第31話 勝てるものなら勝ってみなさい!

 ──学院中央塔にある生徒会執行部室。


 リミュエールは制服姿のまま、重厚な扉を前に拳を握りしめていた。脇にはレオナート、後ろには新入部員の三人が緊張した面持ちで並んでいる。


「ふぅ……さすがに緊張するな」


 レオナートが小さくつぶやく。

 けれどリミュエールは、目を輝かせながらやっと笑った。


「大丈夫ですよ、先輩。部室を勝ち取るための第一歩です。ここで負けるわけにはいかない!」


 深呼吸ののち、ドアをノックすると、「どうぞ」という落ち着いた声が返ってくる。


 ゆっくりと扉を押し開けると、光の差す窓辺に机を囲む生徒会執行部の面々が並んでいた。


 生徒会長席に座るのは、深い闇を思わせる漆黒の髪と、吸い込まれるような深紫の瞳を持つ男子生徒。首元には闇属性を象徴するような漆黒のネクタイが、静かに光を受けて揺れている。


 入学式のとき、新入生を迎える挨拶をしていた――確か、クローディア=ローゼンベルグ伯爵令息だ。


 切れ長の瞳は冷静沈着で、その奥には深い夜を思わせる光がひそやかに灯っている。

 整った顔立ちは理知的で凛々しく、銀縁の眼鏡が知性を際立たせる。指先には微かに闇属性の魔力が滲み、その存在感は穏やかさの奥に確かな威圧を秘めていた。

 背筋を伸ばし、緩やかな微笑みを浮かべながらも、その瞳は鋭く、まるで本心を見透かすようにこちらを射抜く。


鍛錬部ガーディアン・フォージのリミュエール=セラフィーヌです。部の正式な認可と、部室の割り当てをお願いしたくて伺いました!」


 胸を張るリミュエール。生徒会長・クローディア=ローゼンベルグ伯爵令息は書類を手に取り、ゆっくりとうなずく。


鍛錬部ガーディアン・フォージの人数がそろったと……。しかし……現状、空いている部室はないな」


 その言葉に、リミュエールの拳がわずかに震えた。

 レオナートも小さく眉を寄せる。


「つまり……まだ認められない、ということですか?」


「認めないわけではない。部活動への昇格は問題ない。ただ……物理的に、割り当てられる部室がないのだ」


 リミュエールは真剣な顔で訴える。


「そんな……今の倉庫は、五人で鍛錬するには狭すぎます。何より、鍛錬部ガーディアン・フォージとしての誇りを守るために、正式な拠点が必要なんです!」


 その強い眼差しに、クローディア生徒会長は一瞬、目を細めた。


「それに……あの倉庫だが、近々移転する予定でね。取り壊すことになっている」


「な……!」


 そのとき、背後の扉が音を立てて開いた。


「──あら。奇遇ですわね?」


 声とともに入ってきたのは、鮮やかな紅髪を揺らすイザルナ=フレイアーク。

 艶やかな制服のスカートを翻し、冷たい瞳を細めながら兄、レオナートを見やる。


「……イザルナ」

 レオナートは思わず声を漏らした。


 生徒会長は紅い髪の新入生を見やり、口元に微笑を浮かべる。


「イザルナ・フレイアーク嬢」


「生徒会長…… 総合戦闘部アーク・ストラテジカの入部届を取りまとめて持ってまいりました」


「……今年もなかなか大勢の新入部員を獲得したようだな」


 イザルナから渡された書類を、生徒会長はぱらぱらとめくる。枚数の多さに、総合戦闘部アーク・ストラテジカの人気の高さがうかがえた。


「あ、そうだ。鍛錬部ガーディアン・フォージの部室問題……総合戦闘部アーク・ストラテジカの部室をわけてやってもいい」


「なんだと……?」


 レオナートが目を見開く。イザルナもまた、初耳だというふうに驚いた顔をした。


総合戦闘部アーク・ストラテジカの部室は何部屋もある。鍛錬部ガーディアン・フォージに、一部屋ぐらい貸しても構わないだろう」


 周囲の生徒会メンバーが、ざわっと小さくざわめく。


「そんな……!」


 会長は冷静に視線をイザルナへ向けた。


総合戦闘部アーク・ストラテジカ鍛錬部ガーディアン・フォージと同じ戦闘系の部活。部室の割り当ては、そこで決めればいいだろう」


 クローディア伯爵令息の言葉に、リミュエールの瞳が一層輝きを増す。

 イザルナは不満そうに唇を引き結んだ。

 会長はおもしろそうに目を細める。


「ただし……総合戦闘部アーク・ストラテジカは、今日が部活選択週間の最終日。模擬戦イベントが開かれると聞いている。鍛錬部ガーディアン・フォージの面々も参加してもらおう」


「ほう……?」


「勝てば、部室の一部を譲る。負けたら、総合戦闘部アーク・ストラテジカに吸収されてもらう。どうだね? おもしろいだろう」


「しかし……」


総合戦闘部アーク・ストラテジカの面々には私から言っておこう。生徒会長権限だから、拒否権はないがな」


 イザルナは好戦的な光を瞳に宿し、挑むように言い放った。


「いいじゃない。模擬戦に飛び入り参加してもらって。勝てるものなら勝ってみなさい! 負けるはずないもの、我が部の先輩方が断ろうはずもないわ」


 その瞬間、リミュエールの心臓が強く打つ。

 勝てば部室を手に入れられる。負ければ、総合戦闘部アーク・ストラテジカに吸収される。

 鍛錬部ガーディアン・フォージの運命をかけた戦いだ――!


 リミュエールは深く息を吐き、まっすぐイザルナを見返す。


「望むところだ。鍛錬部ガーディアン・フォージは、決して負けない!」


 レオナートはにやりと笑い、背後の三人は顔を見合わせた。

 倉庫で培った筋肉の底力を、今こそ見せる時だ――!




 ✩⋆。˚╰(°ㅂ°)╯・゚˚。⋆✩




お読みいただきありがとうございます♪

部室を巡るバトルが始まりました。


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