に貢献できるなんて光栄です!」
祭りの準備を手伝いながら、彼らは地元の人々と交流を深めた。富山は料理上手な村の女性たちと一緒に祭りの料理を作り、千葉は子供たちと一緒に飾り付けを楽しんだ。
そして祭り当日、『第一回 瓦せんべい割り選手権』が開催された。参加者は昨日のキャンプ場の人々だけでなく、村の住民や近隣から集まった観光客まで広がっていた。
「皆さん、ご参加ありがとうございます!」石川はマイクを持って話した。「このユニークな競技は、私たちの『奇抜でグレートなキャンプ』から生まれました。今日は思いっきり楽しみましょう!」
会場は大いに盛り上がり、予選、決勝と進むにつれて技も派手になっていった。最後は管理人の空手の先生が特別演武を披露し、30枚重ねの瓦せんべいを見事に割って大喝采を浴びた。
「来年も絶対やりましょう!」と村長が宣言し、新たな恒例行事が誕生した瞬間だった。
キャンプ場に戻った彼らは、満足感に包まれながら荷物をまとめていた。
「まさか村の祭りまで盛り上げることになるとは思わなかったよ」千葉は笑いながら言った。
富山は微笑んだ。「石川のアイデア、今回は大成功だったわね」
石川は空を見上げた。「俺たちの『グレートなキャンプ』は、いつも予想外の展開になる。それが醍醐味だぜ!」
車に乗り込み、キャンプ場を離れようとした時、管理人が走ってきた。
「これ、お土産です!」
彼が差し出したのは、地元の窯元で特別に作られた「瓦せんべい割り記念」と書かれた陶器の小皿だった。
「来年もぜひ来てくださいね。その頃には『瓦せんべい割り道場』も完成してるかもしれませんよ」管理人は笑顔で言った。
三人は車の窓から手を振り、次の冒険に向けて走り出した。
「次はどこに行く?」千葉が尋ねた。
石川はナビを操作しながら言った。「次は山梨のキャンプ場だ。そこでは『ぶどう踏み競争キャンプ』をやるぜ!」
富山は呆れたように頭を振ったが、笑みを隠せなかった。「また始まった…」
彼らの「奇抜でグレートなキャンプ」の冒険は、これからも続いていく…。
(おわり)
『俺達のグレートなキャンプ10 瓦せんべいで瓦割』 海山純平 @umiyama117
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます