第十三章 選んだ明日

セイルは、静かにその夜を見つめていた。


風が過ぎ、月が雲の切れ間から覗く。

ギルドに潜入してからというもの、心の奥底にかすかな違和感が渦巻いていた。それが何なのか、自分でもわからなかった。


ただ、思い出されるのは、あの真剣な目だった。


晴彦の目――。


初めは、滑稽にさえ見えた。


魔法を使わず、便利グッズなるもので世を変えようという無能な男。


けれど気づけば、あの男の周りには笑顔が集まっていた。剣も魔法も使わずに、人の暮らしを少しずつ楽にしていく彼の姿は、セイルにとって異質で、不可解で――少し、眩しかった。


「お前も飲むか?」


グレゴールが無造作に差し出したマグカップ。中身は熱すぎず、冷たすぎず、心地よい温度で保たれていた。魔法ではない、道具の力だった。


「……ああ」

手にしたとき、ふと気づいた。こうして自分も、道具に助けられていたのだと。


リネアは、図面を手にあれこれと楽しげに動き回り、鍛冶屋の娘は失敗を笑い飛ばしながら、折りたたみ傘の改良を進めていた。


誰も彼も、魔法の有無で人を測ろうとはしなかった。


それが、心に沁みていた。


それでも。


セイルには“役目”があった。

魔法至上派の一員として、ギルドの情報を集め、時が来れば壊滅させる。それが任務だった。裏切れば、自分の居場所すら失われる。


だが、セイルは思った。


この人たちは、世界を壊そうとしてるんじゃない。新しくしようとしている。

その未来を、俺は見てみたい――。



そして迎えた、襲撃当日――


ギルドは、いつになく静かだった。

裏の丘の影から、黒装束の集団がぞろぞろと現れる。


「……ここだな」


「文明の牙城、潰すぞ」


魔法至上主義の襲撃班リーダーが静かに剣を抜いた――その瞬間。


\ズボッ!/


リーダー、落とし穴にハマる。


「お、おい!リーダー!? え、これ罠!?」


\シュバァッ/


つぎつぎに展開する縄のワナ・転倒トラップ・足元グリス(超すべる)

そして極めつけは――


\ポン!/


「な、なんだこの筒は……?」


\バシューン!!/


超強力ねばねば紙テープ発射装置(通称:びっくりホールドくん)で動けなくなる黒装束集団。


「ちょ、ちょっと待って!? 魔法使わせてくれない!? ずるいずるいずるい!」


そしてギルドの正面から現れる、堂々たる姿――


「ようこそ。歓迎のトラップでのお出迎え、いかがでしたか?」


満面の笑みで迎える晴彦。


その隣には、グレゴール団長率いる騎士団が仁王立ちしていた。


「敵対行動の証拠はすでにそちらの隊員が提出している」


セイル「……ど、どうも……スパイしてました……でも今は……その……ギルドの味方です……すいません……」


晴彦「いやー正直セイルくん、報告が完璧すぎて逆に怖かったよね」


グレゴール「むしろ優秀すぎて今騎士団にもスカウトしようかと思ってる」


リネア「最初ちょっと好きだったけど今ちょっと尊敬してる」


セイル「も、もうやめてくれ……///」



――襲撃の一週間前――


「は!? セイルさんがスパイ!?」


「えっうそ、ちょっと好きだったのに!」


「え!もうライトノベル的な小説貸してくれないってこと!?」


「……あ、ごめん真面目にショック受けてるの俺だけ?」


セイルは大事な話があると言って晴彦達を集め、自分の正体と今までの裏切りを詫びた。そして第二の襲撃計画の日がが迫っているということも……


「いやまぁ、そんな感じはしてた」


「絶対うそだ、グレさんけっこう鈍いもん。」


「でもさ! 情報くれたってことは味方でしょ!?」


「そーだそーだ!今は仲間だしな!許す!」


まさかの満場一致で許されるセイル。


セイル本人が一番混乱していた。


「……え、いいの? ほんとに?」


「だって君、“便利道具に感動してた”じゃん」


「いやまあそうだけど、今までずっと裏切ってきて君たちを陥れようとしてわけだし……」


「マグカップ初めて使った時感動のあまりちょっと泣いてたじゃん、そのあともギルドで超真面目に働いてたしね。あれもう仲間でしょ。」


ひととおりセイルのデモデモダッテをみんなで適当に聞き流した後、晴彦はただ真っ直ぐにセイルに向き合った。


「教えてくれ。襲撃計画のこと。防がなきゃならない」


その後、セイルからの情報を頼りに襲撃計画の対策を練った。


みんなであーでもないこーでもないといいながら、時にはぶつかり、時には助け合いながら、まるで一つの家族のように一致団結して対策を練ることができたのだった。


かくして一同は万全の体制で襲撃計画を迎え打つことができたのだった。

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